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クレカタッチ決済で電車に乗ってみた
先日はナンバーレスクレジットカードを作った話をしました。
そこでも少し触れましたが、ここ数年、クレジットカードで切符を買わずにバスや鉄軌道に乗れるようになってきました。今日はその話をしたいと思います。
なお、本稿では便宜上、鉄軌道を合わせて鉄道と呼びます。そして既に10000字を超えているので(^^;、バスの話はまたの機会に…
「Visaのタッチ決済」で東急電車に乗ってみた
2024年 7月29日~ 8月11日のわずか2週間でしたが、東急電鉄の世田谷線を除く全線で「Visa でタッチ決済!キャッシュバックキャンペーン」が実施されました。
世田谷線はクレカタッチ決済未導入のため対象外でしたが、こどもの国線は対象になっていました。カード番号毎に期間中1回のみ、140円分(初乗り相当)が後日キャッシュバックされるというもので、金額的には大したことないですが、Visaのタッチ決済をちょっと試してみるのにぴったりなキャンペーンです。
今回のキャンペーンはVisa以外(JCBなど)は対象外だったので、Visaが負担しているのでしょう。Visaは他にも「楽天カードVisa限定 スマホのタッチ決済で20%キャッシュバック」等のキャンペーンも実施していて、タッチ決済の利用促進に力を入れている様子です。
でも筆者も御多分に漏れず「モバイルSuica」を活用しており、これひとつで電車やバスに乗れて買い物もできて便利です。少なくとも首都圏の鉄道で「Visaのタッチ決済」を使う必要はまずありません。
今回はせっかくの機会なので、出かけたついでに立ち寄って、Visaのタッチ決済に対応しているカードをかき集めて(笑)数回乗ってきました:)。
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こどもの国線は東急田園都市線と長津田駅で接続していて、東急が運営していますが、実は別会社なので、田園都市線と乗り継いでも初乗り運賃が別個にかかります(ただし株主優待券は1枚で乗り継ぐことができます)。
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(長津田駅では自動改札機に入れず有人改札で提示する)
例えば、こどもの国→長津田→中央林間と乗り継ぐと、160円+180円かかりますが、今回のキャンペーンで「Visaのタッチ決済」対応のクレカを複数枚使い分けると140円ずつキャッシュバックされて、運賃が実質60円になります:)。
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肝心の使い勝手も、処理速度はPASMOより若干遅いはずですが、人が感知できるほどの遅延はありません。
クレカタッチ決済対応の改札機が1レーンしかないことに加え、スマートフォンのクレカタッチ決済を使う場合はスリープ解除(画面点灯)が必要なことに注意が要りますが、操作の手間を除けば、ラッシュ時以外は概ね遜色ない処理速度になっているのではと思います。
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東急電鉄では2024年 1月19日までに世田谷線を除く全駅で、クレカタッチ決済とQRコード乗車券に対応する自動改札機が導入されました。
ただし当初は「Q SKIP」でオンライン購入した一日乗車券などの企画券のみで利用できましたが、5月15日から「都度利用」(前もって一日乗車券などを買わずに乗車し、乗った分だけ運賃を後払いする)にも対応していました。
2024年 5月10日に「運送約款の一部改定について《サーバ管理型乗車券取扱規則》」という告知が出ただけで、クレカタッチ決済の都度利用については特段の発表もなく静かに始まりましたが、7月末になってVisaが前述のキャンペーンを始め、そうかと思えば「Q SKIP」で購入した一日乗車券等のクレカタッチでの利用が停止されるという、気になる動きがありました。
邪推すると、東急からすればPASMOを使ってもらえればいいので「Visaのタッチ決済」による都度乗車を推す気はなかった(から目立った告知をしなかった)ものの、Visaとしてはクレカタッチ決済による都度乗車を推し進めかったので、自腹でキャンペーンを始めた。東急としてはクレカタッチを企画券で(紙の切符替わりに)使いたいと考えていたが、何かの齟齬があって(または混乱を避けるために)一日乗車券等のクレカタッチでの利用を停止した、といったところでしょうか(^^;。
