【ターゲット応用編】『オデッセイ』は何が凄かったのか。ベーストライブと拡張トライブ。
こんにちは、モダンエイジの映画大好きマーケター、栗原健也です。
前回の記事でターゲット設定のお話をしました。今回はその応用編として、SF映画のケースワークを考えてみたいと思います。
※前回の記事はこちら。
なんでSF映画なのかですが…、先日、アンディ・ウィアーの「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を読んで『オデッセイ』を思い出したので、良いきっかけだと思っただけです(原作者が同じ)。深い理由はありませんが、超面白いので映画好きで読んでない方は是非!(笑)
映画好きに支持されているSF大作
僕個人の意見も多分にありますが、2010年代を代表する3大SF作品だと思っているのが、下記です。(そんなに検討外れではないはず)
・『インターステラー』(2014年)
・『オデッセイ』(2015年)
・『メッセージ』(2016年)
フランチャイズではなく独立した作品で、革新的な映像、知的好奇心を刺激される設定、科学至上主義でありながら人間讃歌、どれもそういったテーマが盛り込まれている素晴らしい作品です。
『インターステラー』は、『ダークナイト』『インセプション』で一世を風靡したクリストファー・ノーラン監督が、満を持して宇宙を舞台に撮った作品。キャストも通好みのマシュー・マコノヒーでした(今回は脱がない)。
『オデッセイ』はみんなご存知、『エイリアン』や『ブレードランナー』のリドリー・スコット御大が監督、主演が『ジェイソン・ボーン』シリーズのマット・デイモンです。そして前述のとおり、まさに原作は、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」同様、アンディー・ウィアーの「火星の人」。
『メッセージ』は、まだまだ世の中的な知名度は低いながら、映画ファンなら誰もが知っているカナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(余談ですが彼の出世作『灼熱の魂 デジタル・リマスター版』を先日劇場で観まして、あまりの衝撃にしばらく立ち上がれなくなりました)、主演に『魔法にかけられて』のエイミー・アダムズ、『ホークアイ』でお馴染みジェレミー・レナーです。
これらの作品は、本格SFである内容もさることながら、監督・キャストともに映画ファンを唸らせるものであり、予告編やHPでも強く推されているポイントでした。ターゲット設定の考え方でいうところの、「映画トライブ」は確実に抑えることができていたと思います。
僕の周りの映画好きは、大体この3作は確実に抑えてますし、概ね高評価というのが肌感です。3作とも、映画トライブにはかなり支持されている作品であるのは間違いないです。
このSF作品たちの気になる興収は?
『インターステラー』の興収は、12億6500万円、『メッセージ』の興収が6億円でした。映画の内容がシリアスでやや難解なことを考えると、まあまあ上々の数値かと思います。
『メッセージ』は、『インターステラー』のノーラン監督のパワーに比べると映画トライブの中での訴求力としても落ちるので、このくらいの興収に落ち着いたのかなと思います。
特に『メッセージ』は顕著ですが、『インターステラー』のノーラン監督も今ほどの影響力がなかったことを考えると、来場した観客は映画トライブが中心だったと考えられるでしょう。
あくまで感覚ですが、この2作の実績からわかるのは、映画トライブに余すことなく届き、「意欲」を十分上げることができれば、それだけでも興収15億くらいまでは行けそうだということ。
単純計算で、興収:15億÷料金:1800円=動員:83万人。バッファを見ておよそ80~100万人くらいの映画好きの「意欲」を上げ、劇場に連れてくることができれば、ある一定の水準まで興収を伸ばすことはできると思います。(ただの参考値なので悪しからず)
ただそれ以上、15億以上の興収を狙うためには、映画トライブ外の人を狙っていく必要があります。そんな中で参考になりそうなのが、驚異の35億4000万円を叩き出した『オデッセイ』です。
『オデッセイ』のターゲット拡張
『オデッセイ』も前述の通り、映画トライブのツボはしっかりと抑えていました。Filmarksの読み物メディア、「フィルマガ」でもタイアップ記事を展開していますね。
こういった映画トライブをベースにしつつも、上手かったのはその拡張の方法。象徴的なのが、この施策です。
同じく宇宙を舞台にした「宇宙兄弟」とのコラボという鉄板施策ですが、これがいいなと思うポイントは以下の通りです。
・映画のアセット(本格宇宙SF)としっかりと紐づいている。
・作品のトーンが近い「宇宙兄弟」とコラボすることで齟齬が起こらない期待値を作れている。
・コラボ先の強さと企画の面白さでPR効果も抜群。
・PRで露出した先でも、「宇宙兄弟」のアセットを生かして『オデッセイ』の内容も伝わる。
クチコミが遡りづらいのと自分が学生だったので記憶頼みですが、当時は結構話題になっていた印象があります。他にも宇宙に関連する施策を複数展開しており、「宇宙トライブ」を拡張先として、しっかり攻めていたことにより、35億超という大ヒットを記録することができた好例と言えるでしょう。
このケースワークから抽出できるのは、「ベーストライブ」と「拡張トライブ」というトライブの区分です。『オデッセイ』では、SFやキャストや監督といった基本中の基本である「ベーストライブ」と、作品のアセットに紐付き派生する「拡張トライブ」を見事に設計して、興収の壁を超えました。
映画ファンを中心とした「ベーストライブ」で盛り上がっていた(局所的熱狂の)『インターステラー』『メッセージ』。映画トライブ以外もしっかりと盛り上げることができていた『オデッセイ』。
目標興収も違うので一概には言えませんが、興収面で考えると、明暗を分けているのは、いかにベース”以外”のトライブに拡張できたかどうかということができそうです。
ちなみに、『メッセージ』も一時期、劇中に登場する宇宙船の形がスナック菓子の「ばかうけ」に似ていると話題になり、それに乗っかったコラボを公式から上げています。
これはまあまあバズった記憶があるのですが、あまり興収に反映されていないのを鑑みると、やはりアセットやトライブに紐づかない施策の効果は弱まってしまうのだと思います。
拡張を検討する上でも、当然ですが「アセット⇒トライブ⇒デモグラ」の順序で考えることを意識していただくと良いでしょう。
目標によってベーストライブと拡張トライブを設計する
映画によって目指すべきKGIも違うと思いますので、目標興収やマーケティング予算に従って、ベーストライブ一強で行くのか、拡張トライブを攻めていくのかを検討するのが良いでしょう。
あまり予算もないのであれば、拡張しても中途半端になってしまいますから、まずは興収15億を目指して、間違いないベーストライブを確実に抑える(広くあまねくは絶対NGです)のが重要です。まとまった予算がある程度使えるのであれば、ベースは確実に抑えつつも、拡張先を検討してみるのが良いと思います。
その際にあくまで参考ですが、100万人くらいの動員で15億、拡張するならそれ以上、みたいな数値感を持っておくと、ベースで狙うべき規模感や、拡張で必要なボリュームを検討するのに役立つかもしれないです(またどこかでこの辺の数値は精緻化していきたいですね、、)
以上、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
P.S.よかったら冒頭に紹介した「プロジェクト・ヘイル・メアリー」も読んでみてください!(ライアン・ゴズリング主演で映画化が進行中)
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