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世界遺産講座② 世界遺産になるために~前編 求められる価値~

2024.05.31
こんにちは、きみかです!

世界遺産講座②では、世界遺産になるために登録する場所や資産に求められる価値やその基準を紹介します。

本当は登録手順と合わせて書こうとしたのですが、長くなりすぎてしまったもで次回に分けることにしました。

今回は、Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(世界遺産条約履行のための作業指針)を参考に、簡単に纏めてみました。

こちらは毎年9月頃に最新のものにその年の審議の結果等を反映した三振のものが更新されており、世界遺産登録では参照することが求められます。

英語版はUNESCO World Heritage Conventionの下記サイトからダウンロード可能です。

日本語Ver.は文化庁が毎年翻訳したものを公開しているので、「世界遺産 作業指針」で検索してみてください。

では、早速講座の方に入っていきましょう!

1.世界遺産に求められる価値と基準

世界遺産として、世界遺産一覧に名前を連ねるためにはただ単純に「歴史的」「生き物が豊か」というだけでは足りません。

ではどのような「価値」が求められるのか?

それを示す「基準」はあるのか?

詳しく見ていこうと思います。

(1)Outstanding Universal Value(顕著な普遍的価値)

世界遺産には、一国家に留まらない世界的な「価値」が必要とされます。

それをOutstanding Universal Value(顕著な普遍的価値、以下OUV)と呼びます。

これは、作業指針の第49項によると「顕著な普遍的価値とは、国家間の境界を超越し、人類全体にとって現代及び将来世代に共通した重要性をもつような、傑出した文化的な意義及び/又は自然的な価値」であると記載されています。

文化的な遺産であれ、自然的な遺産であれ、世界に類を見ない唯一性と傑出し、例えば景観の美しさ、建築物の独自さや歴史、絶滅危惧種を含む固有種等の豊かさ、が認められない限り、世界遺産になることはでき無いのです。

では、顕著な普遍的価値はどのように評価されているのでしょうか?

それは、第1講でも少し触れた「世界遺産の登録基準」を満たすことです。

作業指針第77項では、ある資産が世界遺産の登録基準に示す、10の基準の内最低1つ以上満たす場合に顕著な普遍的価値を有しているとみなす、と書かれています。

では続いて、10個ある世界遺産の登録基準を紹介していきます。

(2)世界遺産の登録基準

世界遺産登録のための10の基準は、(i)~(vi)を満たすものを文化遺産(vii)~(x)を満たすものを自然遺産その両方の基準を合わせて満たすものを複合遺産に分類します。

基準の詳細は以下の通りですが、それぞれ長いのでブログ主なりの覚え方を一緒に載せておきます。

(i) 人間の創造的才能を表す傑作である。
→人間がつくった凄い建築!

登録基準(i)は、人間が創造した資産の技術的凄さや美的なデザインに対して適応される場合が多いです。

日本にある世界遺産では「姫路城(文・1993)」「ル・コルビュジエの建築作品 (以下略・2016)(※1)」など4つの遺産に認められています。
※1ル・コルビジェの遺産は日本を含む7か国に位置する彼の建築を纏めて1つの世界遺産として登録しており、日本からは国立西洋美術館が含まれる。

また、この基準1つの身で登録されているのは、インド「 タージマハル」とオーストラリア「 シドニーのオペラハウス」、カンボジア「プレア·ビヒア寺院」の3つだけとなっています。

こちらの方の記事から登録基準(i)を満たす資産を詳しく見ることができます。

(ii) 建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
→複数の文化や文明、信仰が影響しあった建築や街に認められることが多い基準、、、

正直主はこの基準(ii)が一番捉えにくいと考えていましたが、大体は宗教建築(特に地域外から入ってきたと思われる)や産業遺産、文化が交差した場所の遺産(海商都市や貿易等によって他国の建築議事術が導入された町)などに認められている印象が強い基準です。

日本では「琉球王国のグスク及び関連遺産群(2000)」 「紀伊山地の霊場と 参詣道(2004)」など12遺産に認められています。

海外の遺産では、ランタンの美しい夜景で有名なベトナムの「古都ホイアン旧」、教会からモスクに転用された歴史を持つトルコの「アヤソフィア大聖堂」などがあります。

(iii) 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
→時代や文明、文化を象徴するランドマーク的なモノ!

