カレル・チャペック『白い病』

 今年の4冊目はこれ。昨年末に買ってあった最後の1冊で、2021年2月9日に読み始めて2月14日に読了。原作のチェコ語・・・は全くわからないので、日本語訳されたものを。

 この著者については全く知らなかったけれど、昨年のいつだったか、毎日新聞の書評欄に載ったのが気になって買ってみたもの。調べてみると、児童文学や小説、戯曲、旅行記、その他ジャーナリストとしても活動していたとのこと。お兄さんのヨゼフ・チャペックが挿絵を描いたり、一緒に活動していた模様。
 さらに調べると、この『白い病』が発表されたのは1937年、ナチスがドイツで権力を掌握し、チェコにも侵攻しようかというような時期。それから何年もたたないうちにカレルは病死している。兄ヨゼフの没年は1945年、という数字が胸に突き刺さる・・・。

 この前に読んだカミュの『ペスト』と同様に、昨今を取り巻くやっかいな感染症と向き合う中で注目され、昨年に新しく翻訳されたものが岩波文庫から出版された。なんでも、翻訳者はこのnoteに訳文を連載していたとのこと。それが岩波書店の編集者さんの目に留まって出版に至ったわけだから、やはりこの時代だなと思う。

 さて、この『白い病』は『ペスト』とは違い、まったくのフィクション。そして、戯曲。つまり芝居として演じることを念頭に置いて書かれた作品である。
・・・ある日、肌に白い斑点のようなものができる。それができると肌は大理石のように冷たく硬くなり、触っても感じなくなる。やがて、生きながらにして身体は腐敗し、凄まじい悪臭を放つようになるという。研究によると、それはどうやら若い人はかからないらしいが、50歳頃になるとたちまち皆がかかって死んでいく。治療法はなく、臭い消しで対処する他ない・・・。死に至る病で、肌が白くなるのが特徴、だから白い病。
 そんな中で、その白い病の治療薬ができたかもしれないから治験をしたいとある医師がやってきて。治験はうまくいく。その医師が治療薬を渡すにはある条件がある、と。その条件をめぐって、さまざまな立場の人の声が描写される。そう、その国では独裁者である元帥のもとで、戦争の準備が進められていて・・・誰も救われない最後、といえるのかな。
 情報コントロール、メディアを通して伝わること、そしてそれを受けた民衆はどのように考えるようになるのか。ある家庭での父親と母親とのやりとり、あぁ、こうやって戦争に賛成していくんだな、異論を許さない雰囲気を作っていくんだな、と。チャペック自身は、どこの国の誰をイメージしたものとも言っていないけれど、だからこそ、戦争をしようとするどこの国でも実は起こっていることではないかと考えられるのだ。

 この作品、舞台作品として観てみたい、そう思った。誰が、どんな演出をするかな。

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