菊澤研宗

慶応義塾大学商学部教授 専門 経営学、組織の経済学、経営哲学

菊澤研宗

慶応義塾大学商学部教授 専門 経営学、組織の経済学、経営哲学

最近の記事

労働市場と組織

働き方改革のもとで、労働市場の流動性が熱く語られている。労働移動が起こると、みんなハッピーになる、といっている。企業にとっても必要なときに必要な人を雇用できるので、非常に効率的だという。 しかし、市場と組織はやはり違うと思う。ナポレオンの軍隊がなぜ強かったのか。当時、ほとんどの国の軍隊は傭兵だったのに対して、ナポレオンの軍隊は国民軍だったのである。つまり、労働市場 vs 組織だったのである。 傭兵はお金で雇われているので、割に合わないと戦場で逃げる。そこで、逃げないように

    • 東京医科歯科大学の田中学長と淺香看護部長との対談記事 ー組織論からみた本学のコロナ対応と今後のあり方についてー

      東京医科歯科大学の田中学長と淺香看護部長との対談記事が、ネット上で公開されました。以下のツイッター記事から、内容を読むことができますので、関心があれば、ぜひ一読お願いします。 ●以下の東京医科歯科大学のHPから読むことができます。 https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56865_ext_26_0.pdf ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【田中学長が菊澤研宗先生との対談を行いました】 組織論からみた本学のコロナ対応と今後のあり方について

      • DCと今村

        陸軍大将今村均は仁将として知られている。彼は、時間があれば、できるだけ多くの人と話をし、歓談した。それは、中堅から下層の兵士までだ。別に彼は人と話すことが好きだとか、彼の権威を示して自己満足しと思ったわけではない。彼は、リーダーとして、日頃から、できるだけ部下には手柄を上げさせてあげたいと思っていた。そのために、部下のことを知りたかったようだ。  こうした将軍だったので、突然、状況が変化し、誰を抜擢すべきかという問題が起こっても、うまく人事をすることができた。このような能力

        • 非正規労働者をめぐる経済学と経営学の見方の違い

          市場の経済学では、自由に資源が市場を通して移動して交換されることを良いとする。損得計算に従う人間を仮定している。 経営学では、そのような組織は弱いとみる。危機を共有できないからだ。みんな逃げていく。強い組織には、正しいかどうか、好きか嫌いか価値判断をする人間が必要だ。

        労働市場と組織

          東京オリンピックをめぐる意思決定は、開戦への意思決定プロセスと似ている。

          現在のオリンピックをめぐる意思決定プロセスは、日本が太平洋戦争に向かう意思決定プロセスと似ている。 決定を先延ばしにしているうちに、結局、時間とともに選択肢を失い、ズルズルと日本は戦争に向かっていた。それは、決意なき開戦だった。だから、誰も責任をとらなかった。 同じことが起こりそうだ。戦後、東京裁判で、多くの戦犯たちが自分は戦争はしたくなかったと主張した。同じように、関係者は、オリンピックはしたくなかったというのだろうか。

          東京オリンピックをめぐる意思決定は、開戦への意思決定プロセスと似ている。

          組織(労働・人事)をめぐる経済学と経営学の違い

           最近、新自由主義、オープン・イノベーションが流行っているので、労働市場の流動性が強調されている。そのためか、以下のような2つのことが、昔のことのように、忘れられている。 (1)ケインズが主張していたように、労働市場は硬直的であること。 (2)ウイリアムソンが主張したように、労働市場は取引コストが高いこと。   さらに、労働経済学は人的資源配分の効率性を追求するのであるが、それは簡単にいうと、最適な部分(専門職)の総和としての組織(Σ部分=全体)を形成することである。

          組織(労働・人事)をめぐる経済学と経営学の違い

          働き方改革 同一労働同一賃金?

          正規労働者と非正規労働者の不平等を解消するための政策として、政府は同一労働同一賃金を要請している。これは欧米型の賃金制度である。 果たして、これによって問題は解決されるのか?この制度は、人間に賃金が付くのではなく、職務にお金が付く制度である。この制度がより完成度を高めていくと、各職務が評価されて、ある職務の賃金は高く、ある職務の賃金は安いという形で、職務間で差別・格差が出現する。 一般に、欧米では会計・ファイナンス関連職務の給与は高く、営業は安い。そうすると、正規労働者は

          働き方改革 同一労働同一賃金?

          複業・副業を認める経営って?