ただ、「Q SKIP」で購入した企画券をクレカタッチで使えなくなったことを知らない乗客がクレカタッチで乗車して運賃を二重に請求されるといった裏目に出なければいいのですが…
乗車履歴(利用明細)を見るには
交通系ICカードの利用履歴を見る
まずは復習ですが、Suica等の交通系ICカードは券売機に入れると明細を見られて印字もできます。全国共通利用対応のいわゆる10カードでしたら、他のエリアの券売機に入れても明細を見る・印字することができます。
モバイルSuica・PASMO・ICOCAはアプリで明細を見ることができますし、一部の駅に設置されているチャージ専用機を使うと印字もできます。
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ICカードに記録されている明細は最新の20件ですが、チャージ専用機ではサーバに接続して100件まで(26週間以内)の明細を印刷できます。
駅に行かなくても、会員メニューサイトで見ることもできます。
交通利用と電子マネー機能(買い物)の両方の履歴を見ることができるのも特徴です。ただし買い物の履歴は「物販」とだけ表示されます。クレカの明細と違って店舗名などは表示・印字されません。
パソコンに「PaSoRi」を接続して専用のソフトを使うと、カードに残っている最新20件に限り決済端末のIDを見ることもできます。
クレカタッチ決済での乗車履歴を見る
クレカタッチ決済で乗車した履歴は、翌日以降(1年以内)に「Q-move」Webサイトで見ることができます。
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クレカタッチ決済では乗車当日は乗降記録だけを取って、翌日にバッチ処理で運賃確定するので、明細を見られるのは翌日からになっています。
「Q-move」というのはクレカタッチ決済の運賃計算クラウドサービス(提供会社はQUADRAC)で、ここでクレカ番号毎に会員登録すると乗車履歴を確認できます。会員登録にはメールアドレスが必要なため、複数のクレカを使い分ける場合は、複数のメールアドレスが必要です。
一般的なWebサイトなのでパソコンでもスマートフォンでも見ることができますが、印刷機能はありません。
また、Q-moveから届くメールがフィッシング等に悪用されがちなHTMLメール(text/plain無し)で、しかもSPFにもDKIMにも対応していないので、Gmail等では迷惑メール扱いされるかもしれません。決済システムを扱う会社にしてはセキュリティ対策がどうなの?という気もしますが、とりあえず明細を見ることはできます。
ここに表示されるのは「Q-move」が取り扱う国内交通乗車履歴のみなので、クレジットカードでの買い物や、海外の交通機関の利用明細はここには表示されません(クレカの明細が届くのを待つ必要がある)。
ちなみにクレジットカードには1日分が一括で翌日請求されます。クレカの明細には「東急電鉄 タッチ決済/交通利用/NFC」(半角カナ表記の場合は「トウキユウテ゛ンテツ タツチ/NFC」)のように表示されていました。
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領収証は出ません。交通利用と買い物がごっちゃになりますが、経費申請などで明細を分けたい場合は、ナンバーレスクレジットカードを作るなどして使い分けるのが現実的でしょう。
鉄道会社が続々とクレカタッチ決済に対応
鉄道では南海が一部駅で2021年から、福岡市地下鉄が2022年5月31日から、長良川鉄道が2022年6月から、熊本市電が一部車両で2022年7月から(2023年4月から全車両に拡大)、西鉄が一部駅で2022年7月から、JR九州が一部区間で2022年7月から、鹿児島市電が2022年11月から、江ノ電が全駅で2023年4月から、小田急箱根が2023年8月から、東急が2023年8月から段階的に、京都丹後鉄道が2023年12月から全駅で、クレカタッチ決済に対応していました。
2024年に入り、東急、神戸市営地下鉄と西鉄が全駅に導入、京王と高尾登山電鉄が3月25日から一部駅で導入、名鉄が3月28日から一部駅で導入。
