寄り添って、生、感謝
冬のエアコンは乾燥する。めいこは今年の冷え込みに驚きながら、帰宅してすぐさま暖房モードになったエアコンをつける。本当は、石油ストーブがいい。あの独特の灯油の香りはどこか安心感があって、部屋の温まりも体を芯から温めるものだから。だが火気厳禁、賃貸住まいには夢のまた夢。
めいこは幼い頃に石油ストーブで、自分の髪を焦がして遊ぶのか好きだった。髪が焦げるもなんとも言えない嫌な匂いがして、それがまた背徳だったりした。
背徳といえば、それは、どこか正しくありたい、そう思う気持ちに反して、破滅的なものに憧れる感情に近い気がする。めいこは最近、自分がその破滅的なものへの憧憬を人より持っていることを知った。
例えば刃物をもって、それを自分に向けてみたり、ホームから落ちることを想像してみたり。
でも、とめいこは思う。
破滅は動であり、それに憧れる自分の今は静、あるいは凪なのかもしれないと。だから動的なものに突き動かされ、痛みや死の疑似体験から生の快感を、喜びを味わうのだ。
めいこはまた、包丁を逆手に持って、己の腹に向ける。
「ああ、生きてる…!ありがとう!」
周囲から見れば狂い、死にたがりな女は、それでも生に喜びを見い出す。
生きたがりな死にたがり。
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