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転職エージェントが1500人以上と面談してたどり着いた、転職活動の黄金原則5選


はじめに

以前にも書いたことがあるが、私は2020年の新卒で社会人になり、転職エージェントとして今年で5年目になる。

面談をした人数は、合計で1500人を超えた。
新卒1年目の若手から、最高齢は62歳まで。
業界も、仕事内容も、悩みも千差万別。

「新卒で転職エージェント」というのはなかなか難しくて、自分より経験豊富な方に色々とアドバイスを求められる。転職活動をしたことがない中で、ノウハウを伝えなくてはいけない。

自分なりに王道と思う内容を言語化するのと並行して、社内でもベテランに助言を求め、ディスカッションして精査したうえで、面談の中で伝えてきた。
転職を勧めることの方が多いわけだが、その状況であれば現職に残った方が良いというアドバイスをすることもある。
時に自社の利益を度外視してでも、目の前の相談者の将来がより良くなるよう話してきたつもりだ。

しかし、現実的に、面談できる人数には限りがある。
短絡的に転職をして後悔してしまう人が生まれるのを、全員救うことはできない。新しく面談できるのは多くても週に10人程度だからだ。

そうであれば、note記事として世に広く公開し、1つの考え方として参考にしてもらえたら、という思いで、この長文を執筆した。

ネット上で検索すれば、転職活動の体験記は数多く読むことができるが、転職エージェントの目線で書かれた文章はほとんどないように思う。
体験記という形の個別事例は、個々人が置かれたその時々の状況や考えがあって初めて成立することも少なくないため、どこまで参考にできるかは五分五分だ。
むしろ、どんなケースにも応用できる考え方・原則は転職エージェントの目線だからこそ書ける内容で、参考にして頂き易いものだと考えている。

世はまさに、大転職時代。転職市場に携わる身として、1エージェントの観点ながら、包み隠さず全てを書くことにした。

所属会社の代表意見ではなく、あくまで私個人の見解である。中には、世の中の一般論と外れるものもあるかもしれない。
より有意義な転職活動ができるビジネスパーソンが1人でも増えることを祈っている。

原則①不満を全開にする

転職活動をする人の中に、「現状に不満がない人」は1人もいない。
年収か、労働環境か、人間関係か、何かしらに不満を抱えている。そうでなければ転職活動というオプショナルな活動に時間を割かず、本業にエネルギーを割く方が合理的だし、趣味や自己研鑽に時間を割く方が充実感を得やすいだろう。
それでも転職活動をするのは、「転職することで今の不満を解消し、長い目で見てより幸せになるため」のはずだ。

この前提は当たり前のように感じられる一方で、不満をストレートに言語化できない人が、世の中には予想以上に多い。

世間体を気にできる「いい人」なんだとは思うが、面談をしていると正直、
「そんなわけないだろ」と思う話を聞くことばかりだ。
「今の会社に不満があるわけではないが〜」という枕詞はかなり聞くが、その瞬間、
「じゃあ転職活動しなくていいじゃないですか」と思ってしまう。(言わないけど)
普段の生活にプラスアルファでエネルギーを費やす転職活動に、不満のエネルギー源がないまま臨めるはずがないのだ。

サラリーマン適性の高い人ほど、不満を言うことに慣れておらず、体裁重視で綺麗事に終始してしまう。

ここで、自分が出会った体験談をひとつ紹介したい。

鈴木さん(仮名)という、40歳の男性営業マンから転職のご相談を受けた。
転職の理由は、新しく異動してきて上司になった営業部長と相性が悪いこと。細かくネチネチしたタイプでどうにもこれまでのスタイルと合わず、やりにくくて仕方が無い、という状況。
しかも、その部長はオーナーである現社長の息子で、将来は次の社長になる。その場合、この先20年以上一緒にやっていくのは無理だ、という気持ち。

面談で率直な話を聞いた私は、面接の中でも同じ内容を直接、できればエモーショナルに表現するようにアドバイスした。納得感があり、しかも自身の努力ではどうしようもない状況であることは伝わると思ったからだ。
鈴木さんも「そこまで言っていいんだ」と驚きつつ、納得してくれている様子だった。
しかし、格好つけたくなるのが人の性。鈴木さんも、面接の場で転職理由を聞かれた際、「将来に向けてキャリアアップしたい」等と、本心ではない、当たり障りのない転職理由を話し、乗り切ろうと試みた。

