kimura

文章書くのが好きな人です。読んでくださってありがとうございます。文章を書くのを仕事にしたいですだ実現できず全然関係ない仕事しています。お気軽に( ^^) _旦~~

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ねこすく ―ねこがきみを救う― 7話(完)

ぬこのいない日々  乾いた頬、割れた唇、隈の浮いた目、重そうに垂れたまぶた。くびをがくりと落とした先にあった水溜りは鏡のように、そんな彼女の顔を映していた。  昨日まで続いた雨がようやくあがった朝、はんなは反射する強い光に顔をしかめ、思わず肩を縮めた。初秋、所々に滴る雫に溶け込んだ冷気がぱちんぱちんと破れ、一気に溢れだしたような寒さが辺りを包んでいた。  彼女はさきほどまで急いでいた。いつものことだが時間ぎりぎりに家を出て、出掛けに家のカギを忘れて戻り、マンションのエレベー

    • ねこすく ―ねこがきみを救う― 6話

      決断    ここ数ヶ月の自身の行動について、わたしは大いに反省の弁を述べねばらない。とても重大なことを、わたしともあろうものがすっかり忘れていたのだ。それは人間というものは例外なく愚かな生き物だということだ。  その習性は光に群れる蛾に等しい。やさしもの、ここちよいもの、やわらかいものにふらふらと何の思慮もなく近づき、こわいもの、不快なもの、固いものには目もくれない。事物の表層だけで判断し、その深奥を見ようともしない。  わたしは人間にかまいすぎていた、優しくしすぎていたの

      • ねこすく ―ねこがきみを救う― 5話

        天元の黒  猫の齢二十年は、人間でいうところの百年に相当するらしい。  迫り行く老いというものと向き合い、あがき、苦しみ、戸惑い、落ち着き、挙止はさまざまあれど、最後にはやはり受け入れる。  わたしは老齢という僥倖に感謝しなければならないのだろうか。それとも生きる苦しみをうすっぺらい餅のように引き伸ばす神とやらのひげをひっかいてやればいいのだろうか。いや、もうそんな覇気もない。  はんなの家から徒歩数分のところにある、小さな庭一面に、隅が見えないほど雑草の生い茂るこの旧屋の

        • ねこすく ―ねこがきみを救う― 4話

          あっつい 「あっつい、もう死ぬ」  暑いのはわたしも同じである。しかもわたしは年中この極上の毛並みにおおわれているから、暑さは彼女らと比べても尋常ではない。 「エアコン壊れるとか、最悪」  彼女は下着姿のまま横になっている。窓がひとつしかない木造のアパートは風通しも悪く、残暑のおり、室温は30度を超えていた。これでは外の日陰のほうが涼しいぐらいである。と、わたしが老体に鞭打って外にでようとすると、彼女がしっぽをぎゅっとつかんで、そのままぐいとひっぱった。 「にがさないよ、ぬ

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          ねこすく ―ねこがきみを救う― 3話

          見慣れた駅のホームで    とある日の昼下がり、はんなは飽きるほど見慣れた最寄り駅のホームで、妙な新鮮さをあじわっていた。  いつもは会社に向かうのぼり電車だが、今日は下りのほうにいる。狭いホームを埋め尽くすスーツ姿の会社員たちがいないだけでだいぶ雰囲気が違う。満員電車に初めて乗ったときの衝撃は、田舎者なら誰もが経験することだろう。はんなはそんな光景を、今日だけは遠くに、自分に無縁のもののように懐かしく感じたかった。  灰色、乾燥、無味、空虚。はんなはときどき目をこする。人

          ねこすく ―ねこがきみを救う― 3話

          ねこすく ―ねこがきみを救う― 2話

          2話  わたしの年齢は今年で二十を越す。猫としてはかなり高齢である。彼女、椎木はんなの幼いころからの飼い猫であり、その縁もあって、こうして上京のときにも、本人たっての希望により一緒に暮らすこととなる。  理由はといえばそれまで田舎から旅行以外では出たことがない彼女の、さびしさをまぎらわすためとしかいいようがないのだろう。ときに彼女はわたしにそういう愛玩具的な役割以上を求めることがあり、わたしにはそれが少々うっとうしく思うこともあった。  さびしいなどと、人間が言う資格はないだ

          ねこすく ―ねこがきみを救う― 2話

          ねこすく ―ねこがきみを救う― 1話

          あらすじ  椎木はんなは就職のため都会に上京したが、慣れない都会の環境に苦労をしていた。一緒に上京した飼い猫の「ぬこ」(わたし)は言葉が理解できる猫だった。  ある日、心配した祖母がはんなを訪れるが、あいにく本人は留守で、ぬこがいるだけだった。田舎者の祖母も、慣れない都会まで苦労しながら、ようやくやってきたが孫娘に会えずにいた。ぬこはタブレットで祖母のメッセージをのこ、はんなに伝える。はんなは祖母のやさしさに涙した。  ぬことはんなは、慣れない都会で悪戦苦闘しながら生き抜い

          ねこすく ―ねこがきみを救う― 1話

          彼岸すぎごろ

          越智さんの子供が生死の境をさまよっている。 すぐ自宅前の、交通量の少ない通りだったが、越智さんがちょっと目を離したすきに子供は道路に飛び出していた。そこで車に引かれた。 当時の状況として、越智さんがものすごい衝撃音にふりかえると、子供の小さなからだが空中をふわりとただよい、地面にたたきつけられる光景が目の前で、あたかも劇場のようにくりひろげられた。あまりのことに、しばらくは茫然として動けず、何が起こっているかも理解できなかった。 子供は緊急手術を受けた。頭を強く打ち、脳に

