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コンビニに細長い蛍光灯は売ってない(前編)

今更年末年始の話だと…(´・ω・`)


2018年12月31日午後10時過ぎ…

世間が紅白やガキ使でにぎわっていたころ、わたしは暗い部屋でデスクライトをひとつだけ照らしながら、そんな喧騒には我関せず、本をよんだりゲームをしたりしていた。

と、デスクライトがぱちぱちと点滅しだす…

電源を何度か入り切りしてもすぐまた点滅しだす。だいぶ古いものだし、蛍光灯のはじが黒くなっているから、もう交換時期のようだ。

あとまわしだとめんどくさいので、年末の夜中にひとり、蛍光灯を買いに行くことにした。が、ない。3軒回ったがどこも売ってない。

コンビニに細長い蛍光灯は売ってない。これまめな。

年末年始の大雪で除雪がおいつてなく、特に歩道は足の踏み場もない。

しかたないのでアイスバーン状態の車道のはじをあるいていく。すぐそばを車がビュンビュン通っていく。ここで滑って転んだら、たぶん車に轢かれて死ぬな…と思いながら。

てか、なんで蛍光灯買うだけなのに、こんな命がけなんだ…

それにしても、1時間以上歩いているのに、深夜というのもあるが、まったく人を見かけない。

家々の明りもついてたりきえてたり。中には古そうな家屋が、周囲を一面新雪に囲まれているのもある。

いわゆる空き家問題というやつだろう。都心でも持ち主がなくなり、相続人がいなくなった家屋が廃墟化して社会問題になっている。

雪国では除雪する人もいないので、雪で建物が倒壊するという危険もはらむ。ボランティアか役所の人が除雪してるんだろうが、年末年始でさすがに手が回っていないようだ。

結局、蛍光灯は近所のスーパーで売ってたんだが、2本で900円…

うーん。2本はいらないんだよなあ…デスクライトなのでしばらく交換の予定もないし、どっかでバラ売りしてないだろうか、と往生際わるく別の店をさがす。

…だいぶ人通りのないところに来てしまったようだ。ぽつんぽつんと光るのは街灯の灯だけで、大半の家はすでに寝静まっている。きれいに除雪をしている家と、雪が積もったままの家が半々ぐらいだろうか。

家々が頭に、肩にそのまま抱く丸い雪は、人間が手をつけていない美しささえ感じられる。雪の白がかすかな街灯の光に、ぼんやりとした明るさを放っている。

まるでたったひとり、雪に閉ざされた世界に迷い込んだような気がしてくる。幻想的でさえある。ヒトがつくった家に、ヒトの手が入らない雪、どこか冷たい空気のように神経が研ぎ澄まされ、音や空気に敏感になっていく。

闇と、雪と、かすかな光、無数の星を頂くような空間が、自分の中でさっとひろがっていく。

と、どこかでかすかに、ざっざと雪をかくような音が聞こえてくる。時刻は23:30ごろ。もうそろそろと年明けの時間だ。

こんな夜中に雪かき?いったいなんで…

その家は平屋づくりの小さな家だが、一面こんもりとした雪のせいか、庭はとても広く見えた。

あたりの空気がきん、といっそう冷えた。白くなった吐息が凍り付いて、きらきらと幻想的に瞬いている。黒い雲の間にかすかに表れた月明りが、さすように降り注いでいた。

門構えから奥の家屋に通じる細い道だけがかろうじて除雪されていて、左右から迫ってくるように雪の壁がそびえている。いかにも除雪し始めといった様子だ。

その奥でひとりせっせと雪かきをしている、一人の男性がいた。年のころは中年で同い年くらいだろうか。

「こんな夜中に…年末に雪かきですか?」

「ああ、お騒がせしてすみません」

男性は丁寧にも深々と頭を下げた。とはいえ周辺は同じように雪に埋もれたままで住んでいる人もいなそうなので、近所迷惑という心配もないようだ。

話を聞くと、そのユキオ(仮称)という男性はお年寄りや不在の家の雪かきをボランティアとしてやっているらしい。普段は仲間が何人かいるのだが、年末年始でみんな休みのため、独りでやっていたんだとか。

「それにしてもなんでわざわざ年末に?年明けみんなとやればいいじゃないですか」

「いや、ちょっと雪が多すぎてね、家も古いんで倒壊が心配だったので、それに…」

 といってユキオは手慣れたように、さっとスコップを振り下ろす。柔らかな雪の下から、なにかきらきらと輝くようなものが出てきた…

つづく

#エッセイ #コラム #小説 #雪  


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