中ノ岳遭難について考える その1

8月上旬、越後三山・中ノ岳で遭難があった。

https://mainichi.jp/articles/20190809/k00/00m/040/279000c

地元紙では小さくしか扱われず、また、詳しい内容はわからなかったのであくまで推測の域を出ないのだが、この事例については北アルプス岩稜帯での滑落や富士山での落石とは異なる性質をもっているようで、ふと、この遭難について考てみたくなったのだ。

とはいえ、単に遭難原因について考えるのではあまり実りがないし、そもそもそれについては専門家がいるので、ここでは「中高年・男性・単独」「滑落」「熱中症」の3つをキーワードに、あくまで自分に対する戒めを主題として、3回に渡ってこの事例について考えてみたい。

今回は、「中高年・男性・単独」についてである。

男にも更年期障害は、ある!?

統計上、もっとも多いといわれる属性。自分もまたここに分類されることを考えるとまったく他人事ではない属性ともいえる。

と同時に、ここに分類されて気づいたことがある。それは、男性にも更年期障害なるものがある(かも)ということである。

一般に、いわゆる中年年齢である40歳を過ぎると、否応なく体力が落ちると言われる。自分の場合、その自覚はその前からあり、30歳を過ぎたあたりでガクっと体力が落ちたことを実感していた。そこで自転車通勤を始めたのだが、40歳を過ぎた頃、あまりに仕事が忙し過ぎて、自転車通勤すらしなくなったら一気に体重が落ち、加えて首が動かなくなってしまったことすらあった。試しにその時、クライミングをしてみたのだが、6級ですら登れないほどに体力が落ち、その事実に愕然としたことがある。

気持ちと体力のバランスを埋めることが大事!

とかく、男性は過去の栄光にしばられがちである。自分の場合、それは体力に対して顕著で、身体が大きく変化すると一般にいわれる中年にも関わらず、気持ちは20代であるというのが、最も危険な状態なんだと思っている。あくまで推測でしかないが、同じ男性である今回の事例の場合、あるいは彼もまた、同じ状態であったのかもしれない。

…てな話を50代半ばの先輩ライターに話す機会があったのだが、50歳を過ぎると、40歳の時よりさらに体力がガクっと落ちるので、もっと注意が必要なんだとしたり顔で言われてしまった。なるほど、50にもまた壁があるのか…なんてことを、今度は60代の整体師に話すと、「バカいっちゃいけねー。80歳で元気なひとがいるってのに、40代で年齢だなんて、なに寝言をいってるのか。体力なんぞは鍛え方次第だからもっと鍛えるべし」と(よい意味での)説教をいただいてしまった。

生物としてのヒトを考えた際、おそらく20代頃にピークを迎えた体は、その後、少しずつ衰えていくこと事態には大きな間違いはなく、その衰え速度をいかに抑えるかがトレーニングの果たすべきひとつの役割だと思われる。そこに加えて重要なのはメンタルの部分で、これまでたいした山にも登ったことがなく、そのくせ普段からこれといってなにもしていない自分のような人間こそ、気持ちは昔のままで、体力と気持ちの間のギャップが大きくなるのだとも思う。

〝メッツ〟トレーニング!

それが直接的な原因ではないのだが、数ヶ月前に始めていたのが標高差100mタイムトライアル登山であった。今は病気のため計測していないが、2ヶ月前は標高差100mをやや追い込んで5分弱で登れていた。この数字をメッツ(下記)に置き換えることが有効であることに気がついたのである。

メッツとは運動強度のひとつの指標である。登山の場合、1時間あたり標高差で何メートル登れたかで、その指標を知ることができる。一般的な登山を楽しむ場合には7メッツ以上が必要だと言われている。

例えば標高差100mを5分で登れた場合、1時間(60分)あたりで登れる標高差は1200mとなる。実際、このペースを1時間維持することは不可能なので、仮にその5割減として計算すると、1時間あたり標高差600mを登ることができる。これをメッツに換算すると8.4メッツである。この体力があれば、ひとまず、一般的な登山は充分に楽しむことができる…てな具合でわかるのである。

では、自分のメッツはいかほどなのか。参考までに、1時間あたりの登高速度[m/h]とメッツの関係(空身登山)を下記するので、ぜひ、実際の山で試してみて欲しい。

100[m/h]:2.7

300[m/h]:5.0

500[m/h]:7.3

750[m/h]:10.2

※参考図書『登山の運動生理学とトレーニング』(東京新聞)

メッツが便利なのは、その運動に必要な運動強度がわかることだけでなく、自分の体力を知り(長時間維持できるペースはメッツでどの程度なのか)、登山中のペース配分の指標として活かすことができ(6メッツ程度の運動が長時間歩くにはよい)、さらに今後のトレーニングに役立てる(目標メッツを設定し、追い込む)ことができことにもある。

そしてなにより、今の自分の体力と目的とする登山に必要なメッツを比較することで、体力とメンタルとのギャップを小さくすることができるのがポイントなのだ。

ただし、体力的な意味で注意しなければならないのが、登山の場合は荷物を背負う効果も加味しなければならないことである。荷物を背負うということは、単なる背筋だけでなく、体幹筋力も必要とされ、例え8メッツ程度の運動ができる能力があったとしても、縦走登山ができない場合も充分にありえるのである。

その意味で、メッツとは心肺と脚の能力の指標となりうるが、縦走登山に必要となる歩荷(ボッカ)力はその指標のなかには含まれていない、といえるだろう。同様に、目的とする登山がクライミングなら登攀力、スキーなら滑走力などもそれぞれ必要となり、当然、個別トレーニングが必要なことは明白である。

次号予告:縦走路をメッツで考える!

中ノ岳遭難事例から話しがだいぶそれてしまったが、今回はあくまで導入部ということで。

次回は、メッツの観点から八海山-中ノ岳縦走に必要な運動強度、その体力消耗度、そして滑落についても推察してみたい。

注目(してないか…笑)の次号はさっそく明日アップ! といいたいところなのですが、先週に引き続きいて来週にかけてもおっつまり状態が続くので、大注目(しつこい!)の第2号は、9月2週以降にアップ予定。みなさま、お楽しみに!


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