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「洋画離れ」はなぜ加速しているのか。「3C分析」で考えてみた。

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。

以前、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の日本での苦戦を引き合いに、「洋画離れ」について分析した記事を執筆しました。

こちら自分の記事の中では、結構な好評をいただきまして、1.5万PVまで行くなど、沢山の方に反響をいただきました。読んでくださった方ありがとうございます!今回はその続きを書いてみようかなと思っています。

映画の興収や動員はコロナ前の水準に戻りつつある、と言われていますが、その内訳を見ると、アニメ映画を中心とした邦画が興収を引っ張っている部分が大きく、逆に洋画は十分に稼げている状況ではありません。歪な形で「回復」をしている映画市場の実態があるのです。特に、かつてエンタメの頂点として君臨したアメリカ映画(ハリウッド映画)の凋落が著しい。

私はもちろん邦画やアニメ映画も大好きです。でも洋画も本当に大好きですし、映画が好きになったきっかけは、洋画にありました。自分が大好きな洋画(アメリカ映画)が届かなくなっているのはなぜなのか、何かできることはないのか、もう少し深掘って考えてみたいなと思っています。

そこで今回は、以前の記事の続きとして、「洋画離れ」の理由を深掘るために、3C分析のフレームワークを使ってみたいと思います。

注釈

本題に入る前に、あまりにメジャーなフレームワークのため不要かもしれませんが、念のため「3C分析」について解説です。

3Cとは、「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの頭文字を取ったもので、ある商材や企業のマーケティング環境を把握するのに便利なフレームワークです。本記事では、対象(自社)を「洋画カテゴリ」として、各3点を見ていくイメージです。

https://cyber-synapse.com/dictionary/en-all/3c-analysis.html

また、各分析には、映画業界の方々から伺ったお話や、先日発売された大高宏雄さんの「アメリカ映画に明日はあるか」を大いに参考にさせていただいています。

一応補足しておくと、この記事には書ききれないくらい「映画離れ」の要因は複合的だと思いますし、あくまでこの分析は自分の仮説ベースです。ロジックが拙い点などあるかと思いますが、ある程度はご容赦ください。

では、行ってみましょう。

市場、顧客:Customer

まずCustomerからですが、ここ20年〜30年ほどの間に、観客の嗜好性が大きく変わった、ということがあります。

戦後からアメリカの庇護のもと経済発展を遂げてきた日本人の間には、「アメリカ文化」とでもいうものへの無条件な憧れが根強くありました。そこには資本主義社会の確立や、「大量生産大量消費」といった時代の価値観もあったのではないかと思います。それは莫大な資金を持って、大勢の観客(マス)に向けて作られる大作映画や、それらの作品に出演して煌びやかな生活を送るセレブリティに対する憧憬に繋がりました。

そして、こうしたアメリカ映画は、まだ現代よりもはるかに娯楽が少なかった時代に地上波で盛んに放映されたり、ニュースでも取り扱われたりすることで、当時20世紀の観客たちの中での、「エンターテインメントの第一想起」を獲得していきました。

第一想起…何かをしよう(買おう)としたときに、頭に浮かぶ好意的な選択肢の集合体(「想起集合」)の中でも、最上位に浮かぶもの。

https://note.com/ikedanoriyuki/n/n36cf5cb14fc3

そうしたアメリカを中心とした欧米圏のカルチャーへの感情が世代を重ねるごとに、徐々に徐々に薄まっていったのではないでしょうか

背景には、若年層に見られるように、日本人の嗜好性がより「個別化」し、「狭く深く」なっていることがあるように思えます。アメリカ映画に代表されるような、マスに向けた「みんなが良い」とするものではなく、自分ならではの個別化された「推し」に対して、時間とお金を投下するような消費が、若者の間ではメジャーになっています(いわゆる「推し活」)。

自分は96年生まれのギリZ世代なのですが、自分の周囲を見ても、ハリウッドスターだったりアカデミー賞に注目している人は、同世代には少ないな~という肌感があります。コロナが緩和されて遂に解禁されたハリウッドスターの来日キャンペーンもそこまで話題になりませんでした。(それでもやっぱりトム・クルーズは凄かったのですが、、)

22年に行われた『ブレット・トレイン』の来日キャンペーンの様子

そんな中で、鶏卵な部分もありますが、アメリカ映画が地上波で観られる場所も少なくなっていきました。日曜洋画劇場が終了し、金曜ロードショーはほとんどジブリやディズニーになり、洋画をメインで観られる場所は、昼間にやっている午後のロードショーくらいでしょうか。

