黄たまご

天国があるところ

どうしてそんなことを聞くんだろう。
そう思わせるくらい、小さい子どもってにわかにすごいことを質問してくる。
「なんで答えてくれないの?」とでも言いたげに、3歳の娘が瞳をまっすぐ向けてくるんだ。
こんなふうに。

「おとうさん、アリさんの天国ってどこ?」

「そうだな」
僕は湯気の上がるご飯茶碗の前に箸を置いた。ちょうど朝食の時間だった。
「お父さんが思うにはね」

そう言葉を継いでみたものの、答えられるあてなんてもちろんない。アリに天国があるってことさえ考えたことなかったから。どこでならアリは極楽気分なんだろう。アリの天国かあと、僕はぼんやり考えてみる。

「どこだと思う?」

娘は手にしたフォークをくるっとひっくり返して言った。

「アリさんはお空に上がっていけないから土だと思う。土がアリさんの天国なのよ」

「お空じゃないんだ」

つぶやくようにそう言って、思わずうなってしまう。
人もそうかもしれない。

本当の幸せとか。
本当の自分とか。
満たされたくて満たされないもの。
それはどこか手の届かない棚の上でお預けになっているんじゃなくて。

「ここが天国かもしれない」

眠れない夜に思い出そう。
闇の深さを忘れるから。

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