さらにOsakaMetro、東京メトロ、近鉄、阪急、阪神、横浜市営地下鉄、西武、京急、ゆりかもめ、札幌市営地下鉄などが2024年度内~2025年春に導入を予定しており、ここにきて急速に広まりつつあります。
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そういえば、自動改札機に妙な機器が付いたなーと気づいた人もいるかと思います。
とはいえ、首都圏の鉄道・バスではSuica・PASMO等の交通系ICカードが使えますし、「10カード」と呼ばれる全国の交通系ICカードが相互利用でき、交通系ICカードを1枚持っていれば全国の多くの鉄道・バスに乗れる便利な仕組みができていますから、多くの人は交通系ICカードを使っていて、クレカのタッチ決済で電車に乗っている人は少ないでしょう。
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では、なぜここにきてクレカのタッチ決済で電車やバスに乗れるようになりつつあるのでしょうか。
鉄道各社がクレカタッチを導入する目的
インバウンド観光客対応
Suica・PASMO等の交通系ICカード(いわゆる10カード)は、全国で相互利用できるようになっていますが、元祖JR東日本ですら全線で使えるわけではありませんし、鉄道が通っていない地域もあります。そして海外では使えません。
インバウンド観光客をはじめ、交通系ICカードのエリア外に住む人が訪れた際に、頻繁に訪日する人はICカードを購入するでしょうが、一時的に利用する人は切符を買う手間がかかります。
現金で切符を買えば乗れるので、国内のエリア外に住んでいる人などは切符を買うのが当たり前で不便を感じないかもしれませんが、海外のクレカタッチ決済対応地域に住んでいる人は不便を感じることでしょう。
日本国内では2020年までにクレジットカードがICカード化されましたが、接触型に加えて非接触(contactless)にも対応したクレジットカードが世界中で普及しつつあって、これを公共交通でも使えるようにした「オープンループ」(※)という仕組みが欧米中心に導入されています。これに慣れている人は、来日しても同様の感覚で使えることが利点になります。
※「オープンループ」は決済関係者の呼称で、一般向けには普通に「contactless payment」などと案内されます。
とはいえ、「オープンループ」が普及している地域は巷で言われているほど多くありません。例えば訪日観光客の多い近隣諸国では、台湾ではクレカタッチ決済対応が始まっているものの観光客向けで、すでに台湾独自の交通系ICカード「EasyCard」(NFC-A) が普及しているので、日本と似た状況です。利用可能と普及は別問題で、台湾でクレカタッチ決済に馴染みがある人は多くないでしょう。
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上は台北MRTで切符替わりに使われているトークン
韓国、中国などでは導入されていません。韓国はキャッシュレス先進国なので意外な感じがしますが、タッチ決済への対応が遅れているのだとか。クレカを持っていても「Visaのタッチ決済」に対応していなかったら意味がありませんものね。
「オープンループ」に馴染みがあって「Visaのタッチ決済」が普及している欧州からの観光客にはクレカタッチ決済が受けるかもしれませんが、日本では素直に「Welcome Suica」などを使ってもらう方がいいような気がします…
まあそんな疑問はあるにせよ、クレカタッチ決済が導入される理由の一番に挙がるのはインバウンド観光客対応です。クレカタッチ決済はクレジットカードの国際ブランドが展開しているので、世界中で発行されているクレカがそのまま使えると期待されます(実際には例外多々)。空港連絡輸送を担う南海、名鉄、福岡市地下鉄が先行して導入した理由はそこにありました。
関東で真っ先に導入した江ノ電も、観光客の利用が多い特徴があります。
ただしインバウンド観光客の誰もが使えるわけではなく、Mastercardは使えません。「Mastercardブランドは今後追加予定」と謳われ続けて早3年、いっこうに対応する気配がありませんね…Visaはインバウンド対応を謳いつつの片手落ち。VisaとMasterの主導権争いが背景にあるのでしょうが、謳ったことは早く実現してほしいところです。
