感想「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」(辻村深月作)
こちらの感想ではネタバレは極力入れません。配信アプリ「ツイキャス」にて、この本の紹介しながら、配信を見ている方とおしゃべりする時間を作る予定です。
紹介する内容、ピックアップする点は基本的に記事と同じです。しかし、ライブ配信なので、予定調和にはなりません。
感想語り配信予定日 2019.5.31 21:00〜21:30
✳︎配信は終了しました。配信履歴から動画は視聴いただけます。
https://twitcasting.tv/c:eureka0202
「すべての娘は、自分の母親に等しく傷つけられている。」文庫本p285より引用
あらすじ
みずほとチエミ。幼なじみの「親友」だった二人。時とともに無邪気な「親友」ではなくなった二人。
チエミは自分の母親を刺し、殺してしまった後、失踪する。事件から半年。みずほはチエミを探しはじめた。
みずほはなぜ、今更チエミを探すのか。チエミはなぜ、逃げているのか。
女の友情と、母と娘の関係は、複雑で、面倒臭くて、甘くて、脆くて、投げ出せない。
感想
私が、この本を読むのは二度目になります。一度目は大学生の頃。
主人公たちが30から31になる、という設定なので、大学生では分からなかったことがたくさんあったと、読み返してみて思いました。読み返して本当によかったと思っています。
物語は2章構成。その大半は第1章に割かれています。
ジャンルをあえて分けるなら、「ミステリー」でしょう。
行方不明の人を探し、なぜ彼女が母親を殺したのかを探る「ミステリー」です。
第1章はみずほの視点。チエミを探すために、彼女の知り合い達と連絡を取って、話を聞いていく形で物語が進みます。
みずほは大学で東京に出て、一度地元(山梨県甲州市という設定)に戻り、結婚をきっかけにまた東京に戻った女性。
チエミ探しにおいて、大半を地元の友人関係に頼っているみずほですが、基本的に、地元の友人たちと、齟齬を感じていることを彼女は地の文で語ります。
その齟齬は「地方と都市部」であり「キャリア」であり…その微妙な感情を含みながらの、やりとりが私はとても好きだなと思いました。
絶妙なんです、嫉妬と羨望が。私の周囲ではこういうことは起きていませんが…でも、なんとなく、分かる。その「なんとなく、分かる」は『リアル』と表現するものかもしれません。
読者は第1章ではチエミの本人の姿を見ることはできません。
全て誰かの記憶の中、過去の彼女です。
彼女を語る人たちの言葉、そしてみずほの考えにも時々、チエミを下に見るニュアンスが滲んでいます。チエミという女の子は、そういう扱いを受けている子なのだ、と読者は感じることになります。
登場人物の誰かに感情移入をし、チエミを見下す読者もいるでしょう。
私もそう思って読んだ部分があります。前に読んだ時は、チエミを見下す気持ちが、今よりももっと強かったと、読みながら思い出しました。
さまざまな人が好き勝手に感じて語っていた「チエミ」本人は第2章でようやく、語り出します。
第2章を読んでも、全くチエミが理解できない人もいるでしょう。それでいいと、私は思っています。
読み終わった瞬間、あなたはチエミという存在をどう感じるでしょうか?
みずほは「チエの中に、自分を反射して見ないで」と言っています。
読了後、この言葉も噛み締めてください。
ここで、もうひとつのキーワード「母と娘」について。
みずほとチエミを語る上で、絶対に必要なキーワードです。
しかし、これについてはかなり核心的なネタバレが絡んでいるので…どこまで語ればいいものか。
悩みどころではありますが、冒頭で引用した文章に、その片鱗を感じてください。
ネタバレをせずに伝えるには、なかなか難しいですが、これだけは断言します。
この作品では「母を刺して逃げた」というフレーズだけで、こんな感じだろうと想像がつくような感情が結末ではないです。
ぜひその感覚を噛み締めてほしいです。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4062772248/ref=cm_sw_r_cp_api_i_GbP7CbNFMS43N
お前はもっとできると、教えてください。