          彼岸すぎごろ

          深夜に踏切が聞こえた日

          深夜、わたしはおもむろに窓を開けて、うとうとしながらそのときを待っていた。最初にそれを聞いてから数週間はたっている。かんかんかん…という、あの踏切のしまる音である。はるか遠くから響いている、かすかに、か細く、すぐにも消え入りそうな踏切の音を。 近くには線路も踏切もないので、どこか遠くでしまっている踏切の音が、静かな夜に、風にながされてかろうじてとどいた、ということだろうが、わたしには一つの疑問があった。こんな深夜に、そもそも電車は走っているか、ということである。 田舎なの

          深夜に踏切が聞こえた日

          生き泊まり

          わたしが子供のころ、実家は街はずれの住宅街にあった。 その住宅街は古い家がぽつぽつと点在している、いわゆる団地で、周囲には商店や会社のような、住宅以外の建物は一切なかったので、便利な立地とはいえなかった。 実家をでて、大通りに向かうのと反対側の道は、その住宅街の奥地になっている。進んでも見ず知らずの他人の家があるだけで、普段は行くこともない。散歩とか、回覧板をとどけるぐらいだろうか。さらに先にいっても行き止まりにあたるので、結局引き返すしかなかった。 行き止まり手前の道路

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          ルージャより愛をこめて(5)

          ジャイロは、本当に故郷に連れて行ってくれるのか、と聞いているようだった。とても頭のいい子のようだ。すくなくてもわたしよりも、彼にとっての外国語であるわたしの言葉を理解している。筆談やみぶりをまじえているが、彼の意志は不思議なほどよく伝わった。 ここからは便宜上そのまま会話を書いていく 「近いうちにここをでて首都を目指す」 とわたしは言った。ジャイロが一緒に来てくれれば、通訳や道案内になりそうだから、わたしにも都合がよかった 「なんで、わざわざ」 ジャイロはわざわざ危

          ルージャより愛をこめて(5)

          聞こえなくなった祭囃子

          祭りばやしがだんだんと大きくなっていく。 地元のお祭りは実に、コロナ災禍により3年ぶりに開催された。 参加企業は少ないが、人々は祭り装束に身を包み、家族と、友と一緒に跳ね上がり、久しぶりのお祭りに喜んでいた。 わたしは子供を連れて祭りを見ていた。子供は初めてじかに見るお祭りの熱気と喧騒に、目を丸くしていた。 「こんばんは、ぼく。ちょっといいかしら?」 どうやらテレビ取材のインタビューらしい。若いアナウンサーは私より先に子供に声をかけ、マイクを向けた。 「お祭り楽し

          聞こえなくなった祭囃子

          ルージャより愛をこめて(4)

          前回までのあらすじ 避難民のジャイロは戦場となった故郷に戻ると言い出した。 周囲が必死に説得をこころみているが、ジャイロは納得していないようだった。 彼の家族はこの避難所にも、周囲の施設でも保護された情報はまだ入っていなかった。戦火の中で生き別れてしまったようだ。 両親を心配する気持ちはよくわかる。しかし今は自分の身を大切にすべきだろう。故郷の町はすでに戦火にさらされていて、砲弾が飛び交い、略奪する兵士が徘徊している。もどっても両親が見つかるかもわからず、なにより彼自

          ルージャより愛をこめて(4)

          ルージャより愛をこめて(3)

          数日間、このボランティア団体の手伝いをするようになって、ふとわれに返った。自分は何をしているのか、と。 食料や衣料品の搬送、配布、整理など、わたしは昼夜をとわず働いていた。体を動かしていないと、異国の地で、どこか不安だったし、何かをしていないと、ずっとこの場にとらわれているような感覚に陥ることがこわかった。 かといって、自分のやるべきことは違うという葛藤もあった。 物資を輸送する避難所には、難民たちの声が飛び交っている。ときおり何か声をかけられたようだが、スマホで後で翻

          ルージャより愛をこめて(3)

          ルージャより愛をこめて(2)

          前回までのあらすじ 平和な国で生きる希望を失った中年が、だれにも知られない死に場所をさがすために、戦場へ向かう 現地の外国語どころか英語もろくにはなせなかったわたしは、当然なのだが現地についてから当惑することになる。 バスに乗ってみたが看板や時刻表も読めないので、適当に乗ったところ目的地とはまったく逆方向にいってしまって、そこからようやくのことで戻ってきたりした。そこからどうたらいいかもうわからなかった。そもそも間違っていたというのも正確な根拠からした判断だったのか、な

          ルージャより愛をこめて(2)

          ルージャより愛をこめて(1)

          突然のR国の進行により、世界は戦争という現実に向き合わざるをえなくなった。人々の多くは早期の終戦と平和を願うも、戦火に傷つき、困窮にあえぐ人たちは日に日にふえていった。 そんな状況に、思わずうすら笑みをうかべたのはわたしだけかもしれない。遥か遠くの戦争と、平和な場所で対岸の火事をながめていたわたしは、侵攻を受けたU国の傭兵募集の呼びかけに、心をふるわせた。 戦場にたって華々しい活躍をし、注目をあびたい …なんていう気持ちは全くなく、そう、あえていうなら、わたしは死んで悲

          ルージャより愛をこめて(1)