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366日紡ぐ【夜のうた】

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#X日間やってみた

366日紡ぐ【夜のうた】107日目 5月20日「短歌」

366日紡ぐ【夜のうた】107日目 5月20日「短歌」

星々はひとつの言葉たちなので
いくつか選んで短歌を作りましょう

先生が言うのでみんな
星を見つめて思い思いに
言葉を書き留めて
短歌を作り始めた

なんだか星たちがいっそう
輝いて見えて
何かを伝えたそうに

366日紡ぐ【夜のうた】108日目 5月21日「双子」

366日紡ぐ【夜のうた】108日目 5月21日「双子」

双子がいた
ひとりは「よる」
もうひとりは「あさ」
と名付けられて
仲良く育った
ふたりはいつも一緒だった
離れてしまうと
どうしようもなく寂しかった
双子は
どちらも家庭を持つことはせず
ただふたりだけで
生きていった
生きていった

366日紡ぐ【夜のうた】109日目 5月22日「最愛」

366日紡ぐ【夜のうた】109日目 5月22日「最愛」

土砂降りの雨が
静寂を叩いている
僕の瞳は虚ろで
意識はただ過去を彷徨っていた
片手には一輪の花を持って
その手も力が入っているのか
わからないほど

土砂降りの雨が
あなたを迎えている
この夜
最愛の人が
いってしまった

366日紡ぐ【夜のうた】110日目 5月23日「キス」

366日紡ぐ【夜のうた】110日目 5月23日「キス」

キスの日だからと
キスを二匹買って帰ってきて
キスをさせる旦那

くだらないなと笑った
あなたはやさしいひと

仕事で疲れ果てた私を
癒してくれる人

366日紡ぐ【夜のうた】111日目 5月24日「文通」

366日紡ぐ【夜のうた】111日目 5月24日「文通」

最近文通好きの間では
手紙に夜を忍ばせるのが流行っている
一枚の紙のように切り取った夜を
便箋の内側に入れるのだ
そうして送られた夜は
封を開けた時間によって
色を変える

あなただけに見てほしい夜を
言葉と一緒に
思いを込めて贈る

一生の宝物のような時間

366日紡ぐ【夜のうた】114日目 5月27日「痛み」

366日紡ぐ【夜のうた】114日目 5月27日「痛み」

指先の白い月を
ひとつひとつ
切り離していく

その時だけなぜか
君のことを思い出す
ただ白い月を見上げて
一緒にいただけのこと

お風呂上がりの
洗ったばかりの髪が
頬に冷たい

366日紡ぐ【夜のうた】115日目 5月28日「林檎」

366日紡ぐ【夜のうた】115日目 5月28日「林檎」

林檎を齧ったあとが
月のようだったので
林檎は月のない夜か
月を内包した夜だね
と君が
買い物かごへと林檎を入れる

今日も夜を食べて
月を作る

366日紡ぐ【夜のうた】116日目 5月29日「砂浜」

366日紡ぐ【夜のうた】116日目 5月29日「砂浜」

夜の砂浜に書くSOS
誰にも気づかれないから
しっかり書ける
くしゃくしゃの顔で
大粒の涙で

このまま海に流されてしまいたい
そう思って見る朝日が
あまりにも温かく抱きしめるから
また違う涙が
海に溶ける

366日紡ぐ【夜のうた】117日目 5月30日「編み物」

366日紡ぐ【夜のうた】117日目 5月30日「編み物」

夜色の糸を使って
編み物をしている老人の手元が
たまに星のように光ると
編み物にキラリと小さな星が
宿っていくのだ

老人は丸い老眼鏡をしたまま
ずっと編み続けている
もう私たちが
何度生死を
繰り返しても

366日紡ぐ【夜のうた】118日目 5月31日「眼差し」

「夜ってなにもかも闇で包んでしまうから
 実は包容力があるのかも」
そういって靴紐をいじる君
街灯が照らす
私はしゃがんでいる君を見て
なら私は闇になりたいと思った
君を包む闇に
ただやさしく

耳にかけた髪が
するりと落ちる

366日紡ぐ【夜のうた】119日目 6月1日「空」

366日紡ぐ【夜のうた】119日目 6月1日「空」

小石を蹴っても
夜道じゃわからん
音だけ響いて
闇に消える

何処に行ったか
何処に逃げたか
探すことなど
せぬけれど

己の心の虚しさだけは
探さなくとも
確かにある

366日紡ぐ【夜のうた】120日目 6月2日「性」

366日紡ぐ【夜のうた】120日目 6月2日「性」

青い春を横切って
教室の窓を飛び出して
ノートを破って
あまりにも真っ直ぐな涙で濡らして
帰らなければいけない家の隅に
いつかの夜が
こびりついてる