この基準に関しては、1つの時代や文化を象徴する存在のモノに認められる場合が多く、古代文明などに関する遺産は殆どこの基準が適用されています。

また、人間がつくった建造物に限らず山などもこの基準に含みます。

例えば、「富士山 ─信仰の対象と芸術の源泉-(2013)」や階段状の白い石灰の池とそこを流れる青く輝く水が幻想的なトルコの「パムッカレの石灰華段丘」など、自然地形であるものの、現地の文化や信仰と深く結びつい差資産に認められることも多い基準です。

日本ではその他に、「百舌鳥・古市古墳群(以下略・2019)」「 北海道・北東北の 縄文遺跡群(2021)」など9つの遺産に認められています。

世界では、墓の山として信仰されやがて修道院、100年戦争の要塞、監獄など様々な使われ方をしたフランスの「モン・サン=ミシェル」などがあります。

(iv) 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
→歴史の経過を表す建造物や、現代に影響を及ぼす技術や思考の進化が表彰される建築

あくまで「重要な段階」を示すものにあてはめられ、技術自体の進化が伺える建造物や産業遺産に認められていることが多い基準です。

例えば、「ドミノ・システム」や「近代建築の5原則」という現代建築や都市計画に大きく影響を与える様式を用いた「ル・コルビュジエの建築作品 (2016)」に認められています。

他にも、日本では明治日本の産業近代化を代表する「富岡製糸場(2014)」などがあります。

特異な事例ではありますが、この基準が適用される「アントニ・ガウディの作品群」の1つである「サグラダ・ファミリア」は登録当時も未完成でしたが、傑出した技術とデザインに価値が認められ完成していた一部のみ世界遺産として登録されました。

余談になりますが、1882年の着工から140年以上経過し、「永遠に完成されない建物」といわれたサグラダファミリアもいよいよ2026年に完成のめどが立ち、主もぜひ見に行ってみたいと思っています。

(v) あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)
→遺産が位置する地域の地形や気候など風土に即した建築遺産に多くあてはめられる

伝統的居住形態と書かれているように、所謂伝統的な集落や環境と共生している場所やものに認められることが多いです。

例えば、「白川郷・五箇山の合掌造り(1995)」に登録される合掌造りと呼ばれる大きな茅葺屋根の家は、白川郷の気候や地形、産業に特化した形態がこの基準に認められています。

また、この基準にあてはめられている遺産(白川郷を含む)は「文化的景観(※2)としても登録されることが多いですね。
※2文化的景観とは、文化遺産であると同時に「人間を取り巻く自然環境からの制約や恩恵又は継続する内外の社会的,経済的及び文化的な営みの影響の下に,時間を超えて築かれた人間の社会と居住の進化の例証」とされる。下記(3)参照。

(vi) 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
→不動産だけでない価値が資産に付随している場合や、それを象徴するもの

この基準は、無形的要素(例えば進行や伝統など)を含むため不動産のみを世界遺産として定める世界遺産の登録基準の中では少し異端児だと認識しています。

そのため、この基準は他の基準と合わせて登録することが望ましいと明記されています。

しかしなかにはこの基準のみで登録されているものも存在します。

広島の「原爆ドーム(1996)」やナチスによるユダヤ人迫害の歴史を象徴するポーランドの「アウシュビッツ=ビルゲナウナチスドイツ強制収容所」などは、「負の遺産(※3)」とも呼ばれ、登録基準(vi)だけで世界遺産に登録されています。
※3負の遺産はUNESCOが定めた公式的な名前ではありませんが、戦争や殺戮、迫害など繰り返してはいけない歴史の象徴として一部で呼ばれています。