ところが、それを見逃さなかったのが相手の面接官。
「鈴木さんぐらい経験豊富な人が、今さらそんな理由で転職するわけがない。本当の転職理由を教えてください」と踏み込み、本心での回答を求めた。
鈴木さんもまさかそんなことを言われると思っていなかったので驚いたものの、観念して率直に告白することにした。
すると、それを聞いて、「そういう本音が聞きたかった」と、その場で面接合格。最終的には内定、入社に至った。
鈴木さんに後日聞いたところ、「本音を踏み込んで聞こうとしてくれたのはあの会社だけ。その真摯な姿勢に惹かれて入社を決めた。」と話してくれた。

面接の場はビジネスコミュニケーションなので、言葉を品よく選ぶことは重要だ。特に営業担当であれば、顧客との折衝を丁寧にできるかは重要な選考ポイントになる。

一方で、面接官の立場になって考えてみてほしい。
本音を開示しない人と一緒に働きたいと、心から思えるだろうか?
スキルや経験は重要だが、これから先の仲間として迎えると考えた際に、むしろ人柄の面をより重視するのではないだろうか。

よって、今抱えている不満、モヤモヤ、今後取り組みたいこと等、ストレートに言語化することが、本質的な選考に進む第一歩になる。

率直に伝えた結果面接で不合格となるのであれば、それは単に考え方がフィットしなかったというだけのこと。入る前に不一致がわかって良かったと前向きに捉えて、気持ちを切り替えて次の会社を探しにゆくのが最善策だ。

原則②捨てる項目を決める

一見、①と矛盾するような話に読み取れるかもしれない。
しかし、考えてもみてほしい。取捨選択はこれまでの人生でも散々してきたはずだ。
転職活動だけ、「あれもこれも全て叶う」なんてことはない。

ある転職希望者は、「とにかく年収を上げられる、専門性を活かせる仕事がしたい」と希望し、勤務地や企業の規模は優先順位を下げた。
別の方は、「田舎に住んで、穏やかな暮らしがしたい」とワーク・ライフ・バランスを最優先にし、企業のネームバリューや年収は度外視した。
どちらも正解だと感じる。

「転職によって何を叶えたいか」は、すぐに思いつく人が多い。エージェントとの面談をするまでもないケースもままある。
ところが、そのままいくと「あれも叶えたい、これも欲しい」となり、高望みが止まらなくなって転職活動が長期化してしまう。
スムーズに満足度の高い転職を叶える方は、例外なく、「ここは捨てていい、妥協できる」というポイントを見極めるのが上手い。

もちろん、自分の意志だけで優先度を判断しきれない場合もあるだろう。
例えば、パートナーの実家との兼ね合いだ。自分の子の伴侶には、安心感ある環境で勤めていて欲しい、という親心は理解できる。
その場合には、決して後回しにすることなく、誠心誠意話し合って、その他の条件も含めて合意できるラインを探るべきだ。
活動が進み、内定が出てから初めて話をするのでは、親としても「そんな話は聞いていない」となって、気持ちの面も重なって話し合いがこじれる可能性が高い。

20代中盤独身、仕事以外に現状考慮すべきものがない、という人にとっては不要な手続きだが、30代以降、自分の家庭やパートナーの実家、子ども等、ステークホルダーが増えていくライフステージにある方は特に注意してほしい。

《チェック項目例》
・残業時間はどれくらいあっても許容できるのか?
・通勤時間はどれくらいか?リモートワークの実施状況は?
・引っ越しを伴う転勤は必要になりそうか?
・年収は初年度どうなりそうか?また、今後の上がり幅はどの程度か?
・住宅を購入する場合、ローンの支払い・審査にはどんな影響がありそうか?

