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君野てを
2023年5月20日 20:45
星々はひとつの言葉たちなのでいくつか選んで短歌を作りましょう先生が言うのでみんな星を見つめて思い思いに言葉を書き留めて短歌を作り始めたなんだか星たちがいっそう輝いて見えて何かを伝えたそうに
2023年5月21日 20:28
双子がいたひとりは「よる」もうひとりは「あさ」と名付けられて仲良く育ったふたりはいつも一緒だった離れてしまうとどうしようもなく寂しかった双子はどちらも家庭を持つことはせずただふたりだけで生きていった生きていった
2023年5月22日 19:35
土砂降りの雨が静寂を叩いている僕の瞳は虚ろで意識はただ過去を彷徨っていた片手には一輪の花を持ってその手も力が入っているのかわからないほど土砂降りの雨があなたを迎えているこの夜最愛の人がいってしまった
2023年5月23日 20:01
キスの日だからとキスを二匹買って帰ってきてキスをさせる旦那くだらないなと笑ったあなたはやさしいひと仕事で疲れ果てた私を癒してくれる人
2023年5月24日 19:55
最近文通好きの間では手紙に夜を忍ばせるのが流行っている一枚の紙のように切り取った夜を便箋の内側に入れるのだそうして送られた夜は封を開けた時間によって色を変えるあなただけに見てほしい夜を言葉と一緒に思いを込めて贈る一生の宝物のような時間
2023年5月25日 21:24
冴えない顔をした君の左手に贈る夜の灯り
2023年5月26日 20:43
葉の裏に隠した夜を仰ぎ見る皐月
2023年5月27日 20:55
指先の白い月をひとつひとつ切り離していくその時だけなぜか君のことを思い出すただ白い月を見上げて一緒にいただけのことお風呂上がりの洗ったばかりの髪が頬に冷たい
2023年5月28日 20:32
林檎を齧ったあとが月のようだったので林檎は月のない夜か月を内包した夜だねと君が買い物かごへと林檎を入れる今日も夜を食べて月を作る
2023年5月29日 20:36
夜の砂浜に書くSOS誰にも気づかれないからしっかり書けるくしゃくしゃの顔で大粒の涙でこのまま海に流されてしまいたいそう思って見る朝日があまりにも温かく抱きしめるからまた違う涙が海に溶ける
2023年5月30日 20:45
夜色の糸を使って編み物をしている老人の手元がたまに星のように光ると編み物にキラリと小さな星が宿っていくのだ老人は丸い老眼鏡をしたままずっと編み続けているもう私たちが何度生死を繰り返しても
2023年5月31日 19:44
「夜ってなにもかも闇で包んでしまうから 実は包容力があるのかも」そういって靴紐をいじる君街灯が照らす私はしゃがんでいる君を見てなら私は闇になりたいと思った君を包む闇にただやさしく耳にかけた髪がするりと落ちる
2023年6月1日 19:51
小石を蹴っても夜道じゃわからん音だけ響いて闇に消える何処に行ったか何処に逃げたか探すことなどせぬけれど己の心の虚しさだけは探さなくとも確かにある
2023年6月2日 20:53
青い春を横切って教室の窓を飛び出してノートを破ってあまりにも真っ直ぐな涙で濡らして帰らなければいけない家の隅にいつかの夜がこびりついてる