料金設定の自由度
もうひとつ、大手私鉄にとっては企画券などを比較的自由に設定できることが魅力となっているようです。
先ほど「Q-move」という謎の会社が登場しましたが、国内の交通系クレカタッチ決済はだいたいここが噛んでいます。運賃計算クラウドサービスを提供している会社で、ここがカギを握っています。
クレカタッチ決済で電車やバスに乗る際、クレカは乗降記録を取るためだけに使われています。簡単な有効性確認(不正利用防止)は乗車時に行われますが、運賃は1日分まとめて集計され、翌日に売上計上されます。
ユーザー目線では履歴確認が1日遅れる(いくら使ったかその場でわからない)デメリットになりますが、これを逆手に取って、1日乗車券などを提供することができるのです。こうした仕組みは ABT (Account Based Ticketing) と呼ばれます。
一方、Suica等の交通系ICカードは CBT (Card Based Ticketing)。ICカード自体に残高等の情報が入っていて、改札機が即時ICカードから運賃を引き落とす仕組みになっています。今いくら残っているかがすぐに分かる反面、企画乗車券などの設定が面倒になります。
便利で不便なSuicaの企画券
Suicaでも企画券はあります。例えばJR東日本の企画券では、「都区内パス」「のんびりホリデーSuicaパス(休日おでかけパス)」「ヨコハマみなとみらいパス」がSuicaに対応しています。
これは便利で、例えば「都区内パス」を登載したSuicaを使って東海道線の品川→川崎間を乗車し、川崎駅で改札を出るとSuica残高から167円(エリア端の蒲田からエリア外の川崎までのIC運賃)が引かれます。もちろんエリア内での乗降は運賃が引かれず、自動改札機をスイスイ通過できます。紙の切符だと何度も使ううちボロボロになったり汗で歪んだりしますが、Suicaならば無問題。
さらに「モバイルSuica」ならばアプリで買えるので、例えば先ほどの逆に川崎→品川間で使う場合は、川崎駅に入場する前にモバイルSuicaアプリで「都区内パス」を買っておけば、品川駅で出場時に川崎~蒲田間の167円だけ引かれます。従来の切符だと一旦蒲田駅で降りて「都区内パス」を買う手間がかかっていましたから、モバイルSuicaはとても便利です。
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しかし、Suicaに登載できる企画券には制限が多く、種類もごくわずかでしたが、2023年からは「ときわ路パス」が加わりました。ただし裏技的な対応をしています。
「ときわ路パス」は2,180円で茨城県内の鉄道(TXを除く全て)に1日乗り放題になり、例えば取手~水戸(片道運賃1,340円)を往復するだけでもお得になります。しかし2022年までは紙のきっぷしかなく、発売駅(東京方面からの入口は取手駅)で一旦改札を出て切符を買う手間がかかりました。
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また、関東鉄道もフリーエリアに含まれますが、関東鉄道では発売していないので、TXから行く場合は守谷では買えず、取手か下館までは別途運賃を払う必要がありました。
2023年から登場した「ときわ路パス(デジタル)」を使えば、取手で下車する必要がなく、品川・上野から特急に乗って水戸まで行ってもOK、TXから関東鉄道常総線に乗り換えてもOK。とても便利になりました。
ただし、先ほどの「都区内パス」とは異なり、「ときわ路パス(デジタル)」を使うとフリーエリア内でも一旦運賃を引かれます。そして翌月末に、チャージ残高が返金(キャッシュバック)される仕組みになっています。これは、SuicaはCBTなので、改札機で入出場処理の際に運賃を即時引き落としているためです。言い替えると、「都区内パス」などは予め改札機に処理が仕込まれている(!)わけです。
しかも、都区内に限らずSuica首都圏エリアとPASMOエリアの全駅に処理が仕込まれています。例えば「モバイルSuica」で「ヨコハマみなとみらいパス」を購入して、みなとみらい線から直通運転の東急東横線やその先の地下鉄などに乗ると、直通運転先の東急や地下鉄などの駅でも「みなとみらいパス」の処理が改札機に仕込まれていて正しく処理され、東急や地下鉄の運賃のみが引き落とされます。すごいですね!
