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町田康、酒やめたってよ――『しらふで生きる』

 今年の正月はアルコールなしで過ごした。こんなの四半世紀ぶりだ。さぞ肝臓はびっくりしたことだろう。

 理由は単純で、年末に気胸の手術を受け、退院したばかりだったからだ。痛み止めが手放せず、タクシーで実家に帰るような状態だったから、さすがに酒どころではなかった。

 そこから数カ月経った今はさすがに解禁しているが、最近、むくむくと「酒をやめてはどうか」という気持ちが持ち上がってきた。

 同じことを考えた人がいる。芥川賞作家の町田康さんだ。

酒は人生をプラスにするのか、という大疑問

 著者と酒席をともにしたことは、もちろんない。しかし「大酒飲み」というイメージはあった。その著者が酒を断つとは、一体何が起きたのか。顛末をつづったのがこの本だ。

 著者の禁酒の理由を平たく言うと(以下ネタバレ注意)。

「一日の終わりに酒を飲んで、『今日の自分は頑張った!』とご褒美的にねぎらっても、楽しさは数時間しか続かない。逆に、翌日ひどい二日酔いになったり、体を壊したり、もっと言えば酒代、つまみ代がかかったりと、人生をプラスにしようという飲酒という行為は、かえってマイナスを生んでいる」

 ということに尽きる。

 これはなんとなくわかる。特に大人として成熟を重ねるにつれ、アルコールに対する感受性が強くなり――というと聞こえはいいが、要するに年を取るにつれて酒が残るようになった。

 そうまでして飲む必要があるのか? 飲まないほうが仕事も捗るし、金もたまるのでは? そんな疑問を抱いている人には、著者の言葉がグサグサと刺さるはずだ。

3カ月の禁酒生活で学んだこと

 ウィキペディアの情報によると、著者は2015年12月26日から禁酒しているという。そんな著者の足元にも及ばないが、私も3カ月ほど、禁酒生活を送ったことがある。

 それは子宮筋腫&卵巣嚢腫の手術のために、術前3カ月前からホルモン療法をおこなったときのこと。1カ月に1回女性ホルモンを抑える注射を打つことで、筋腫を小さくして手術しやすくするのが目的だ。

 しかし、これがキツかった。体は閉経後の状態になるから、副作用として更年期障害と同様の症状が出てくるのだ。

 注射をした翌朝、はっきりと自覚したのが、頭の上に漬物石がのっかってるような頭重感、そして肩こり。ちょっとしたことでイライラしやすく(自分の性格が悪くなったと落ち込んだ)、噂に聞くホットフラッシュもあった。

 医師からこうした副作用があることは知らされていたが、予想外の体の変化があった。酒に悪酔いするようになったのだ。

 飲酒は止められていなかったから、ホルモン療法開始後も、いつもと変わらず飲んでいた。そしてある晩、知人宅の食事会の途中で具合が悪くなってしまったのだ。とても自宅に帰れる状態ではなく、結局一晩その知人宅に泊めてもらった。

 日頃から、「酒飲みたるもの、人様にご迷惑をかけるような飲み方をしてはならない」と思っていた私は、この体験でかなり凹んだ。そこで手術が終わるまでは禁酒しようと決意した。

 禁酒生活をはじめて思ったのは、「徹底的にアルコールを断ったほうがラク」だということだ。

 例えば自宅で飲まずに外でだけ飲む、乾杯のときだけ飲んであとはソフトドリンクに切り替えるといった「中途半端な禁酒」のほうが、むしろ難しい。自宅で飲めない分かえって酒量が増えてしまったり、乾杯だけのつもりがズルズルと飲み続けてしまったりすることが、往々にしてあるからだ。

 そうして3カ月ほど禁酒していたら、自然と2、3㎏ヤセていた。この脂肪はアルコールとつまみのせいだったのか! と、酒の恐ろしさに気づいた次第。

しらふで生きることのメリット

 そうはいっても、喉元過ぎればなんとやらで、酒量は減ったが相変わらず酒を嗜んでいる。

 しかし、ここのところの自粛生活で時間にゆとりができた分、酒量に際限がなくなりそうで、そろそろストッパーをかけたくなった。そこで、この本の出番である。

 本の中では、前半部分が禁酒に至った経緯(というか心境の変化)、後半部分が禁酒のメリットについて述べているが、個人的には後半部分のほうが、禁酒のモチベーションになると思った。

 著者は禁酒のメリットとして、以下の4つをあげている。

①ダイエット効果 ②睡眠の質の向上 ③経済的な利益 ④脳髄のええ感じによる仕事の捗り

 今のイレギュラーな期間を、飲んでやり過ごすか、自分を変えるきっかけにするか――。

「町田効果」で今週末は禁酒したが、来週はさて。


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