UEFAによるプロサッカー選手の栄養事情とガイドライン その1
近年スポーツ界隈で注目を集め始めているのがリカバリー理論です。
高いパフォーマンスを維持しつつ、いかにして長いシーズンを怪我なく乗り切るか。高い給料を貰ってプレーしている選手たちならなおさらです。なので世界中の研究機関がリカバリーガイドラインの作成に躍起になっています。僕の所属しているホワイトソックスでも色々試していますが、その話はまた今度にします。とはいえリカバリーに対する研究はリハビリやコンディショニングなどに比べて少し遅れ気味なのが事実です。選手にもよりますが個人レベルで色々試している選手も多くいるように思えます。ネットには色々な情報がありすぎて逆にどれを選べばいいかよくわからない状態ですね。多くの人が本能的に分かっていることは、身体にいい物を食ってよく寝るということです。なので今回は栄養に関した論文です。
今回は2019年にBritish Journal of Sports Medicineで掲載されたUEFAのエキスパート達によるグループ研究のレポートを紹介します。
この論文では2017年に31人で構成されたUEFAの研究チーム(研究者6人、フィールドベース医5人、両方経験者14人)の経験とリサーチに基づいた栄養学の理論、また選手たちの栄養事情の現状と未来の方向性についても議論しています。結構長いので数回に分けて紹介します。
今日紹介するのはこの項目です。
試合当日の栄養事情
サッカー選手のパフォーマンスにとって栄養のチョイスがとても大事です。具体的には食べ物のタイプ、食事時間、適切な飲料、サプリメンを摂るタイミングなどがあります。勝ち負けに対する金銭面の影響の様に、フィジカル面やテクニカル面でも選手たちに対する身体的ニーズ上がってきています。放映関係の事情により昔よりも試合開始時間に昼夜でバラつきがあり、トーナメントやレギュラーシーズンゲームでの移動時間と距離も増えています。多国籍の選手が集まるにつれて文化的な違いが食事に影響を与える機会も増えてきています。エビデンスを元にした情報も情報過多の今の世の中では正しい選択をすること自体が難しく、現在使われているRDA(1日あたりの推奨摂取量)も一般人をベースにして作らたので、プロサッカー選手に同じように当てはまるかの研究はまだ行われていません。
現時点浮き彫りになっている問題は1)現状のガイドラインはサッカー選手にだけフォーカスをした物なので、他のスポーツ選手のシチュエーションには当てはまらない。2)トップレベルの選手たちを含めた研究が行われてない。3)今まで行われてきた選手の食事を審査する方法はどれも科学的エビデンスがない。4)研究結果についてバイアスがかかっている場合が多く特にサプリについての研究はその影響が出やすい、などです。
試合当日の栄養事情とガイドライン
試合中ほとんどの選手はHR Maxが85%、VO2Maxは70%の状態が続きます。消費カロリーは1300〜1600kcalでそのうち炭水化物の燃焼率は60〜70%。2006年から2013年の間で平均的な選手の総移動距離は2%減少してる(10679±956 vs 10881±885m) ものの、高強度の運動距離と運動頻度はそれぞれ30% (890±299 vs 1151±337m) と85%(118±36 vs 176±46) と増加しているというデータがあります。ダッシュの距離と頻度もそれぞれ同じく増加~35% (232±114 vs 350±139m)と~85% (31±14 vs 57±20) していて、これはキーパー以外すべてのポジションで同じような傾向が見られているようです。テクニックや戦術の変化でパス回数とその成功率も増加(83%±10% vs 76±13%) 。女子選手の場合は走っている距離は男子選手とほぼ一緒だけど平均スピードが若干低いようです。距離が同じで速度が低いなら、走っている時間は少し長めになるこということなので、消費カロリー量は変わってくるかもしれませんね。
試合のための準備:炭水化物と水分
アスリートにとって一番大事な炭水化物の摂取量は試合開始48〜72時間前に体重1キロにつき6−8グラム(6-8 g/kg BM)。デンマークの研究でわざと炭水化物を低めに摂取したサッカー選手は試合中フィールドをカバーする距離と速度が著しく低い(特に後半)ことが分かっています。現状では一般的なプロサッカー選手の炭水化物摂取量は推奨量よりも大分少なく大体4g/kg BMとなっています。水分の摂取ももちろん大事な要素で、日頃の体重チェック、喉の乾き具合、尿の色、尿の浸透濃度・比重を目印にすると良いらしいです。尿の浸透濃度は<700mOsmol/kgで、比重は<1.020。デーゲームの場合は前日にこのチェックをする必要がある。一般的に指標とされるいわゆる喉の乾きはあまり当てにならない。手段は色々ありますが実践的なのはやはり尿の色でしょう。
試合前
試合前の軽食は3〜4時間前に炭水化物を1−3 g/kg BM摂ると良いそうです。肝臓のグリコーゲンはたった一晩の絶食で50%減ることもあって、これが減っているとパフォーマンスが低下する恐れがあります。特にデーゲームの場合は注意してモニターする必要があります。とある研究で試合開始135分前にそれぞれ500kcalと300kcalの食事(60%が炭水化物で構成)したグループのドリブルスピードを比較した時に500kcalの方が優位だったという報告があります。水の摂取も試合開始前2−4時間に5−7mL/kg BMを目標にすると良いでしょう。
試合中
研究では運動中に毎時〜30−60g、もしくはウォームアップ後とハーフタイム中に60gに糖分を摂ると良いとされています。しかし激しい運動中の糖分摂取は消化器官にかかる負担も大きいという研究者もいます。そんな時は糖分の入った飲料で口をすすぐだけでもある程度パフォーマンスに効果があるというデータもありますが、実際に飲むほうがいいそうです(そりゃそうだ)。試合中の発汗率は人と環境によって変わりますが一般的には毎時0.5ー2.5L程度で、体の面積が総合運動量が比較的小さい女性の方が発汗率が低いです。プロの選手達もウソかホントか試合中に足がつって転がっている場面をTVでよく観ます。
試合後
試合後の目的はリカバリーなので、試合後4時間の間に炭水化物を~1g/kg BM摂ると良いそうです。とはいえ試合日程が逼迫してるとフルリカバリーは難しく、そういった場合は基準値より多少多めに炭水化物を摂取する必要があります。プロテインは~20-25gを3−4時間間隔で摂っていくと良く、睡眠前にプロテインを30-60g摂ると睡眠中の蛋白結合が促進されるというデータもあります。運動後すぐのプロテインドリンクやチェリータルトジュースを飲むとある程度回復に効果がありますが、最近の研究の結果ではその効果はさほど大きくないという研究者もいます。運動時に発生するフリーラジカルを減少させるためにビタミンCとEを大量に摂取することは筋肉のストレスへの対応能力を奪う可能性があるので勧められないそうです。
アルコール
当たり前だとは思いますが、一般的に選手による酒類の摂取はあまり勧められていません。一日2unit以内であれば害はないものの、肝臓でのグリコーゲン生成、プロテイン生成、水分の再補給を阻害する恐れがあります。2unitが分からなくて調べてみると、アルコール度5.5%のビールなら大きめの缶一本(440ml)だそうです。ちなみに 大量の摂取は次の日のパフォーマンスや免疫システムの低下を招くという研究結果もあります。僕もビールは一日2本くらいに抑えてます。飲んでも飲まれるなの精神を大事にしたいです。
続きはまた今度。