(vii) 最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
→世界中でそこでしか見られない美しすぎる自然景観

さて、この基準(vii)以降は自然遺産に認めるものになってきます。

基準(vii)は、地殻変動や気候的特性、植生などあらゆる理由から苑でしか見ることができない美しい景観を有する場所等にあてはめられます。

日本では「屋久島(1993)」のみに認められており、約1400万年前から形成された独特の地形と、標高500m以上に群生する樹齢1000年を超える屋久杉を含む原生的な自然林が美しい自然景観を生み出していると評価されました。

世界では世界一の落差を誇るエンジェルフォール(アンヘルの滝)やテーブルマウンテンを有するベネズエラの「カナイマ国立公園」や世界最高峰の山エヴェレストをもつネパールの「サガルマータ国立公園」。

世界三大瀑布の「ヴィクトリアの滝」(ジンバブエ・ザンビア)やイグアスの滝を有する「イグアス国立公園」(アルゼンチン・ブラジル)などがあります。

ちなみに、三大瀑布の一角であるナイアガラの滝は水量が多すぎることから侵食が激しく、その防止のために人工的那須両コントロールを行っているため自然地形でないことから世界遺産に認められていません。

(viii) 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
→生物の進化の記録である化石や大胆な地殻変動の跡が見られる場所

火山や地形的な特性が強くみられる遺産が多いですが、恐竜の化石等もこの基準に含まれます。

地形的な例だとハワイの「ハワイ火山国立公園」やアメリカの「グランドキャニオン国立公園」が挙げられます。

また、地学履修者の間では有名な(主主観)バージェス動物群(バージェス頁岩)を含む「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群」などが生物の進化の記録という点でもこの基準が認められています。

実は、日本にこの基準が認められている世界遺産は2024年現在ありません。

暫定リストと呼ばれる、世界遺産に推薦されるための候補一覧にも現在は基準(viii)に該当する資産は上がっていませんが、日本にも世界的に稀有な地形形成の歴史や恐竜生息なども発見されているので今後の調査や推薦活動が行われることに小さく期待しておきたいと思います。

(ix) 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
→今現状進行中の生物進化が見られる場所

この基準は、島などの手つかずの自然の中で独自に進化した固有種や生態系が多くみられる遺産に対して認められることが多い印象です。

日本は、5つある自然遺産のうち「屋久島(1993)」「白神山地(1993)」「知床(2005)」「小笠原諸島(2011)」の4つにあてはめられています。

ダーウィンの進化論でも有名なエクアドル領の「ガラパゴス諸島」やロスト・ワールドと称されるテーブルマウンテンに広がる手つかずの自然と生態系を持つ「カナイマ国立公園」もその1つです。

(x) 学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
→絶滅が危惧される生き物や貴重な生態系を維持している場所

最後の基準は、遺産として登録される場所が有する生態系の豊かさとそれらの希少性を重視しています。

そのため生物・自然保護区などにあてはめられる場合が多く生息する生き物の絶滅への危惧から「危機遺産(※4)」となってしまう場合も多いです。
※4 危機遺産とは、世界遺産の中で、武力紛争、自然災害、大規模工事、都市開発、観光開発、商業的密猟などにより重大な危機にさらされ、その顕著な普遍的価値を損なう状態にあるもの」を意味しその危機を脱するために基金や国際協力体制を用いた支援が行われます。

日本では絶滅危惧種のシマフクロウやシレトコスミレ、希少な陸海性の生態系を有する「知床(2005)」とアマミノクロウサギや63の固有種をもつ「奄美大島(以下略・2021)」がこの基準に該当します。