でもこの仕組み故、企画乗車券をSuicaやPASMOに対応させるのは大変。開発元のJR東ですら、翌月末にキャッシュバックという裏技を使って対応するくらい、企画券のSuicaへの登載は大変なのです。
企画券を柔軟に設定できるクレカタッチ決済
これに対して、クレカタッチ決済はABT (Account Based Ticketing)。改札機ではタッチされたカードの情報を読んでエラー照合しているだけで、運賃計算などの複雑な処理は後回し。クラウドサーバ側で処理する際に比較的自由な設定ができるわけです。
この仕組みを活用したのが、京王電鉄の「高尾山きっぷ」。高尾山は世界一登山客が多いとも言われますが、新宿からの電車が10分毎に走っていて、駅から登山口(またはケーブルカー・リフト駅)まで徒歩10分足らずの近さも魅力のひとつ。「高尾山きっぷ」は京王電車とケーブルカー・リフトの運賃がまとめて2割引になるお得なきっぷで人気がありますが、券売機で買う必要がありました。
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京王ではここにクレカタッチ決済を導入。同じクレカで京王電車の往復と高尾山ケーブルカーまたはリフト(片道または往復)に乗車すると、自動で運賃精算して「高尾山きっぷ」と同額になります。切符を買う手間がなくて便利だし、ケーブルカーを片道乗るか往復乗るかを予め決める必要がないのも嬉しいメリット。こんな柔軟な精算ができるのはABTならではです。
先述の東急もこちらが目的のようで、自動券売機に代えて自社サイト「Q SKIP」で企画乗車券を販売し、紙の切符より若干値引きすることで、紙からオンライン決済へと移行させたいのでしょう。
小田急はインバウンド対応を主眼にしつつ、自社開発の「Emot」と連携させて企画乗車券類の展開に期待している面もありそうです。
このほか、クレカタッチ決済ならばチャージ不要云々と謳われることがありますが、後払い方式にはメリット・デメリット両面がありますし、FeliCaでもオートチャージで対応できますから、特段のメリットではないと思います。逆にクレカタッチ決済では当日中にいくら使ったかわからない(翌日以降にまとめて請求される)ことをデメリットと感じる人もいるでしょう。
こうした機能面のほかに、10年くらい前に交通系ICカードを導入した地域ではインフラ更新費用の問題が浮上しており(後述)、そこにVisaが入り込む余地が生まれているようです。
センターサーバー方式への切り替え
そんなわけで、高速処理に全振りしたことで融通の利かないところのあるCBTのSuicaですが、Suicaを開発しているJR東も手をこまぬいているわけではなく、実は少しずつ変わっています。
例えば「新幹線eチケット」というものがありますが、新幹線では予め「えきねっと」等で予約した特急券情報がサーバに記録されています。カードはただIDカードして使っているだけで、ICカードのSF残高は一切無関係。要は、Suica等の交通系ICカードも新幹線ではABTとして使われているのです。東海道・山陽新幹線のEXサービスも同様の仕組みになっています。
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その昔は特急券情報もSuicaに書き込んで改札機側で処理していたのですが、2020年3月より今の方式に変更になりました。昔のSuicaカード(と改札機)で処理する方式がCBTと呼ばれ、今のセンターサーバで処理する(SuicaカードはIDとして使う)方式がABTと呼ばれます。
従来のCBT方式では高速処理できるメリットがある反面、改札機の処理が複雑になるデメリットがあるため、JR東日本では在来線のSuicaエリアを区切って提供していて、首都圏エリアと仙台エリアで相互利用できないといった課題がありました。JR西日本ではエリア分けこそ撤廃されましたが、概ね200km圏内の精算情報を端末側に持たせているようです。
Suicaが導入された2001年から技術の進化は目覚ましく、コンピュータの処理性能もデータ通信性能も上がったので、在来線でも従来の改札機で処理する方式から、順次センターサーバ方式へと切り替えられています。
手始めに2023年5月から盛岡・青森・秋田エリアで、運賃計算をサーバで行うセンターサーバ方式が導入されています。従来の首都圏・仙台・新潟エリアでも2023年夏から順次センターサーバ方式に切り替わる予定です。
とはいえ、残高はICカード内にあるので依然としてCBTですが、センターサーバ方式への切り替えが完了した後は、SF残高の管理をSuicaカード(CBT)からサーバ管理(ABT)に移すことも視野に入っているようです。従来のインフラを維持したまま移行する必要があるので時間はかかりますが、これが出来ればクレカタッチ決済と同様の使い勝手をSuicaでも実現できるようになるでしょう。
