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広がる着物の輪。子どもの卒業式、クラスのほとんどの母が着物で出席するまでに

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幼いころのりょうさん(右)。お茶の先生だった母に、よく着物を着せてもらっていたそうです。

着物は母が着付けてくれるもの

幼少の頃より着物が好きだったりょうさん。
成人後も、友人の結婚式や大学の卒業式に振袖で出席していた彼女が結婚し、子供を授かった後も、お宮参りや七五三などお祝いの席で着物を着ることは、ごく自然のことでした。
子供のころからずっと、着物は母が着せてくれるものでした。

長男の七五三の着物を探していたある日、インターネットでアンティーク着物を扱う「ICHIROYA※現在は閉店」でアンティーク着物の色彩の豊かさ、刺繍の美しさに出会いました。お手ごろな価格でこんなにも素晴らしい着物を求められるということが、彼女の着物熱をさらに上げました。

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末娘のお宮参りにて。白生地で縫った初着に、りょうさんの着物を着ています。 息子さん2人はアンティークの祝い着。

以来、気に入ったものを少しずつ集めるように。
長男や次男の祝い着、そして末娘が生まれてからは、女の子のアンティーク着物の世界をたっぷりと堪能。加えて、自身のきものや帯……。

お宮参りも七五三も、りょうさんはこれまで同様、母に着せてもらい、着物ライフを楽しんでいました。車で30分ほどの場所に住んでいる母がいたら、いつでも着せてもらえます。それでもいつかは教えてもらおうと思っていたそうです。

しかし平穏な日常の中で、お母様の病気が発覚。突然の闘病とお見送りが彼女を襲います。

それは長男の小学校卒業式目前でした。当然、母に着せてもらう予定だった卒業式。着物が着られないことが、母の不在を強調するかのようで余計に辛く感じていたある日、

「りょうちゃんも着付け教室に行かない?」と友人からのお誘いがきっかけで、週に一度、市が運営する着付け教室へ通い始めます。

もともと着物は身近だったこと、自宅でも練習した甲斐もあり、二度目の講習後には自分で着られるようになりました。

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インターネットのアンティークショップ「ICHIROYA」で求めた振袖で、七歳のお祝い。お隣の庭にある恐竜に乗ってご機嫌です。着付けはりょうさん。見様見真似で飾り結びまで完成。

自分で着られた瞬間から広がり始めた着物の世界

「私にとって着物が着られるようになったことは、ただ嬉しいという気持ちだけではなく、すごく大きな意味があるんです。何かをほんの少しだけ乗り越えることができたというか。

着付け教室を修了する際、先生へのお礼の手紙の中で、母のことを含め、自分の心情を綴りました。先生からのお返事には、“着物は身体を包んでくれるから、優しいのよね”と。本当にその通りだと思います」

りょうさんは、お母さんが着せてくれていた着物を、自分でしっかりと着られるようになりました。

「今では、コンサートや落語、映画鑑賞の他に、友人との集まりや家族で外食、子ども達の参観日や保護者講演会、音楽会などの学校行事にも着て行きます。年に数回のイベントも、着物を着ることでさらにお楽しみが増すんですよね。

例えお出かけがなくても、着たいと思えば家でも着ています」

りょうさんにとってハレの日の装いだった着物。自分で着られるようになったことで、着物はもっと身近に、そして日常に幸せをもたらす衣類になりました。

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次男卒業式にて。りょうさんの色無地は淡いレモンイエロー。彼女の大好きな色です。

そして母や祖母が織ったり、縫った着物、着ていた着物を着ることで、洋服にはない喜びがあると言います。
「時間と技術をかけ、丁寧に作られたのに、ずっと袖を通されずに眠っていた着物を自分が生かせることがとても嬉しいです。また、体型に制限されず色や柄を楽しめること、色合わせ、柄合わせも楽しいですよね」

彼女は今もなお、上質な自然素材が新古品や未使用中古品として安価に入手できるネットショップを楽しんでいます。前述の「ICHIROYA」のほか、「くるり」「KIMONO MODERN」「居内商店」や「ヤフオク」などは頻繁にチェックしているとか。

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この春、高校入学を迎えたご長男と。りょうさん家族の歴史には、常に着物が寄り添っています。

フルタイムで働きながら子育てをする女性にとって、実店舗が閉まる時間帯こそ唯一ホッと息がつけるフリータイム。お茶を淹れ、もしくはお酒を飲みながら気軽に自由にショッピングが楽しめるインターネットはやはり不可欠な存在です。

「りょうちゃんの着物神経衰弱」

また、定期的に着物雑誌を買うという彼女。気に入ったものは切り抜いてスクラップしています。ここで驚くべきは、彼女の記憶力。雑誌などに載っていた着物の写真を覚えていて、着物仲間と雑誌をめくりながらおしゃべりしている最中に、「この着物素敵だよね、○年前のあの雑誌にも載っていたんだよ!」ということが多く、着物仲間からは“りょうちゃんの着物神経衰弱”と呼ばれていると教えてくれました。

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元気いっぱいの末っ娘は、お庭の小屋に着物で登り、屋根の上へ。りょうさんは危ないよとか着物が汚れるということは一切言いません。

とてもおおらかな人柄で包容力のあるりょうさん。着物に関してもその性格が顕著にあらわれています。学校行事で着物をきていると、同級生のお母さんに着物に関する相談を持ちかけられるように。

彼女の回答は、「大丈夫だよ」「いいじゃん、素敵だよ」「何の問題もないと思うよ」とほとんどが肯定的。何人の女性が、りょうさんによって高いはずの敷居を低くしてもらったことでしょう。そして彼女によって、着物の輪はどんどん広がり、小学校の卒業式ではクラスのお母さんのほとんどが着物で出席を果たします。

「着付けに行ったお母さんもいたけれど、着られない人は当日我が家に集まって手解きをしながら着ました。みんなすごくいい顔をしていて、私も嬉しかったです。子ども達の写真より、お母さん同士で撮った写真の方が多いかもしれません。笑」

なぜ、りょうさんのクラスのお母さんたちは着物を着たのでしょう。

例えば幼い子が大好きで始めたことに対して、大人が「これはダメ」「それは間違っている」と注意ばかりしていたら、果たしてその子は楽しい気持ちで何かに向き合うことができるのでしょうか。

りょうさんのように「いいじゃない」「素敵」「大丈夫だよ」と肯定的に向き合ってくれたら、もっともっと好きになる気がしてなりません。

りょうさんのような着物警察がたくさんいてくれたら、もしかして街には沢山の着物美人が増えるのではないでしょうか。

子供の学校行事やお祝いに、そして仲間と着物の話題で盛り上がったりお出かけを計画したり……。りょうさんから始まる着物の輪は広がる一方です。

Personal data
りょうさん(49歳/会社員)
きもの歴:子どものころは七五三、お正月に。成人してからは、友人の結婚式ほか、大学卒業式に振袖を着用。約4年前に自分で着られるようになってからは、フォーマルな場だけでなく、日常でも積極的に。

「着物リアルクローズ」取材時の交通費などに充てさせていただきたいと思います。もしご興味を持っていただき、サポートしていただけたらうれしいです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。