聞こえなくなった祭囃子
祭りばやしがだんだんと大きくなっていく。
地元のお祭りは実に、コロナ災禍により3年ぶりに開催された。
参加企業は少ないが、人々は祭り装束に身を包み、家族と、友と一緒に跳ね上がり、久しぶりのお祭りに喜んでいた。
わたしは子供を連れて祭りを見ていた。子供は初めてじかに見るお祭りの熱気と喧騒に、目を丸くしていた。
「こんばんは、ぼく。ちょっといいかしら?」
どうやらテレビ取材のインタビューらしい。若いアナウンサーは私より先に子供に声をかけ、マイクを向けた。
「お祭り楽しい?今日はパパと一緒ですか~」
子供は恥ずかしそうに、私の影に隠れた。いきなり声をかけられて驚いたようだ。
「ごめんねー。じゃあお父さんにお話し聞いてみようかしら」
と、アナウンサーが私に声をかけようとすると、彼女はその笑みをひきつらせ、困ったようにスタッフをふりかえった。
わたしが泣いていたからだ。わたしは子供の手を引いて、祭りに賑わう光景をじっとみていると、なぜか涙がとまらなくなってしまった。
3年という長い期間、当たり前に毎年あったお祭り、仲間との、地域との絆、それが断たれて、いまやっとこうやって復活をした。胸を去来する思いがあふれて、思わず涙を流した。
「こうやってお祭りを開催できて、いま、どんなお気持ちでしょうか?」
アナウンサーもつられたように涙ぐんで、マイクを向ける。
「いえ」
そういって一息ついて、わたしは涙をぬぐった。
「お祭りね、本当に大嫌いなんですよ。よく知らないやつらが群れて意味のないことで騒いで、うるさい感じが。子供のころまつりにでてるのはたいていいじめっこでね、よく落ちてる鈴を無理やり拾わされて、つらいことしかなかった。せっかく祭りがなくなって静かになったのに、また始まってしまったという感じですね。」
そういってわたしは子供を抱き上げた。子供はスマホのゲームに夢中になっている。
「いらついてはらだたしくて我慢ならなくて、無茶苦茶にしてやろうと思いましてね。ここにきたんですが、なんか胸がいっぱいになっちゃってね。もう、どうでもよくなってきました。どこかわたしのいない遠いとこで、もしくは自分がとおくとおくに離れていれば、いんじゃないですかね。」
未成年の誘拐、器物破損、障害未遂。
子供の手をとっていないほうで包丁をにぎっていたわたしは、恐怖におびえるアナウンサーをしり目に、逮捕・警察に連行された。
未遂のため比較的早めに釈放された。警察署を出ると
「僕もお祭りきらい。あついしめんどくさいし、家でゲームやってたいよ」
と、そう話しかけてきたのは、祭り会場で手をひいた、名前もまだ知らない少年だった。
わたしは少年の手をもういちどひいて、とにかくどこか静かな場所に行きたいと思った。
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