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友達にも先生にも心を閉ざしていく。それでもわたしは息子に罰を与える。グリーンスクール日記1ヶ月と3週間目

バリ島のグリーンスクールという学校に子どもを通わせたくて、赤ちゃん連れでバリに移住をした。

グリーンスクールとはどんな学校なのか?
英語の話せない小学1年生の息子にどんな変化が起きるのか?
赤ちゃん連れの母子移住はどんな生活なのか?

この冒険をいつか老後にゆっくり振り返れるよう、日記を綴ることにする。でも、欲を言えば、いつか海外の学校にこどもを、と考えてるママさんパパさんの背中を少しでも押すものになれば、とも思っている。

これは、わたしのサスティナブルな仲間探しの冒険の始まりでもあるのだ。

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学校が始まって1ヶ月と3週間目。この週は激動だった。

火曜日にある事件が起こる。息子が日本人の男の子たちの靴を隠したのだ。

先生によると、ランチタイムに息子が靴を隠し、かたくなに場所を言わず、最後は校長と副校長までが出てくるまでの大ごととなったそうだ。

息子は隠し事をしているとき、妙に明るくなる。この日もお迎えのとき、息子は「お母さん、今日僕レゴでね、船を作ってね!」といつも以上によく喋っていた。

お迎えの場所で「リオ。なんで靴を隠したの?」と聞いたら、息子は「あ、靴のこと聞いたんだ」とバツの悪そうな顔に一変した。

「靴を隠すことは良くないことってわかってるよね?」「うん」「お母さんはあなたが理由もなく靴を隠さないってのは知ってる。なんで隠したの?」「…」息子の目には涙が溜まっていた。

どうやら息子は、ランチタイムに友達と遊んでいて、その延長で仲間はずれみたいにされたのが悔しくて泣いた後、靴を隠したらしかった。

そして、「英語を話せず笑われて悔しかった。」「僕だけが悪者になったみたいで悲しかった。」と話してくれた。

英語のわからない彼にとって、学校での楽しみと言えば、ランチタイムや放課後に日本語で思いっきり遊ぶことだ。日本語が唯一話せるグループと喧嘩してしまい、悲しい気持ちはよくわかる。しかし、靴を隠すのは良くないことだ。

その日の放課後、他の男の子とそのお母さんたちにも話を聞くことができ、最後は本人たちだけで話をすることができた。
「言いすぎた、ごめんね。」
「僕も靴を隠してごめんね。」
小学生の喧嘩はこれでおしまい。今週は子供同士の喧嘩でした〜ちゃんちゃん。
では終わらなかったのだ、今週は。

その次の日の昼ごろ、わたしは友達と一緒に学校で話をしていた。そしたら、いるはずのない時間、いるはずのない場所に息子がいた。

タイヤのアスレチックで一人遊ぶ息子。側には困り果てた顔の先生が。わたしに気付いたむすこは、嬉しさと気まずさがまじった顔をする。息子は、音楽の授業を無断で抜け出していたのだ。

音楽の先生から担任の先生に連絡があったようで、ちょうど担任の先生もその場にやってきた。

担任の先生はかなり怒っている。なぜ、彼は日本の小学校で守れていたルールを、ここでは守ることができないのか?なぜ、彼は先生になんの断りもなく授業を抜け出すのか。

そう先生はまくしたてた。そりゃそうだ。学校ではルールは守らなくてはいけない。学校に限らず、社会とはそういうものだ。それは揺るぎない事実だ。わたしもここ数週間、口酸っぱく息子にルールを守れと言ってきた。

先生は、息子にわたしの横に座るように言う。でも、息子は先生の言うことには全く耳をかさず、蝶を追いかける。

やっとのことで座らせたら、息子がそばに飛んできた蝶を手で捕まえた。その瞬間、先生が「やめなさい!生き物を傷付けない!」と息子の手をはらった。

息子と同じ時期に学校に来たこの担任の先生は、英語の通じない子どもを担当するのは初めてだ。

息子は先生の目をまったく見ない。完全に心を閉ざしている。何を聞いても「ノー」としか言わなくなってしまった。

あぁ、今、彼の心を開くことができるのは、友達でもなく先生でもなく、わたしだ。そして、ルールは守るべきものだと彼に理解させるのもわたしの役目だ。

「リオには罰が必要だ。」わたしはそう先生に切り出した。ルールを守るもの。そう息子に理解をして欲しかった。

他にも策はあったのかもしれない。もっともっと息子に言い聞かせたら良かったのかもしれない。でも、わたしは罰という飛び道具を使った。ルールを守る、という体裁を取り繕うことができれば、という一心だった。

そして、先生と相談して、次に無断で授業を抜け出したら、息子のランチタイムの遊びは一切禁止することに。

担任の先生は、スナックタイムだけでは短すぎるのでランチタイムにしましょう!とまだ興奮気味だ。

わたしは息子にルールを守らないとどうなるかを説明した。息子は「その間、レゴも触っちゃいけないの?」と聞いてきた。「もちろん。遊びは禁止。椅子にしばりつけられるんじゃない?」「それはやだなぁ。」

息子はというと、木曜金曜はルールを守った。無断で抜け出すことはしなかったのだ。

ただ、わたしは知っている。息子の心は閉ざされたままで、ただ、クラスの中に体を置いているだけ、ということを。頭の中で、息子は今でもクラスを抜け出して、探検を続けている。

学ぶ意欲のない授業ほどつまらないものはない。わたしにもその経験はある。どんどんその教科を嫌いになっていく。ただひたすら早く授業が終わればいいのにと願う。

息子が、心から学校の授業を楽しいと思える日はくるのだろうか。

全く出口の見えないトンネルの中を、わたしは息子の手をひいて歩いている。このままだと、ぬかるみに足をとられた息子に気付かず、気付いたら手だけを握っていた、なんてことになりかねない。わたしは頭をぶつけてもいいから、後ろに続く息子を、息子の顔を、しっかり見ながら進もう。