もっとも、SF残高管理をSuicaカードで行う従来のCBT方式にもメリットはあって、高速処理もそうですし、例えば通信障害や山奥の電波が届かない場所など通信回線が無くても使えるメリットがあります。もしABTに移行すると、こうしたメリットは失われて、万一通信障害やセンターサーバの障害などが起きたら電車に乗れない事態になりかねません。
地域連携ICカード
もうひとつ、FeliCaのシステム費用が高額になりがちな問題ですが、この答えとしてJR東では機能を絞って比較的導入費用が安く済む「地域連携ICカード」を開発して提供しています。
複雑な運賃計算などはクラウドサーバで行うことで端末のメンテナンスコストを抑えるとともに、クラウドサーバを他の地域と共用することで廉価に導入できるようにしているようです。
Suicaの機能(交通乗車券、電子マネーなど)はそのまま使え、さらに地域独自の機能を登載できることが特長になっており、実際に乗継割引や独自のポイント付与などが提供されています。
宇都宮市の「totra」を皮切りに、東北~北関東で導入が進んでいます。JR東の営業エリアが中心ですが、これまでコストの問題で二の足を踏んでいた地方都市で相次いで導入されています。もちろんSuicaをはじめとする全国交通系ICカードと相互利用できることも魅力になって選ばれているのでしょう。
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決済システムを「乗り換える」動きも
関東・東北ではSuicaベースの「地域連携ICカード」がこぞって導入されていますが、西へ行くと様子が異なります。
広島都市圏ではFeliCaベースの「PASPY」が2025年3月29日で終了。替わりにJR西のICOCAを導入するバス事業者もありますが、広島都市圏で最大の広電では2024年9月7日より自社開発の「MOBIRY DAYS」が導入されます。
熊本都市圏では独自の「くまモンのIC CARD」に加えて全国交通系ICカード(いわゆる10カード)も利用できますが、FeliCaベースの交通系ICカードの利用が2024年12月頃に停止され、替わりにクレカタッチ決済が導入されることになりました。
広島・熊本で問題になったのはFeliCa系インフラの更新費用で、例えば熊本ではFeliCaベースで機器更新すると12.1億円かかるのに対し、クレカタッチ決済は6.7億円で導入できるのだとか。
新規導入には国の補助金が出るが更新には出ないという問題もあるようですが、地方の交通事業者にとっては億円単位のインフラ更新費用は厳しいでしょう。
そこに、FeliCaが席巻していた日本の交通系決済に割って入りたいVisa陣営が狙いをつけて、Suica開発元のJR東から遠い九州から狙って口説き落とした面もありそうです。なにせ商売ですからね。
世界中で使われているNFC-Aと比べて、ほぼ日本でしか使われていないFeliCaは高コストと言われ、まぁそうなのですが、システム全体から見ると、ハードウェアのコストはそこまで大きな要素ではないのではと思います。東北・北関東でFeliCaベースの「地域連携ICカード」の導入が進んでいることもその証左です。
太陽光発電システムも欧州などに比べて日本ではモジュールコストと設置工事費が高いことが問題になっていますが、決済システムも同様に、日本では設備コストのみならずSIerのコストが高いことが背景にありそうです。
JR東が直販している「地域連携ICカード」は中間マージンをカットして安くなっているのかもしれませんし、九州などで「Visaのタッチ決済」が安く入るのも新規参入組のVisa陣営が採算ぎりぎりで提示している面もあるかもしれません。
熊本ではFeliCaのまま更新するよりもクレカタッチ決済に乗り換える方が安上がりという話がでしたが、次の更新時期になったらクレカタッチ決済のインフラ費用も高くなる可能性がありそうです。
なんだか携帯電話会社みたいですね。新規(MNP)獲得のために採算度外視で端末を安く売って、機種変更する人には定価で売って儲ける。釣った魚にエサはやらないなどと評されますが、そこにさらに国の補助金が後発(Visa陣営)を後押しする。うーん。
まあ個人で使うスマートフォンなら機変の度にキャリアを変えても個人の自由だと思いますが、決済システムはユーザーもいますし、ましてや公共交通機関ですから、機変(インフラ更新)の度にころころとキャリア(決済インフラ)を変えるのはどうなのかな、と思います。