3月16日、ウクライナとモルドバがEU送電系統網に統合。
EU(本部ブリュッセル)およびヨーロッパ送電系統運用者ネットワーク(略称ENTSO-E)は16日、ウクライナとモルドバの送電系統がEU圏内を国境を越えてつながるENTSO-Eに接続統合されたことを発表した。
ウクライナはもともと旧ソ連送電系統と統合させた電力需給運用を行なってきたが、2023年を目標にENTSO-Eへの統合に切り替えることを目指して準備を進めていた。ロシア軍侵攻直前に、丁度、旧ソ連送電系統からの切離しテストに入っていた機会をとらえ、一気にENTSO-Eへ統合させた。政治的に極めて戦略的な動きといってよい。ウクライナの隣国で同じように旧ソ連送電系統に入っていたモルドバも系統的にはウクライナと同時に動かす必要があるので、一緒に統合ということになった。今回の一足飛び的な動きを可能にしたのには、EUの非常に強い政治的な後ろ盾があった。
今回の動きは、エネルギー安全保障的にウクライナとモルドバが旧ソ連圏と縁を切り、完全にEU側に入ることを意味する。クレムリンは激怒しているのではないだろうか。報復として、現在占拠しているチェルノブイリとザポロジェ以外のウクライナの原発の軍事占拠に乗り出すなどしないか、慎重に見る必要がある。
ウクライナは、2月24日にロシア軍が侵攻する直前のタイミングで旧ソ連送電系統の切離しテストに入った(具体的には、ウクライナの送電網をロシアとベラルーシから切り離した。)これは、ENTSO-Eとの接続を行う前に、まずウクライナ国内だけの電力系統で72時間電力需給を行い、周波数などの電力パラメーターに問題がないか検証を行うテストである。(筆者は、ロシアは実はこの切離しテストに合わせて軍事侵攻のタイミングを設定したのではないかと疑っている。)
今回のテストは、冬期の電力需給を見るために行われたもので、本来は、今年続けて夏期のテストも行う予定になっていた。ロシア軍の侵攻が始まったため、夏期のテストを行う前に旧ソ連送電系統に戻すことなく、一足飛びにENTSO-Eと統合させた。
ウクライナ送電オペレーターUkrenergoによると、参考値として、3月2日昼ピーク時のウクライナ全土の電力需要は13.9GW、周波数は50Hzでシンクロされている。
今回のENTSO-Eとの統合は、あくまでも旧ソ連送電系統から切り離した緊急措置として、ENTSO-Eに系統を統合することで電力需給調整安定を担保することが一義的な目的であろう。ウクライナの現在の電力需要から、当面は2GW程度までの需給をENTSO-Eを介して調整するのであろう。ウクライナとモルドバが、ENTSO-Eを介した電力市場での売買取引を行ったりできるようになるのは、軍事紛争が収拾した後の段階になる。
(Text written by Kimihiko Adachi)
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