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【論文】映画『JOKER』は何故世界的な人気を博したのか

学校の課題で「小論文」なるものを作ってみようというものがありまして、この論文はその課題として書いたものです。個人的にはよく出来たかなと思ったので投稿してみようと思った次第です。
中の人はまだまだ青い高校生なので、文章が拙い部分は目が当てられない程多くありますが、まぁ暖かい目で見守って頂ければ幸いです。

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1.序論
 2019年、4月に公開したMARVELのヒーロー映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、『アバター』を越え歴代世界興行収入第一位という歴史的な記録を打ち立て、ヒーロー映画というジャンルは世界に更に大きく広まった。
そして10月初旬、ある1つの新たなヒーロー映画が現れた。トッド・フィリップス監督作品、DCコミックス原作の『JOKER』だ。他のアメコミ映画とは一線を駕す独特の作風は世界に大きく名を轟かせ、第76回ヴェネチア国際映画祭では、最優秀作品賞にあたる「金獅子賞」を獲得した。
ここまで爆発的なヒットを記録したのは、アメコミ映画においても史上類を見ない。この映画には、人を惹きつける「何か」があると考えられる。本稿では、その真髄とは何か、JOKERの持つ独特な作風を追求していく。
以下では、JOKERの舞台・出演俳優から提示し、徐々にこの作品に眠る謎を紐解いていく。

2.本論
2-1-1.映画の概要
 映画『JOKER』アメリカ製作、アメコミ原作、ジャンルはスリラー映画。2019年10月9日に日米同時公開された。監督脚本はトッド・フィリップス、主演はホアキン・フェニックス。R15に指定されている。
原作は、大人気のアメコミヒーロー「バットマン」。ジョーカーとは、そのバットマンの悪役(ヴィラン)にして宿敵である。
脚本は、1976年公開『タクシードライバー』や1982年公開『キング・オブ・コメディ』など、マーティン・スコセッシ監督の作品に影響を受けたとトッド・フィリップス監督自身が明言している。事実、舞台や主人公の性格などはこの二作品に酷似している。

2-1-2.舞台・あらすじ
 舞台は1981年の「ゴッサムシティ」という架空の街。財政難と清掃者のストライキにより街は荒み、貧富の差はますます拡大していた。主人公は「笑い病」という精神病を患い、病にかかった母親を養いながらピエロ派遣会社で働く青年アーサー・フレック。
ある日、楽器屋の宣伝をピエロとして行っていた所、街の不良達に襲われリンチにあい、楽器屋の看板まで壊されてしまう。しかも楽器屋からは、自分のせいではないのに看板を弁償しろと言われる。
そんな意気消沈したアーサーに、同じ会社の同僚から護身用の拳銃を渡されてしまう。精神病と貧困を同時に背負う社会的弱者が手にした「暴力」。これをきっかけに、アーサーは強大な悪へと堕ちていった。

2-2-1.卓越した演技力
 以上が映画の概要・あらすじとなるが、ここからはこの映画で大きく評価された点について述べていく。
まずはホアキン・フェニックスの演技力だ。主人公アーサー・フレックもといジョーカーを演じた彼の演技力はまさに圧巻のものだった。
元々ふくよかな体型だったホアキンは、このキャラクターを演じるべく大きな減量に挑戦した。その減量はなんと約4ヶ月で23キロ以上。監督曰く、彼は1日をリンゴ1個で過ごしていたという。結果出来上がったのは、ガリガリにやせ細り猫背が目立つアーサー・フレックというキャラクターの姿。そこまでしてでも彼は、この役を完璧にしたかったのだろう。
このジョーカーというキャラクターは何度も映像化されており、特に映画においては、どの作品のジョーカーも役者の演技力が非常に高いことで有名だ。例えば『バットマン(1989)』では、『シャイニング』で有名なジャック・ニコルソンが、『ダークナイト(2008)』では、その怪演っぷりで名をとどろかせたヒース・レジャーがジョーカーを演じている(残念ながら、彼は既に亡くなっている)。となると、今回のジョーカー、しかも主役は「バットマン」ではなく「ジョーカー」である為、ホアキンにのしかかったプレッシャーは絶大なものだっただろう。
そうして公開された映画『JOKER』に映っていたのは、貧困という社会的負担を背負い、悲壮感をこれでもかという程に漂わせた主人公を演じたホアキンの姿だった。
そんな演技の中でも特に観客の心を掴んだのは、彼の「笑い」の演技だろう。前述したように主人公は笑い病という精神病を患っている。笑いたくなくても、発作で笑ってしまうというものだ。「泣くように笑う」彼のこの演技は、映画の序盤から終盤までずっと続く為、ジョーカーを観た者にとってこの笑い声はずっと脳にこびりついて離れないものだろう。

