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着物から始まる会話。世代も国籍も超える、軽やかに

ロンドンを起点に、世界各国の最先端の情報を発信するフリーペーパー「タイムアウト」。現在は、315都市58か国、13言語で展開中のグローバルブランドです。
日本版「タイムアウト東京」で副代表を務める東谷彰子さんも着物を愛するおひとり。

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夏の江戸小紋を纏う東谷彰子さん。モノトーンの組み合わせに、蛍光グリーンのような鮮やかな発色の帯揚げをアクセントに。

大学時代、着物で接客する懐石料理屋でアルバイトをした彰子さん。動機は「着付けができるようになりたい」でした。多い時は週に4回のシフトを入れ、計画通り、着物も着られるようになります。
しかし大学を卒業後、マスコミの世界へ入ると、ハードな職場環境で生活は一変。家に帰る時間もままならない毎日で、着物を着る余裕は一切なかったと言います。
その後10年を経て、タイムアウト東京を手がけるORIGINAL Inc.に転職。現在では海外の人たちとの交流も多く、仕事でも着物を着るようになりました。

理想の着姿を身体が覚えたあの日。着付けはプロに委ねることに

しかし、ご自身で着ることはないと言います。

「着付けを忘れたわけではありません。ただ、着物に触れなかった10年間のおかげで、自信がなくなってしまいました。4年前の息子の七五三も着付けをお願いしたんです」

そこで彰子さんは、理想の着姿に出会います。

「この日は着物家の伊藤仁美さんに着付けをお願いしました。彼女の着付けはすべてが完璧でとても美しかった。まさに理想の着姿だと思いました」

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七五三では二人とも着物姿で。彰子さんに甘えるようにして顔を覗き込む息子さんの姿も愛らしい一枚です。

半衿の見え方や裾の長さ、帯の位置のバランス……。ちょっとした差が大切であることを彰子さんに教えてくれたのです。

苦しいのではなく、着物を着るってこんなにも心地がいいのだ、と。

「何がベストかは人それぞれ。例えば洋服なら、キレイに体型を整えて着たいという人もいれば、ただ好きなファッションを着ることが嬉しい人もいます。
着物も同じように、人それぞれの考えがあります。私は着付けの技術で着姿に差が出ると感じました。そしてその技術によって、見栄えが変わることを体験しました。
理想の着姿を知ってからは、自分で着て着崩れを心配したり、帯の形に不安を持ったまま1日を過ごすよりもプロに任せ、心地よくその日を過ごすことを選びました」

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彰子さん(写真右)の隣で微笑んでいる女性が、理想の着姿を表現した伊藤仁美さん。友人のカフェで、1日店長を一緒に。

「そしていつか、自分で着られるようになれたらと思っています。今は仕事が忙しいので、着付け教室はもう少し時間に余裕が生まれたら通うつもり。少し先のお楽しみにしています」

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旅先でも着物を持参。写真は2020京都の節分にて。まだ寒い季節でしたが、暦の上では春なので鶯色の着物で季節感を出しました。このときお願いした着付師さんからは半襟テープの使い方を教わったそうです。その土地の着付けのプロとの出会いも楽しいと教えてくれました。

着物はビジネスでのコミュニケーションツールに

「外国の方々は、会議後に会食がある日は、一度ホテルに戻り、シャワーを浴びてドレスアップしてから来るんです。最初の年にそれを目の当たりにしたときは、恥ずかしい気持ちになりました。それと同時にかっこいいとも思いました。
ドレスアップをして会食に参加するという姿勢や気持ちが、すごくスマートでおしゃれだなと思ったんです」

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タイムアウト東京のイベントにて。この日は外国人スタッフも着物姿で対応しました。(彰子さん:右から3番目)

「そんなときこそ着物の出番。ドレスやワンピースもいいですが、私たちは欧米の女性のようなメリハリのある体型ではありません。彼女たちと張り合うわけではありませんが、私が自信を持ってその場に立てるのは、やはり着物です。日本の民族衣装である着物を着ていると、海外の人たちからの反応がとてもいいし、花鳥風月が表現された着物からは会話もたくさん生まれます。何より私自身も着物を着ると幸せな気分になるので、まさに一石二鳥です」

思えば昔から着物はコミュニケーションツールだった

彰子さんの着物好きはお祖母様の影響が大きいようです。

「小さい頃から祖母の着せ替え人形状態でした。成人式で誂えてくれた振袖は、白地を染めることから始まりました。祖母は私に「なに色がいい?」と一応は聞いてくれたのですが、まったく採用されませんでした(笑)。とにかくこれまでにないほど祖母が張り切っていたのを覚えています。
私が息子の七五三で着ていた色無地も祖母が見立てたものです。私は紺がいいと言ったはずなのですが、いざ染め上がりを見たら薄紫色! 初めて見たときは、(これ誰が着るの……)と思ったのですが、今ではこれから先もずっと着られるなと思いますし、奥行きのあるいい色だと感じています。
祖母が飽きたら濃い色に染め直しができるから、最初は薄い色で作った方がいいのよと教えてくれました」

今でもお祖母様と連絡を取り合い、きものの相談をしているそうです。成人してもなお、孫が連絡をくれたなら……。着物の世界を教えてくれるお祖母様も、幸せを噛み締めているのではないでしょうか。

世界各国の人たちと、そしてお祖母様と。これからも着物は国籍や世代の壁を軽やかに飛び越えるコミュニケーションの架け橋として、彰子さんの側に寄り添い続けていくに違いありません。


Personal data:2
東谷彰子さん(43歳/経営者)
きもの歴:43年
タイムアウト東京
Instagram/@akikotoya_


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