大嫌いなヨシくん
小学生の頃、私のクラスではダンボール迷路が流行っていて、机に乗るくらいの段ボールに端材をくっつけ、ビー玉を転がして遊んでいた。
私はその迷路が好きで、休み時間にはよく友達とそれで遊んだのを覚えている。
ヨシくんの作る迷路は特別人気がなく、もう印象も薄いことから、それほどのものだったんだと思う。
「俺の家には、めっちゃでかい迷路があるんだよ。」
ヨシくんの言葉を誰も本気にしてはいなかった。あまり喋ったことのなかった私も別に本気にしてはいなかったが、迷路好きということもあり、それだけが気になっていた。
ひどい嵐の放課後だった。カッパも着ないで家を飛び出した私は、カゴに入れたポテトチップスとずぶ濡れになりながらヨシくんの家へ向かった。信号待ちの際、拭いたまま敷いて座っていたタオルがサドルの上に見つからず、私は来た道を引き返した。別になってことのない青いタオルだったが、お母さんの顔を浮かべると、絶対無くしてはいけないような気がした。
結局見つからず、失意のままヨシくんの家に着いた。お菓子でも食べたのか、少しゲームをしてたのかあまり覚えていないけど、ヨシくんの家にあった迷路は人の腰くらいまであった。ビー玉の代わりにどんぐりを使っていて、自慢げに転がすヨシくんとそれを見て微笑むお母さんの姿は今でも覚えている。
私はその間中、ずっとタオルのことを考えていた。大切でも何でもないタオルのことを考え、それを無くしてしまった恐怖の中にいた。自分のお母さんに怒られるわけでもないし、誰かに迷惑をかけるほどのものでもない。それなのに、私は悲しさなのか悔しさなのか恐ろしさなのか腹立たしさなのか、ここに来なければよかったと思った。こんなくだらない迷路のためにタオルを無くすなんて、と思った。ヨシくんなんて、大嫌いだ、と思った。
帰り道、行きよりも強くなった雨の中、そのひどい迷路の中で、ひたすらタオルを探し続けていた。
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