2-2-2.徹底したシナリオの「ダーク」さ
 次に映画のシナリオについて。あらすじや主人公の境遇で語ったように、この映画は全体的に暗いイメージがとても強い。その為描写も全体的に暗く、音楽も心にずっしりくるようなものばかり。観終わっても、少なくとも気持ちよく終われる映画でないことは一目瞭然だろう。
ここだけ見ればただの鬱な映画のように感じるが、この『JOKER』は違う。劇中、「明るい歌」を流しているのだ。
その曲は大きく分けて2曲ある。チャールズ・チャップリンの『Smile』、フランク・シナトラの『That's Life』だ。Smileは予告編と劇中、That's Lifeは劇中とエンディングテーマで起用されている。
暗く重い映画なのに、何故明るい曲を起用したのだろうか。その真意は、その曲が流れるタイミングにある。
この2曲が流れるタイミングは、どれも「アーサーが窮地に立たされている」シーンであるのだ。
普遍的な暗い映画でこんなものが流れても、観客はただ違和感を感じるだけだろうが、この映画はそういったものが一切無い。恐ろしいまでにマッチし、むしろ狂気さえ感じる。それがジョーカーという映画なのだ。

2-3-1.数々のオマージュ達
 ここからはネタバレを踏まえ、いよいよこの映画の真髄を紐解いていく。
前述したように、この映画はマーティン・スコセッシ監督映画『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』に影響を受けている。どちらの映画も舞台・主人公の境遇が一致しており、むしろそうとしか思えないシーンなどは多数存在する。
しかし、ジョーカーが受けた他の映画の影響はこれだけではない。
そもそもこの映画は、俳優「ロバート・デ・ニーロ」と深い関係があるようにも思える。今作でも番組の司会、またアーサーの憧れる人物として出演している彼は前述したマーティンの2つの映画のどちらも主演を務めており、またホアキンの俳優の原点となった映画『レイジング・ブル』も彼が主演となっている(ホアキンのジョーカーに向けての大減量は、この映画からアイデアを得たという)。
そして何よりも大きいのが、喜劇王「チャールズ・チャップリン」のオマージュ。前述したように、劇中では彼が作曲した歌『Smile』が使われているが、この曲は同じくチャップリンが手がけた映画にして彼の代表作の一つでもある『モダン・タイムス』のエンディングテーマとして使われている。更に運命的なことに、モダンタイムスの物語がジョーカーの物語とリンクしているようにも思えるのだ。『モダン・タイムス』は単純作業を強いられる工員の運命を皮肉ったコメディーだが、主人公がデモ隊のリーダーと間違えられて逮捕されるなど、格差社会や、知らずに人々を扇動する危うさなど、『JOKER』に与えた影響を見いだすことができる。また、Smileには「どんなに辛くても微笑めば何事も乗り越えられる」という歌詞があり、これもアーサーというキャラクター像をシニカルに表現しているようにも思えるのだ。
だが、これらだけが彼へのオマージュではない。
映画史に残る「喜劇王」と称された彼は、こんな言葉を残している。
「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。」(チャールズ・チャップリン)
この言葉は劇中でも使われており、実際それを意識したかのようなシーンが終盤あたりで使用されている。そして何よりも衝撃的なのが、この言葉はアーサーの境遇にぴったりとハマるのだ。
あらすじで語ったとおり、アーサーの境遇は悲劇そのものであり、多くの人が「何故こんな優しい青年が悪役になってしまうんだ」と思ったことだろう。だが、引きに引き伸ばしたバネが一気に跳ね返るように、彼はあることをきっかけに一気に「悪」へと堕ちていく。その際彼は「俺の人生は悲劇だと思っていたが喜劇だったんだ」と言葉を放つ。悲劇が喜劇へと変わる様は、正にチャップリンの言葉を体現しているのだ。