          私は、頭の固い人間で、副業・複業を認める経営、経営者ってどうなの?という人間です。 また米国の真似か、と思ってしまいます。米国に在って日本にないものがあれば、それを政策として日本にも導入しようとする。しかし、それは大抵失敗する。ロースクール、裁判員制度、アカウンティングスクール、大学院大学構想などなど。 副業を認めるという制度は、おそらく米国流の個人主義ベースの市場経済的な志向と関係しているのだろう。米国企業の場合、企業は株主主権なので、経営者にとって、従業員や労働者の優

          複業・副業を認める経営って?

          アミタ会長・社長の熊野氏との対談 第1回目

          アミタ会長・社長の熊野氏との対談第1回目です。 ダイナミック・ケイパビリティ論に関する私の最新の考えが掲載されています。 ダイナミック・ケイパビリティ論に関心のある方は、ぜひ一読お願いします。 --「VUCAの時代に求められる"エコシステム経営"と新たな価値を生み出す組織能力 "ダイナミック・ケイパビリティ"」 サイト(クリック) → https://www.amita-hd.co.jp/vision/message/20210212.html

          アミタ会長・社長の熊野氏との対談 第1回目

          社外取締役中心のガバナンスに疑問 「米国型」の模倣は必要なし

          日経ビジネスでのダイナミック・ケイパビリティの連載(最終回)第5回ーコーポレート・ガバナンスに関して、日本ではエージェンシー理論にもとづいて社外取締役が重視されているが、ダイナミック・ケイパビリティ論の観点からは社内重役が重視されることを説明しました。ぜひ一読お願いします。 ●以下のサイトです。 https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00133/020100005/?fbclid=IwAR2_Rke6qJ6th3q4R02S8gI

          社外取締役中心のガバナンスに疑問 「米国型」の模倣は必要なし

          日本企業ならできる、変革につながる人間中心のDX

          日経ビジネス:ダイナミック・ケイパビリティの第4回目です。GE、シーメンス、富士通のデジタルツイン(日米独)を比較し、富士通の人間中心のDXはダイナミック・ケイパビリティと相性がいいことを説明しました。一読お願いします。ーーー日本企業ならできる、変革につながる人間中心のDX クリックー日経ビジネスサイトへ https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00133/012500004/

          日本企業ならできる、変革につながる人間中心のDX

          危ない「働き方改革」、実は変革に向いた日本の組織

          日経ビジネスの「ダイナミック・ケイパビリティ論」連載 第3回目ー今回は日米独組織を比較し、ダイナミック・ケイパビリティと相性の良い日本型組織が、「働き方改革」によって硬直化する可能性があることを説明しました。 https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00133/011900003/

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          日経ビジネスでのダイナミック・ケイパビリティ論 第2回目

          日経ビジネスでのダイナミック・ケイパビリティ論の連載の第2回目。  今回は、少し理論的な内容です。菊澤ゼミの学生には、すでにお馴染みのものですが、ダイナミック・ケイパビリティ論を経済学的に説明してみました。「ダイナミック・ケイパビリティの経済学」と呼びうる内容です。  昨年末に発行された「三田商学研究」の堀越先生の退官記念号に、もっと詳細な論文を書いているので、そちらも関心があれば、読んでみてください。  ダイナミック・ケイパビリティ論をより理論的に理解には絶対に役立つと

          日経ビジネスでのダイナミック・ケイパビリティ論 第2回目

          「週刊新潮」での佐藤優さんとの対談記事がネット公開

          「週刊新潮」での佐藤優さんとの対談記事がネット公開されました。関心があれば、一読ください。 人間は「合理的」に行動して失敗する――菊澤研宗(慶應義塾大学商学部教授)【佐藤優の頂上対決】 https://www.dailyshincho.jp/article/2021/01120555/?all=1

          「週刊新潮」での佐藤優さんとの対談記事がネット公開

          「日経ビジネス」で、拙稿の「ダイナミック・ケイパビリティ」の連載が始まる

          「日経ビジネス」で、ダイナミック・ケイパビリティについての私の連載が始まりました。関心のある人は、ぜひ一読してください。第1回は不条理論から初めて、今後、不条理の解決案としてダイナミック・ケイパビリティ論を展開していきます。:「日経ビジネス」のサイトhttps://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00133/122500001/

          「日経ビジネス」で、拙稿の「ダイナミック・ケイパビリティ」の連載が始まる

          組織の不条理

          ガダルカナル戦のように、逐次投入して撤退しないオリンピック。 インパール作戦のように、必ず失敗するといわれて強行したGoToキャンペーン。学徒出陣のように、医療現場崩壊で投入される院生。 そして陸海軍の対立のように、対立する政府と東京都。 個別合理性、目先の合理性、形式合理性を追求し、合理的に失敗している。 まさに組織の不条理である。

          組織の不条理