原則③伴走できる同志を見つける

転職活動は、当たり前だが同僚や上司に相談できない。だが選考がうまくいかないなど、どこかで発散するしかない出来事もある。
孤独になりがちな活動の中で、面接対策や転職軸の整理など、第三者的な意見を取り入れられると視界が開けるようなタイミングもある。

その時に選択肢になるのが、転職エージェントだ。
とはいえ、転職エージェント(有料職業紹介事業所)として登録している事業者は、2024年現在約30000社ある。
進め方は会社によって大きく違うが、大まかには以下の4タイプに分類できると考えている。

(1)領域幅広・案件大量型
いわゆる大手エージェントのイメージ。勤務地・年収・職種等でデジタルに求人案件を送るやり方。
複数回転職していて転職活動に慣れている人か、超絶ブラック企業勤務中の人にはオススメ。
スピードと効率に振っているのでシステムには全幅の信頼を置ける一方、使う個人によっても差は生まれるので、そこは結局のところ相性がある。
伴走感を求めて登録するものではないと思う。あくまで、最低限が担保されていればその他は割と妥協できるという方がターゲット。

(2)領域特化・案件大量型
「コンサル業界に強い」「エンジニアの転職支援実績No.1」みたいなタイプ。特定の業界・職種への志望度が高く、それ以外の希望は優先度が低い、という人には合う。
ただ、「やっぱり方向性が違うかもしれない」となった時に軌道修正の提案をするのが難しいケースもあるので、併用する方が進めやすいかもしれない。

(3)領域幅広・案件厳選型
「こういう会社がいい」とか、アドバイスしながら伴走してくれるタイプ。
少数精鋭型のエージェントはこういうタイプが多い。
転職活動に迷いがあって、そもそも転職するかどうか、整理する段階から話を聞いてほしい、というタイプの人には相性がいい。
量より質、で求人案件を提案するタイプなので、色々な会社を見比べたい人には物足りないかもしれない。

(4)領域特化・案件厳選型
「この会社に太いパイプがある」「選考対策に詳しい」など、特定の会社・ポジションに狙いを絞るタイプ。どうしてもここに行きたいんだ!という会社がある人には良い。
個人的には、ここまでくると、もう自分で各社のページから応募すればいいのでは?という気がしないでもない。(1)〜(3)のエージェントと併用すると選択肢が広がって合格率が高まる。

正直なところ、「このエージェントだけが知っている求人案件」は、ほとんど存在しない。
特に、人気企業であれば数十社以上のエージェントと契約しているので、ある程度の規模があるエージェントであれば似たような案件を持っている。サポートの仕方も、そこまで大きく変わるものでもない。

相性や距離感といった定性的な面を総合して、伴走できる相手として選ぶと、やりやすくなるのではないかと思う。こればかりは、会社単位だけではなく、個人単位で比較するべきだ。
万人受けする「良いエージェント」は存在しないので、比較検討するために面談を何件か実施したり、併用して進めたりするのは合理的な判断。
ただし、面談だけしていても実際の活動は前に進んでいないので、ある程度のところで見切りをつけて実際の応募に進めていかないと始まらない。

原則④覚悟を見せる

①〜③の過程を踏めば、進める中で軌道修正はあり得るにせよ、
・なぜ転職活動をするのか
・何を得られれば転職活動は成功と言えるのか
といった点はある程度明確になっていることと思う。

あとは、実際に面接の場数を体験し、自分の言葉で話す経験を積むことで、想いが伝わる成功体験を得ることだ。自分の考えた言葉でなければ、体重は乗らず、真に相手の心を動かすことはない。
もちろん、失敗体験も同じぐらい重要だ。面接官に突っ込まれたポイントは、別の会社でも突っ込まれることになるかもしれない。

私の経験上、ビジネス経験豊富な方ほど、「転職理由ぐらい準備しなくても伝えられる」と過信してしまう傾向にあるように思う。
だが、実際に面接に臨んだ後で、「思うように伝えられなかった」「もっと言いたいことがあったのに」と反省の弁を聞くことが多いのもまた、ビジネス経験豊富な方からだ。

転職理由や志望動機といった典型的な内容は全て、文字に起こした上で音読し、自分の言葉として伝える練習を積むべきだ。
その積み重ねが、面接の緊張した空気の中でも支えになるはずだし、準備してきたことは面接官にも覚悟として伝わる。

