働き方改革 同一労働同一賃金?

正規労働者と非正規労働者の不平等を解消するための政策として、政府は同一労働同一賃金を要請している。これは欧米型の賃金制度である。

果たして、これによって問題は解決されるのか?この制度は、人間に賃金が付くのではなく、職務にお金が付く制度である。この制度がより完成度を高めていくと、各職務が評価されて、ある職務の賃金は高く、ある職務の賃金は安いという形で、職務間で差別・格差が出現する。

一般に、欧米では会計・ファイナンス関連職務の給与は高く、営業は安い。そうすると、正規労働者はエリートとして会計・ファイナス部門に配属され、非正規労働者は賃金の安い営業を中心として雇用される可能性がある。すると、格差は広がり、固定化するだろう。

米国などの外部労働市場が流動的な世界では、最初に営業に配属されても、能力のある人はすぐに退職して、ビジネス・スクールに入学して会計ファイナンスを専攻して、賃金の高い会計ファイナス部門に転職するだろう。能力のない人は、賃金の低い営業に留まるのだ。

さらに、このような職務が明確になると、会社は社員に投資しない教育しない。個々人に投資して別が会社に転職されると、損するからである。それゆえ個々人が自分に投資し、自分で教育を受けることになる。そして、より高い賃金を求めて自由に賃金の高い職務へと移動することになる。こうして、労働市場は活性化する。労働経済学者は、これがまさに市場による効率的な人的資源配分システムだという。

その通り。しかし、人間組織はそんな単純なものではない。そのようなシステムで構成される人間の集まりは単なる部分の総和に過ぎない。いま流行りのエンゲイジメントなど生まれないだろう。

本当の人間組織は、個々の総和以上となる。ドラッカーの言葉でいうと、組織、マネジメントとは、個々人の弱みを小さくし、強みを活かして個々人の総和以上の全体を形成するのである。人間組織には非合理的な要素がたくさんあり、人間はそれを理解したり、ときには感動したり、涙することもある。思わず「ああ~(もののあわれ)」ということがある。

このような非合理なものでむずびついていない、全体が単なる総和である組織には不条理が起こる。

かつてリーマンショックで、倒産しそうな投資銀行に、米国政府は大量の補助金を注入した。これで生きながらえたその会社は社員に高給を支払い、世間の批判をあびた。このときの、その会社は、高給を支払わないと社員が辞めるからだと答えたのである。組織の不条理である。それは組織ではなく、単なる個々人のモザイクであり、危機を共有できない脆弱な見せかけの組織なのである。

本当の組織とは、給与が下がっても、この会社が好きなので、辞めないで会社のために頑張るというメンバーからなる組織である。それが、エンゲイジメントである。

日本企業はそういった組織であってほしいと思う。

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