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闘病中じゃない人にもおすすめしたい闘病記――『Passion~受難を情熱に変えて~』

 現在、東京大学医学部で特任助教を務める、放射線科医の前田恵理子さんの闘病記。著者を知ったのは、今年の1月の日経新聞の記事だった。

 現役の医師で一児の母、そして4度の肺がん再発を乗り越えたがんサバイバー。しかも、学生の頃は重症喘息で16回の入退院を繰り返していたという。そんな数々の困難を乗り越えてきたというのだから、ただ者ではない。その著者の半生をまとめた手記がこの本だ。

37歳で見つかった肺がん

 ある日、放射線科医として自分の胸部CTを読影していたところ、肺がんと思われる病変を発見したところから、話ははじまる。ショック状態から立ち直ると、すぐさま手術を受ける決断をする。手術は無事成功。しかし、ステージIAと思われたがんは、肺を包む胸膜の外に出ており、ステージIBと判明する。

 そして著者は、自分と同じ病状の場合、5年生存率は3割というデータに衝撃を受ける。

 すごいのはここからだ。落ち込むどころか、

「3割どころでない厳しい関門を何度も潜り抜けてきたお前ならできるだろう!」

 という天からの挑戦を受けて立つ。こうして著者の闘病の日々がはじまった。

帰国子女、喘息のハンデを乗り越え東大に現役合格

 活発で好奇心旺盛だった子ども時代、夢見ていたのは天文学者。その後、人体の不思議に魅せられ、医学に興味を持つようになる。それ以外にもバイオリンでも才能を発揮し、音大受験を期待されるほどだったという。

 11歳のとき、父の海外赴任のためオランダへ渡る。インターナショナルスクールに通いながら日本とは異なる教育に刺激を受けながら成長していく。しかし、気候や環境の変化、ストレスなどもあり、喘息を発症。帰国後も救急搬送されたり、入退院を繰り返しながらも、編入した日本の高校で数学の偏差値35から一気に成績を伸ばし、見事東大医学部に現役合格するのだ。

 しかし喘息は一進一退。医学部時代には、酸素ボンベを常につけながら生活する在宅酸素療法を導入。「ポチ」と名付けて実習にも連れていく。

 病気というのは、自分でコントロールできないものだ。それでも、何度も襲い掛かってくる試練に、著者は屈することがない。そのたびにいろいろな方法を使って、その困難を乗り越えていくのだ。

読みはじめたら止まらない闘病記

 この本をひと言でいうと、「喘息、そして肺がんの闘病記」ということになるのだろう。そして、メイン読者はがん患者やその家族になるのかもしれない(ちなみにアマゾンのレビューを見ると、医学系の出版社から出されていることもあり、医療関係者に多く読まれている様子)。

 しかしこの本は、ほかの病気の人も、闘病中でない人も、ぜひおすすめしたい。まるでドラマや映画のような展開で、読みはじめたら最後、先が気になってしまい、一気に読めてしまう。

「週刊少年ジャンプ」の掲載作品には、「友情・努力・勝利」という三大原則があるという。このいずれかをテーマに組み込むことを編集方針としているそうだ。

 ノンフィクションでありながら、この本には、そのすべてがある(「友情」については、友情以外に親子の愛情も描かれている)。だから、読むと勇気がわいてくる。

『Passion』は、現在Part1~2までが刊行されているが、幻冬舎から新刊が予定されているようだ。次回では、どんな言葉で私たちを勇気づけてくれるのだろうか。待ち遠しい。




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