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生きていていいのか。生きていけるのか。

誕生日を迎えたからか最近考え事が多い。
今年は今までとは違い十の位が変わった。
別に何も変わらないと思っていたが
実際変わってみると違ったようだ。

今までより先のことを見てしまう。
どうなるかも分からないのに
今の、現時点での延長線上を覗いていた。

昼ごろ、父といつものようにテレビを観ていた。
いつもと変わらない日曜日。
そのはずなのにザワザワした私の心は
だんだん波が大きくなっていく。

ふと父に尋ねたくなった。
「私は生きていていいのかな?」
答えは分かりきっている。
「いや、死んだ方がいいと思うよ」なんて返事は
まず返ってこないだろう。

「ただ、存在しているだけで何も出来なくて何の役にも立たなくて。寧ろ存在している事で迷惑しかかけていないのに、私は生きていていいのかな」
そう問いかけたかった。

でも、やめた。
と、言うより聞けなかった。
口にする事で父を傷つけてしまう気がして。
何の役にも立っていないのにその上、嫌な思いをさせるなんて最悪だろう。
そんな風に思いとどまり聞かずに過ごした。

母もそのうち帰ってきていつもの我が家が広がった。
アニメソングNo. 1のテレビがやっていたので
みんなで1位を予想したり
紹介されるアニメについて
「こんなの知らんな」
「これはいい曲よね」
なんて話しながら一緒に楽しんだ。

父が寝た後、今度は母との時間になる。
昼間くすぶった思いが又溢れそうになった。
母には口にしていいかな…。
なんて言ってくれるんだろう。
そう思いながらもなかなか口には出せなかった。

母だって父と同じだ。
私が口にする事で少なからず傷つくだろう。
これ以上厄介な娘になるのか?
そんな葛藤がやはり私の中では繰り返されていて
結局、口に出す事はやめた。

そのつもりだった。

母が先に寝ると横になった。
私はいつも通り寝る前のタバコを吸いながら
口にしなかった事を考える。
いつも通り音楽を聴いて吸えば良かったかもしれない。
でも、歌や歌詞が頭に入ってくるのが今日は嫌だった。
なんか一人で考えたかった。
タバコを吸いながら物思いにふけりたかった。

台風の情報が気になり母が起きてきた。
「大丈夫そうやね」
いつもの調子で話しかけられる。
「そうやね」
そう答えながら何となく顔を合わせないように下を向いた。
寝る前の薬を飲み私も横になった。

横になって目を瞑ってなるべく深い呼吸を意識した。
ワンコが私の枕の横で寝ているので
そっとなでながら自分を落ち着かせたかった。

5分…10分は経っていないだろう。
目を開け隣を見るとスマホの明かりが見えた。
母は横になってゲームをしていた。
まだ起きていた。

「お母さん…」

思わず声にしていた。
声色で何かを感じ取った母は
「どしたん?」と答えてくれた。

すぐには口に出来なかった。
頭の中でもう一度口にしていいのか考えた。
でも、もう問いかけた時点で気持ちは溢れ出し始めていた。

「最近ね、生きとっていいんかなって思うんよね」
とうとう口にしてしまった。

「何を言うんよ」

「何にもしてなくて何もできんのにさ、生きとっていいんかなって思うんよ」

「…おるだけでいいんよ。何言いよんよ」

「生きとっていいんかなって言ってね、よくないやろって言う人はおらんと思うけど」

「そりゃそうやね」

少し空気が柔らかくなった。
母の声は涙声になっていた気がする。
私達はそのままお互い天井を見ながら話し続けた。

「今は何も出来んでもそのうち心も体も元気になったら何かやりたい事が出てくるよ。頭のいい子やもん。何かやりたくなるよ。」

「そうやろうか…」

「そうよ。きっと何かしたくなるよ。1年先の事も分からんのに先の事なんて何にも分からんやん」

「…うん…」

「焦らんでいいんよ。ゆっくりしたらええんよ。何も心配せんで大丈夫よ」

「今日のお昼ね、お父さんにも同じ事言おうとしたんよね。でも言えんかった。」

「そうなんや」

「お父さんは何て言うんやろか」

「お父さん何て言うやろねぇ。聞いてみたらええんやない?」

「聞いてもいいんかね」

「いいやろ」

母も父が何て言うのか分からなかったのか
それとも父の答えに興味があったのか。
私にとっては意外な返事が返ってきて少し驚いた。

「誕生日があったからやろねぇ…なんか先の事考えるんよね。私生きていけるんかなって」

自然と涙が溢れ始めた。

「誕生日やっからやろね。色々考えとんやろ。焦らんでいいんよ、本当に」

「今まではね、まだ若いとか思ってやり直せるとかどこかで思ってたんやろうけど、もう若くなくなってしまったやん?これからやり直せるんやろかって…」

「1つ歳とっただけやん。そりゃ世間からしたら若くないかもしれんけど気にする事ないやろ」

台風の影響で窓の外が雨の音で激しくなった。
その音にびっくりしたのかワンコが起きて何もない宙に向かってワンワンと吠え始めた。

「大丈夫よ。あんたじゃ太刀打ちできんよ」

母がワンコに呼びかける。
ワンコと台風を闘わせる母が少し面白かった。
それでもなお吠え続けていたが
落ち着いたようで又私の枕の横で丸くなった。

「…なるようになるよ。大丈夫」

最後にそう声をかけてくれた。
私は涙が溢れて止まらなくてタオルで顔を押さえていた。
母も眠れなくなったのかしばらくゴソゴソしていたが
起きてテレビをつけ、台風情報を見始めた。

あぁ、私があんな事言ったから母は眠れなくなってしまった…

申し訳ないと思う。ごめんって。
なのに、口にした事に後悔はなかった。
でも、口にしたから良かったとも思っていない。

私達はこういう会話を今までも数えきれないくらい繰り返してきた。
きっと私には必要なのだろう。
「大丈夫」と言ってもらう事。
涙を流させてもらう事。
不安を口にする事。

お母さん
いつも聞き役させてごめんね。
まだ生きていていいのかな。
いつか生きていけるようになるかな。

仮にサポートを頂けましたら大変貴重ですので大事に宝箱にしまいます。そして宝箱を見て自分頑張ってるねと褒めてあげます(〃ω〃) ♪