過去にサポートした中で、最も徹底した準備をした方は、今でも忘れられない。私が新卒で入社して、初めて転職のご縁を繋いだ方だ。25歳の女性だったと記憶している。

1社単願だったということもあり、その会社についてA4で20枚のレポートを作成するほどに調べ上げてから面接に臨んでいた。
その会社の歴史や事業内容、業績の変化や将来の見通しまで頭に入れた上で、詳細な点まで逆質問を準備していた。
その上で、自分の知識や経験がどのように活かせるか、というプレゼン的な面も万全の準備をして、自信を持って話せる精神状態を作り上げていた。
結果として、決して求人票に書かれている通りの経験ではなかったものの、見事に内定を勝ち取り、入社を決めた。

こうした覚悟、準備の入念さは、誠意として必ず企業に伝わる。
忙しい中での転職活動で、そこまで時間を使えない、という声もあるが、むしろ大半のライバルが似た状況だからこそ、徹底した準備は大きく差をつけることに繋がる。
面接日程を多少先延ばしにしてでも、妥協せずに準備をして臨んで頂きたい。

原則⑤礼を尽くす

うまく選考が進んで内定、オファー条件も問題なく、晴れて入社合意、となっても、その後の動きがなかなかスムーズにいかないこともある。最後のハードルになるのが、現職との退職交渉だ。
基本的には、直接の上司・人事部との話し合いを経て退職を確定させる必要があるが、場合によってはこれが長期戦になる。特に、現職での評価が高い/会社の人手不足が深刻な場合は、退職の申し出をした際に強烈な引き止めに遭うケースもある。
私が知る中で最も引き止められた人は、部長や課長と4、5回会食をセッティングされて現職残留を促され続け、申し出てから退職届を受理されるまで丸1ヶ月かかった。
また、これ以外にも、部署異動や昇格・昇給をエサにして残るよう促され、そこで翻意してしまうケースも、ごく少数ではあるが目にしている。

そこまで評価されるのは組織人として頑張った証ではあるが、以下の点を冷静になって考えてみて欲しい。
・退職を申し出た途端昇格できるなら、なぜそれまで昇格できなかったのか?
・目先で部署異動が叶うとして、その先のキャリアの保証はあるのか?

「1度退職を申し出た」という印象は、上司や人事部の中で暗黙の内にであっても残るだろう。その先、いくら頑張っても、その事実は変わることはない。
転職をちらつかせて獲得した昇格・昇給、異動に、本当の意味での評価の裏付けがあるとは思えない。周囲の同僚としても、どう扱えばいいかわからず、腫れ物に触るような振る舞いになってしまうかもしれない。

そうなるよりはむしろ、申し出には感謝しつつ、きっぱりと腹を括って転職するべきだ。
仮にも1度受諾したオファーが、自分の意向と大きくかけ離れていることはないだろう。飛び込むことへの不安は誰しも拭えないものだから、どれだけ考えていても解決することはない。

おわりに

ここまで5つのポイントについて書いてきた。気づけば、約7000字の大作である。
原則に基づいて具体的な行動まで踏み込んで書いたので、どこかは参考にして頂けるのではないかと思っている。
個別事例に終始しがちな転職活動を、少し俯瞰的に捉え、今自分がするべきことは何か考えるための材料として頂けたら嬉しい。

世の中の転職エージェントの中には、どこでもいいから入社してくれたらフィーが発生してラッキー、というな思想が見え隠れする会社もあると聞く。
もちろん、自分自身は決してそうありたくなく、どうするのが良いか、自分なりにポジションを取って伝えてきたつもりだ。だが、一部でも身勝手なエージェントがいる以上は、人材業界はどこも一緒、という見方をされてしまうのも理解はできる。

そんなご時世にあるからこそ、会社としてではなく、いち個人としてエージェントの目線を発信することに価値があると思い、今回意を決して書くことにチャレンジした。
「たかが5年程度の経験で何を上から偉そうに」というのは、百も承知だ。
だが、短い経験の中からでも、転職活動の参考にして頂ける部分は必ずあると信じている。

人生の大半を占めるビジネスパーソン人生、後悔のない決断をしてほしい。
願わくば少しチャレンジングで、覚悟を持った転職を叶えてほしい。

このnoteが少しでも、1人にでも役に立つものであれば、嬉しく思う。


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