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本当の心の強さとは、つぶれる前に休めることだ――『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』

 「心を鍛える」「メンタルが強い」という表現がある。裏返すと、落ち込みやすかったりストレスに弱いのは本人の努力が足りない、という暗黙の了解があるような気がする。

 では、心も筋肉みたいに鍛えられるのか? そうではない、というのが、自衛隊メンタル教官(今は退官している)の著者の考えだ。

「倒れる前に休ませる」ことの重要性

 紛争地域や災害の被災地などに派遣される自衛隊の隊員たちは、何があってもへこたれない鋼のメンタルを持っている――ほとんどの人がそういう先入観を持っているのではないか。

 しかし著者によると、長期戦を闘うには、2つの要素が必要だという。1つめが「組織力」。2つめが「疲労のコントロール」だ。

 1つめの「組織力」はわかりやすい。戦闘部隊だけでなく、通信や医療、物資といった部隊も、長く戦うために不可欠だからだ。

 では、なぜ2つめの「疲労のコントロール」が必要なのか? それは戦力が低下しきる前に部隊を交代させることで、戦力を維持する必要があるからだという。任務達成のためには、部隊が倒れるまで働かせてはいけないのだ。

 つまり、自衛隊員たちの心の強さは、持って生まれた素質や訓練によって鍛えられたものではなく、「疲労のコントロール」によってつくられているともいえる。

休むことへの罪悪感

「疲れきる前に休む」。これは簡単なようでいて、意外と難しい。責任感の強い人ほど、仕事を途中で投げ出すようで、休むことに抵抗感を抱くからだ。

 しかしこのような考え方は、自衛隊だけでなく、私たちにも需要だ。会社員生活というのはある意味長期戦だし、それとは別に、今は「ウイルス」という見えない敵との長期戦を覚悟しなければならない。

 休むという決断は、逃げやサボリではなく、人生を生き抜くためには必要なことなのだ。

感情にもエネルギーが使われている

 本を読んでいて、なるほどと思ったことがある。それは、怒りや不安、喜び、悲しみといった感情にも、エネルギーが使われているということだ。

 エネルギーとは少し違うが、栄養学に詳しい医師と仕事したとき、ストレスによってビタミンCが消費されるという話を聞いたことがある。

 もちろん、瞬間的な感情というのならそれほど問題にならないだろう。しかし、こうした感情が長く続くと、エネルギーは消費され続けていく。著者はこれを「感情のムダ」と表現する。

  肉体的な疲労だけでなく、感情の疲労も、蓄積されていけば、私たちにとっては大きな問題となる。もしかすると現代日本では、肉体疲労よりも感情の疲労のほうが大きいかもしれない。そして本人がその疲労の蓄積を自覚していない場合、ある日突然倒れてしまうこともありうる。

 特に今は、テレビやネットで最新の情報を得ようと思っても、かえって不安をあおられ、知らず知らずのうちにそれにエネルギーを奪われているような気がしてならない。

「休むのも仕事のうち」とはよく言われることだけれども、少し自分に甘いかな、というくらいの休ませ方が、ちょうどいいのかもしれない。



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