2-3-2.誰しもが持つ「悪」の心
 『JOKER』は、一人の心優しい青年が、ジョーカーという強大な悪へ堕ちていく物語である。
このあらすじが公開された時、人々は少なくともこう予想しただろう。「あぁ、これは可哀想な悪役の映画なんだな」と。スターウォーズシリーズの悪役ダースベイダー然り、過去に何かしら悲しい出来事がありそれが原因で悪役になってしまった、というキャラクターは人気が出るのは必然であるが、それがこの映画の危険分子でもある。
この映画の前半は、これでもかという程にアーサーを可哀想な目に合わせる。これは、これからジョーカーという存在になっていくアーサーに共感を抱かせる為だ。そして後半、何もかもが彼の中で吹っ切れ、いよいよ彼は悪へ堕ちていく。それと同時に、街の富裕層に憤っていた市民が暴動を起こす。傍から見ればアーサーもといジョーカーは暴動を起こした大罪人と見えるだろうが、観客はそんな感情を抱かない。何故なら、もう既に観客はアーサーに感情移入してしまっているからだ。
これがこの映画の恐ろしい点の1つである。これは悲劇の主人公を徹底的に感情移入させた上で、犯罪を「正義」として肯定する映画なのである。だがこれだけでは、『時計じかけのオレンジ』然り『羊たちの沈黙』然り、歴代のクライム映画の二番煎じだ。しかしこの映画の危険性は、クライム映画としてではないものに潜んでいる。
今度は映画の内容ではなく、カメラワークに焦点を当ててみる。すると、この映画のカメラワークは常に主人公の視点であることが浮かび上がってくる。これは主人公もといホアキンの演技力を強調するためだとも言えるが、物語が進むにつれてこの特徴的なカメラワークは違った意味でも用いられていることが分かる。
ラストシーン、アーサーは「ジョーカー」となる。このシーンのみ、視点がアーサーから暴動を起こした市民に移るのだ。今まで一貫として主人公の視点だったのにも関わらず、何故いきなり市民の視点に移ったのだろうか。
ここで1つ思い出して欲しい。アーサーは、物語の序盤では貧乏で精神病を持つ「社会的弱者」だったことを。言い換えれば貧困層に立たされた、ただの市民である。そしてこれらの特徴は、アーサー以外の他の市民にも当てはまる。アーサーは、特別な事象などが重なって「ジョーカー」となっただけであって、それ以外は他の市民と何ら変わらないのだ。そして前述したように、ラストシーン以外は全てアーサーの視点で描かれている。やがて彼は強大な悪、ジョーカーへと堕ちていく。
そう、このラストシーンのカメラアングルは、「誰でもジョーカーのようになれる」ということを表しているのだ。つまり、境遇は違えどアーサーではない他の誰かも、ジョーカーのような悪に堕ちる可能性があることを表している。
更に舞台設定上、アメリカの架空の街であるゴッサムシティは貧困に陥っている。政治は腐敗し、中には街の福祉予算の削減の為に福祉施設のカウンセリングや薬の処方まで打ち切られてゆく始末。この状況は、かなり現代の社会に酷似しているとも言える。事実、大統領がドナルド・トランプに変わったことによりアメリカの政治形態は大きく変わった。そして何より思ったのが、このジョーカーにおける社会は「日本の社会」に酷似している事だ。ただでさえ消費者の生活は苦しいというのに消費税は増税し、何より政治的無関心の影響により政府はうまく機能していない。つまりこのジョーカーは、映像越しに観ている我々に伝えているのだ。
「狂った社会で、誰でもジョーカーになることはできる」と。
これがジョーカーに眠る、真の恐ろしさである。
彼は我々に、警告を促しているのだ。
この社会で、ジョーカーの心を持つ者はいつか現れると。
そして、自分自身がそれになってしまう可能性があることを。

3.結論
    本稿では、映画『JOKER』に隠された真髄を追求した。アメコミ映画の中でも異彩を放つこのJOKERは、確かに全世界で評価された。しかし、「これをジョーカーというキャラクターでやる必要があったのか」「これは我々が思い描く、絶対悪のジョーカーではない」など、批判も寄せられているが、それはごもっともな意見だろう。劇中、これはアメコミ映画だということを忘れる時があったし、今作のジョーカーには、アニメや原作含む歴代のジョーカーに通ずる「悪のカリスマ性」が無い。「ダークナイト」のような、ヒース・レジャーが演じた神々しいまである狂気のジョーカーを期待した人々は、この映画で恐らく幻滅したことだろう。
しかし、これが『JOKER』の思惑のようにも思える。ネットではジョーカーの考察・批評・議論が数多く繰り広げられており、公開から約4ヶ月経った今でもそれらは続いている。まさにカオス状態と言えよう。一方ジョーカーは「混沌」を好む。ダークナイトのジョーカーが「俺は混沌の使者」と言ったように、自らの手で人を混乱に陥れ、その様を彼はジョークとして楽しむ。もしかすると彼は、映画が公開された後のこの状態を見計らい、そして楽しんでいるのかもしれない。
    以上のことから、映画JOKERは社会風刺・数々のオマージュで構成された作風によって人を惹きつけていると考えられる。
参考文献

「JOKER」の概要
(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ジョーカー_(映画) )

ホアキン・フェニックスの演技
(https://www.banger.jp/movie/19053/)

劇中の曲
(https://www.google.co.jp/amp/s/www.udiscovermusic.jp/columns/why-joker-sings-frank-sinatra/amp)

オマージュ集
(https://www.cinematoday.jp/page/A0006895)

映画評論家によるJOKERの評価
(https://note.com/oga5648/n/n47a81e86146e)

#映画  #JOKER #ジョーカー #ホアキン・フェニックス #DCコミックス #アメコミ

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