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vol.2 ただの英訳はNG!英語メニューのポイント5つ

 海外からのお客様向けにメニューを用意する場合、「ただ英訳すればいい」のではありません。相手が日本食に対する知識・経験がないことや、相手の宗教、嗜好、食物アレルギー、習慣、文化等を理解しようとすることが大切です。とは言え、全てを熟知する必要はありません。
「日本人とは違って、海外には色々な人がいるんだな」
という広い視野を持っていただくだけで最初は十分です。日本人だけに通じるやり方を押し通すのではなく、海外のお客様に目線を合わせて少しずつ改善していく。そうすれば、海外からのお客様の来店は確実に増え、皆さんの中に知識が蓄積され、今よりもっとお迎えすることが楽しくなりますよ。

Point❶ 料理の写真を載せる

 料理の写真がどれだけ重要かは前章でお伝えした通りですので、ここでは割愛します。写真さえあればどんな料理かある程度理解できますので、必ず入れましょう!

Point ❷「日本語でどう発音するか」を英語で載せる

 こちらは日本語や日本文化に興味をお持ちの方にとても好まれます。特に欧米の方は「せっかく異国の地に行ったのだから、少しでいいのでその国の言葉を知りたい(その国の文化を学びたい)」という気持ちを強くお持ちの様です。

 私がネバダ州に住み始めた2002 年頃、アメリカでは日本食ブームがじわじわと広がっている最中でした。特にお寿司人気は爆発的で、街にいくつもあるお寿司屋さんはいつ行っても満席状態でした。私もお寿司は大好きなので、並ぶことを覚悟で、街で 1 番人気のお寿司屋さんに行ってみると...... 驚く光景を目にしました。それは、アメリカ人がお寿司を注文する際、「tuna」や 「salmon」ではなく、「maguro」や「sake」と、日本語を使っていたのです。ガリですら「ginger」ではなく「gari」と言う方が多かったのには衝撃を受けました。さらに、一体どこで覚えたのかはわかりませんが、皆さん上手にお箸を使っていたのです。

 この様に、せっかくの機会だから他国の言葉や文化を体験したいとお考えの方は、私たちが想像している以上に多いのです。英語のメニューを作成する際は、「とんかつ(tonkatsu)」や「牛丼(gyudon)」の様に、日本語での読み方も入れましょう。

Point❸ 日本人の「当たり前」は通用しない!

 ここからは日本語のメニューを英語に翻訳する際に気を付ける点をご紹介します。詳しい内容に入る前に、まずは日本語と英語メニューの大きな違いをお伝えしたいと思います。

 そもそも、日本語メニューは日本人向けに作ったもので す。つまり、詳しい説明を書かなくても、日本人であればなんとな~くわかるという物がたくさんあります。例えば、コース料理に出てくる「小鉢」や、和食店でよく見かける「和え物」。「小鉢」と聞けば、何となく「小さめの器にお野菜や海の物が入っているのかな」と想像できますし、「和え物」も「出汁やごまを使って、野菜や魚介類を混ぜたものかな」と思いつくでしょう。

 なぜこのような想像ができるのでしょうか?それは、過去の経験があるからです。スーパーで売っているお惣菜コー ナーで「和え物」を見つけたり、定食屋や会席料理屋で食べた「小鉢」を覚えているので、それがどんな食材を使っていて、どのように調理されて、何の調味料で味付けされているのか、大体想像がつきます。しかし、海外からのお客様にはそのような経験がありません。よって、経験から生まれてくる想像力がないに等しいことになります。そうなりますと、「小鉢」や「和え物」をそのまま英訳してメニューに記載しても、「何の小鉢?」「何と何を和えたの?」と、まるで伝わらないのです。

 せっかく英訳しても、伝わらなければ英訳していないことと同じになります。写真があれば伝わるかもしれませんが、 写真がない場合や小さくて見えにくい場合、「?」なメニュー を頼もうとする好奇心旺盛な人は、恐らく少数派でしょう。
せっかく時間やお金を費やしてメニューを英訳するのであれば、伝わるメニューを作りましょう!

Point ❹「調理方法」を英語で載せる

 英語でメニューを作る際に調理方法を入れることは必須です。 居酒屋で定番の3つのメニューを例に挙げてみます。

枝豆= edamame(Boiled green soybeans)※枝豆は海外でも有名なので、edamameと記載してから詳細を書いた方がいいでしょう。
からあげ= Japanese deep-fried chicken
※fried chicken だけだと、ケンタッキーフライドチキンの様な骨付きのお肉を想像するので、 Japaneseを付ける方がいいでしょう。
ししゃも焼き= Grilled shishamo smelt
※詳細は次でご説明します。

 多くの場合、英訳する料理名は調理方法から記載します。上記の様に、Boiled(茹でた)、Deep-fried(揚げた)、 Grilled(焼いた)という調理方法を入れることが鉄則です。 なぜ鉄則なのか、再度日本と海外のお国事情について、お伝えしたいと思います。

 日本に住んでいる人の大半は日本人の両親から生を授かり、日本で生まれ、日本で育った生粋の日本人です。 しかし、海外ではそうではないケースが多いです。

 例えば、アメリカは「移民の国」です。南米やアジア、ヨー ロッパやアフリカから多くの方が毎年移住してきます。特に、私が住んでいたネバダ州やお隣のカリフォルニア州はメキシコに近いため、「ここはメキシコですか?」と思うほど、学校内や職場のあちこちでメキシコ人を見かけまし た。もちろん、メキシコ以外にも日本、中国、インド、フィリピン、ブラジル、ポーランド、ケニア、イギリス等、出身は本当に様々で、アメリカ生まれ・アメリカ育ちの人の方が少ないのではと思うほどです。国が違えば言語や文化も様々ですので、「これは知っていて当然でしょ」という常識が通用しないケースも多々あります。そうなると、仮に現地の人間にはなじみの深い料理だったとしても、他国から来た人にとっては、その料理を知らない可能性も大いにあるのです。よってアメリカでは、メニューには調理法と食材を書き、 誰が読んでもどんな料理かをある程度理解できるようにしているのです。

