【青い血が欲しい】
「…っつ」
白い紙が指の皮を裂き、夏海は自分の赤い血を見る。
新鮮で、空気に初めて当たった、処女だった血。
処女をすてた日、
いや、捨てても、棄ててもいないや。
やわらかいマシュマロのようなふわふわの上で、私の処女は融けていったんだ。
永いこと寄り添った仲間を失って、初めは気づかなくて、
お菓子をすべて食べ終わった後に残る寂しさのように、
あれをほんの少し偲ぶ気持ちが代わりに残った。
処女溶解のあと、
何だか変わった。
あれに付きまとっていたとげとげした、あるいは張り詰めた自衛本能も、
どこかに消えていった。
…どうしようもなく、女になってしまったからなの?
あらがうのではなく、その勝てるはずのない腕力に、
私はおもねるのかしら。
抱いていた嫌悪感は薄れ、
抱かれた自分は女性に目覚めてしまった
何かを裏切ってしまったような、
ー何かは幻でー
陽炎のようにつかめない裏切りの罪責。
夏海は指を伝う数滴分の血をなめる。
おいしい、
ふわふわについた少量の血や、
個室で定期的に目の当たりにする血とは違って、
この血は女じゃない、ただただ純粋な血だ。
絆創膏なんていらない。
このピュアな血が全身をつつみこんで、浄化したれ。
バラのように真っ赤になって、またあの棘を取り戻せ。
なのに、
ふわふわの中でもぞりと何かが動いた。
じんわりと夏海の体内で愛しさがこみ上げる。
陽炎の罪責は一度姿をくらます。
夏海は一刻も早く、マシュマロを食べたくなって、
やっぱり絆創膏を指に巻き付ける。
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