この基準で登録された「中国の黄海・渤海湾沿岸の渡り鳥保護区」は、世界最大の干潟の保護区であり、絶滅危惧種であるヘラシギを含む400種類の渡り鳥の生息地です。

2019年に世界遺産の登録を受けましたが、広さのあまり複数回に登録を分けることとなりフェーズ2の審議は今年の世界遺産委員会で取り上げられます。

104000ha、なんとディズニーシー2100個分以上の広さを遺産とするためには、それなり以上の準備が必要そうですね。

十分に管理ができるのか心配という懸念もあるため、今年の委員会での議論が興味深いです。

さて、授業で課されそうな課題1つ分は優に超える文章量となってしましましたが、ここまでが「世界遺産の登録基準」の紹介です。

つづいては、途中でも出てきた「文化的景観」などについて説明します。

(3)特種な資産に認められる価値

特殊な資産とは文化遺産、あるいは自然遺産に認定されながら登録基準に留まらない特殊な性質をもつ遺産のことを示します。

現在、4つほど特殊な項目があります。

これらの特殊な資産に見られる価値と世界遺産の登録基準との違いは、世界遺産に慣れるか否かです。

登録基準は10のうち1つでも満たせば世界遺産に登録されます。

しかし、以下の1つの項目は満たしているとされたとしてもそのまま世界さんになることはできません。

よって、世界遺産であることが前提になった価値であることを認識しておきましょう。

一部、下記文化庁サイトより抜粋しています。

①文化的景観

文化的景観とは、文化遺産でありかつ「人間を取り巻く自然環境からの制約や恩恵又は継続する内外の社会的,経済的及び文化的な営みの影響の下に,時間を超えて築かれた人間の社会と居住の進化の例証」が認められるものであると定義されています。

また、「人間と人間を取り巻く自然環境の間における相互作用の多様性を有機的に表現している」とされており、文化遺産の中でも地形や植生など付近の自然と結びつきの強い畑や水田の景観、信仰とつながりが強い資産に見られることが多いです。

日本では「白川郷・五箇山の合掌造り集」と「石見銀山とその文化的景観」にみとめられています。

②歴史的町並みと街区

これはまち全体が世界遺産として登録されているものにあてはめられることが多く、「既に人の居住が見られない町並み」「現在も人の居住が見られる歴史的町並み」「20世紀の新しい町並み」の3つの類型分類されます。

そのものの価値に加えて、人が住んでいる遺産であれば社会的或いは文化的変化による影響と資産保護コントロールが求められます。

例としては、ベトナムの「古都ホイアン」やオーストリアの「ウィーン歴史地区」などが挙げられます。

③運河に係る遺産

人間が巧みに自然地形を利用した事例の一つとして取り上げられたのがこの「運河」です。

こちらは、文化的景観を前提にしている場合が多くその特例として認定されることがあります。

事例としてはフランスの「ミディ運河」などがあります。

④遺産としての道

こちらも文化的景観の特殊な1つである場合が多く、道を通して商業的・経済的或いは文化的な発展が見られたと評価される場所などに認められます。

日本でも「紀伊山地の霊場と参詣道」があてはめられています。

ブログ主はこれを書きながら、そういえば今年はイタリアの「アッピア街道」が登録推薦されることを思い出しながら、あれも道だがこの登録はあるのかなぁなんて考えていました。

というのも、暫定リスト(※5)時点では文化的景観へノミネートが記載されていましたが、現状今年の世界遺産委員会へ向けた推薦書類にはその記載が消去されていました。
※5暫定リストとは、世界遺産に推薦する前段階のリスト。ここにまず載せないと世界遺産委員会に持っていけません。

さてはてどうなるのか気になるところですね。

2.おわりに

ここまで読んでくださった皆様、お疲れ様でした。

いかがだったでしょうか?

簡単に説明する予定が、思ったより短くまとめることが難しかったです。

条約や法律って長いなぁと思っても、あれ以上端折ることができないようになっていることを改めて実感しました。

次回は後編~評価をするヒトと登録手順~について書いていく予定です。

今回のように今年の世界遺産委員会での審議遺産についても主の主観を交えながらコメントしていこうと思うので、興味のある方はお付き合いくださいませ♪

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それではまた、次回お会いしましょう♪




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