 例えば、前のページでご紹介した「ししゃも」。それをそのまま英訳するとshishamo smeltになります。日本人の感覚で考えれば、「ほぼ間違いなく焼いているだ ろう」という予測ができますが、先述の通り、海外の方にはこれまでの経験がないので、「焼いてある」という知識がありません。そうなると、「これは生で出てくるの?」という疑問を抱 いてしまう可能性があります。相手がどんな国の方であれ、 誰もが理解できるような料理を紹介することが、英語のメ ニューを作る第 1 歩です。ですので、仮に日本語メニューに は「ししゃも」としか書いていない場合でも、英訳する時は Grilled を付けるようにしましょう。

 更に、日本人にとっては「知っていて当たり前のこと」が、 海外の方にとっては違っていたという、面白いエピソードを紹介します。コンノナナエさんの『国際結婚のすすめ』(講談社)とい う漫画に出てきた、実際にあったお話です。ナナエさんはアメリカ人の夫・ティムさんを連れて、日本 に帰ってきました。ティムさんは The・アメリカ人というような、絵に描いた様なお肉大好き人間。ナナエさんは、「ティムはきっと焼肉屋が気に入るはず!」と楽しみにしていまし た。しかし、何度焼肉屋に連れて行こうとしても、ティムさん は「イヤだ」と拒み続けます。ナナエさんは「どうして?ティムの大好きなお肉だよ?」と聞きました。するとティムさんが答えたことに衝撃を受けました。「だってこれ、生で食べるんでしょ?僕は生のお肉なんて 食べたくないよ」そう、ティムさんは焼肉屋の看板に載っている、生のお肉の写真を見て、「生肉を食べる場所」と勘違いしたのです。日本人の私たちからすれば、「いやいや、そもそも焼肉って書いてあるじゃん !?」となりそうですが、日本語を知らないティムさんは、焼き= Grill という意味を知りません。写真が生のお肉なので、生のまま食べるという風に受け止めたのですね。

 このように、私たち日本人には当然のことを海外の方は知りません。ですので、英語のメニューを作る際は調理方法を入れることが必須なのです。

Point ❺「使用している食材や調味料」を英語で載せる

 海外からのお客様の中には、宗教やアレルギーにより、ある特定の食材を口にすることができない方が多くいらっしゃいます。そして、(くどいようですが)日本食に対する知識や経験をお持ちではない方がほとんどですので、日本人の様に「この料理にはおそらくこういう食材が使われているだろう」という想像ができません。
ですので、調理法の後にはどんな食材を使っているかも必ず記載しましょう。

 日本人のほとんどは宗教による食の制限がありませんし、 食物アレルギーをお持ちの方も少数派ですので、具体的にどんな食材を使っているか、気にする方は少ないでしょう。しかし、海外からのお客様の中には豚肉を食べないイスラム教徒や、動物性の食材を口にしないベジタリアン、食物アレルギーをお持ちの方が多くいらっしゃいます。その方々は、料理の中にどんな食材が使われているかを非常に気にされますし、そもそも口にしない(できない)食材が入っている料理は注文しません。もしメニューに食材の記載がない場合、お客様は気になる料理全てに対して、「この中には○○が入っていますか?」 とお店のスタッフに注意深く質問していかなくてはいけません。そのような手間を取らせてしまっては、お客様は心配で料理を楽しむどころではないでしょう。ですので、例えばお肉であっても meat ではなく、牛なら beef、豚なら pork、鶏なら chicken と、必ず使っている食材を明確に入れるようにしましょう。
食材を入れることで、お客様に安心をお届けできるのです。

「からあげ」の例 Japanese deep-fried chicken
(Karaage)
chicken breast, flour, soy sauce, sake, garlic, ging

いかがでしょうか?
次回は視点を変えて、忘年会シーズンの飲食店の課題「人材不足」解消方法についてお伝えします!


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Profile:内木美樹(うちき・みき)
株式会社華ひらく 代表取締役
飲食店専門の英語講師/飲食店インバウンドコンサルタント/インバウンド接客セミナー講師/ライター

1982年横浜生まれ。
高校卒業後、アメリカのTruckee Meadows Community Collegeに留学。
卒業後、ネバダ州にあるカジノで有名な国際ホテル Peppermill Resort Hotel にウエイトレスとして勤務。
職場には日本人が一人もいない環境の中、マネージャーから「No. 1ウエイトレス」と称される。

帰国後、2010年に株式会社華ひらくを立ち上げ、飲食店に特化した接客英語レッスンを展開。
どんなに英語が苦手な人でも、半年で接客英語がペラペラに話せるようになる独自のメソッドを開発。
「実践練習が多いので自信につながった」「外国人客の来店が楽しみになった」と受講生から高い評価を得ている。

「No Fun, No Gain(楽しいから成長できる)」をモットーに、常に笑顔と笑いの溢れるレッスンを心がけている。上場企業や老舗有名店等取引先多数。
外国人客にも笑顔で堂々と接客できる飲食店を増やし、日本のファンを世界中に増やすことをミッションに掲げている。
大学での授業や商工会議所でのセミナー等幅広く活躍中。
ラジオや新聞、テレビなど、メディア出演多数。
2児の母。趣味はシルク・ド・ソレイユを観に行くこと。

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