嗜好性の変化が先なのか、作品に接する場が減少したのが先なのかはわかりませんが(恐らく同時並行)、そうした事象が重なった結果、アメリカ映画は、エンターテインメントの第一想起どころか、「想起集合」の中からもこぼれてしまっている状況なのだと思います。

近年、洋画だけではなく、「洋楽」も若者の間では聴かれなくなっており、市場や顧客としては、様々な分野で「アメリカ離れ」が加速していると言うことができそうです。

競合:Competitor

続いてCompetitorですが、ここは、前述のCustomerの部分と大きく連動する部分です。アメリカ離れが進む中で、それに対抗する「競合勢力」が力を伸ばしました

代表的なものが東アジア圏のカルチャーの台頭です。1番大きいのはご存知の通り、BTSやBLACKPINKを始めとしたK-POPの席巻や、映像でも『イカゲーム』や『愛の不時着』の世界的流行など、韓国カルチャーの隆盛です。

韓国では、音楽や実写映像の分野でしたが、こと日本では、「アニメ」がそのカルチャーの代表格としてメジャー化します。まず最初に日本において、アニメがアメリカ映画を破ったと言われているのが、スタジオジブリの『もののけ姫』です。1997年当時、『もののけ姫』は、『ロストワールド/ジュラシック・ワールド2』と同日の公開でした。

リアルタイムで知らない自分としては信じがたいのですが、当時の世間では、『ロストワールド』への期待値の方が『もののけ姫』よりも大きかったとのこと。結果としては、『もののけ姫』が『ロストワールド』を100億円以上も上回り、ここから潮目が変わったとされています

ただ、まだここまでは、「ジブリ」といったブランドが強く、映画分野では、アニメというカルチャーの確立にまでは至っていませんでした。また、00年代にかけて、アメリカ映画もまだまだ好調です

その後、細田守監督の作品がヒットし始め、さらにアニメの流れを決定的にしたのが、2016年の『君の名は』のメガヒットでしょう。

かつてはアニメが好きなのは、子どもかオタクだけ。この『君の名は』の社会現象化を契機にして、誰でもアニメ好きを公言できるようになり、アニメが「一般的な大人」が観るものとなった、と話す業界の方も多いです。

そしてここに拍車をかけたのが、コロナ禍です。20年〜21年にかけて、アメリカ映画が供給をストップした中、日本の映画興行を救ったのは、『鬼滅の刃』を始めとした、アニメ映画でした

ここで完全に若年層の間で、洋画のポジションは、日本のアニメ映画に置き換えられてしまったのだと思います。かつては、映画館にデートに行く際には流行っている洋画を観たカップルが、現代では流行っているアニメ映画を自然と観に行く。

これが最も顕著に現れたのが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が、日本国内で一度もランキング1位をとれず、『THE FIRST SLAMDUNK』、『すずめの戸締まり』に準ずる3位だったという事象です。

上記の状況が数週間続いた https://realsound.jp/movie/2022/12/post-1218474.html

観客の嗜好性が変化したことに加え、アジアカルチャー、とりわけ日本ではアニメが強力な競合として台頭したことにより、「洋画離れ」に拍車がかかった、ということができそうです。

コンテンツ:Content

最後に自社(Company)ですが、ここでは「洋画カテゴリ」全体の問題点ということで、自社=コンテンツと置き換えたいと思います。

冒頭の大高さんの書籍では、『ジュラシック・パーク』を契機とする、アメリカ映画における、「なんでも可能な」CG技術の発展が、逆に映画の楽しみ方をマンネリ化させた、と分析されていました。

スピルバーグが入り口を作り、マイケル・ベイやジェリー・ブラッカイマーが確立させた、ストーリーよりもCGや特殊効果に裏打ちされた映像が主役になる「ブロックバスター映画」。

こうした作品は、大迫力のエンターテインメントをマス向けに提供する、いわばアトラクションのようなもので、前述の観客の嗜好性の変化とは合わなくなってきた側面もありそうです。

また近年はハリウッドのネタギレが叫ばれて久しいですが、過去の名作の「〇〇年振りの続編」やリメイク、リバイバルが非常に増えたのも、洋画離れの責任の一端であると考えられます。

約20年ぶりの続編

そうした作品は、原作をリアルタイム世代で観てきた世代にとっては刺さる余地が高いかもしれませんが、新規で洋画を観る若年層にとっては、予習・復習が必須だったりと、その鑑賞は敷居が高いものになります。

こうしたコンテンツの一面が、市場や競合の状況と合わさり、洋画離れを引き起こしている一因となっているのかもしれません。

(私はあくまでマーケターとして、コンテンツや商材のせいにするのは矜持に反するので、ここはあっさり目に留めます)

3C分析のまとめ

ここまで見てきた内容をまとめると、今までアメリカ映画、ひいてはアメリカ文化に日本人が無条件に抱いていた憧れが薄まり、韓国や日本のアニメを筆頭に、アジア圏のカルチャーが台頭した。さらにそこに対抗しなければいけないアメリカ映画自体の、コンテンツ力が弱まった。

こうした流れが、複合的に重なった結果、いまの「洋画離れ」が顕在化しているのではないかなと個人的に思っています。

かなり根深い問題です。映画に限った話でもないですし、市場や観客の嗜好性が大きく変わっているので、これを覆すのはかなりハードルが高いかもしれないですね、、

「洋画離れ」は世界的現象?

ここまで、日本のマーケットを中心に、3C分析をしてきましたが、こうした状況は、世界、特にアジア圏でも起こっているようです。

先にも紹介した、『THE FIRST SLAMDUNK』や『すずめの戸締まり』は、韓国や中国を始めとしたアジア諸国でも、アメリカ映画を抑え、特大ヒットを記録しています。

またディズニーは、コロナ禍を機会に、新作の劇場公開を抑え、ディズニープラスでの配信を強化しましたが、この市場環境の変化を見据えていたのかな、なんて思ってしまいます。

特に「スターウォーズ」シリーズや、「マーベル・シネマティック・ユニバース」は続々と新作がディズニープラスで供給されていますが、正直新規層が入るにはもはやハードルが高すぎます。こうした動きは、世界中のCustomerの嗜好性の変化を加味し、新規顧客=マスを狙うのではなく、すでにコンテンツに対して可処分時間・可処分所得を投下してくれている=「推し」てくれているファンに対して、「狭く深く」コミュニケーションを行なっている、ということなのかもしれません

「洋画離れ」を乗り越えるために

欧米一強ではなく、アジアのカルチャーだったり、日本のアニメ映画が盛り上がっていたりすることは、間違いなく素晴らしいことです。『アバター』の苦戦についても、日本独自のコンテンツ力が強まったと考えれば、それは本当にポジティブなニュースとして捉えることができると思います。

でも自分は洋画、アメリカ映画を愛しているので、ややポジショントークに聞こえてしまうかもしれませんが、洋画が日本の映画文化に貢献してきた側面も非常に大きいと思うのです。

自分も含め、映画がいま好きな周囲の方々は、それこそスターウォーズだったり『E.T』だったり、洋画を入り口として、映画の世界にどっぷり浸かったという人が凄く多いです。良くも悪くも「わかりやすい」「シンプルに楽しめる」アメリカ映画は、元来映画を観るためのハードルを下げ、映画好きの人口を上げてくれるポテンシャルがあると信じています

だからこそ、アニメ映画ばかりでなく、洋画にも観客が戻ってきてほしい。映画業界の「回復」は、邦画と洋画、どちらもが伸びることによって達成されてほしいなと強く思います。

そしてチャンスがあるなと思ったのは、今年の2月に公開された『タイタニック』の3Dリマスター版がヒットを飛ばした事実。しかも若年層、特に20代の女性が観に来たということです。

洋画全盛期時代の、しかも195分もある映画が若年層も含めてスマッシュヒットを記録したというのは、本当に希望が持てる事実です。

このヒットの大きな要因として、公開初日から SNS上で熱狂的なクチコミが多くなされたことだと思われますが、その中でも多いのが「ラブストーリー」の部分への言及でした。映像スペクタクルでも、レオナルド・ディカプリオでも、ジェームズ・キャメロンでもなく、です。

これは作品が持つ「ラブストーリー」というアセットが、若年層の女性との間で「文脈」を作れたからこそ、ここまでのヒットに結びついたのではないでしょうか。本作のケースは極端な例かもしれませんが、現代の嗜好性に合わせた「文脈」作りを行うことで、まだまだ洋画にもチャンスがあると思い知らされました。

ここまで見てきたように、おそらく今後、ハリウッドスターの来日や、マス的なアプローチでは、洋画への動員を促すことはもっともっとハードルが高くなっていくでしょう。

でも市場を見ること、観客を見ること、そして彼らとどんな文脈を作れそうか考えること、マーケットインでコミュニケーションを選ぶこと…、そうした「マーケティング」で、潮目を変えることはできると思います。

自分も1人のマーケターとして、洋画LOVERとして、洋画の「リブランディング」を主体的にやっていきたいなと思います。

以上、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!良かったらフォローもお願いします。

PS
先日観た『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が本当に面白かったです!あんなに劇場でゲラゲラ笑って、ハラハラドキドキして、そして感動した映画は久々です。まさに「アメリカ映画」な体験でした。まだ未鑑賞の方はぜひ!!

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