静寂の図書室で2人は話す
その2:ベランダにて
「先週放課後教室で宿題してたんですけど」
私が先輩から貰った抹茶ラテを片手に話し出す。
季節が涼しくなったからか玄関の自動販売機には少しずつアイスからホットに変わりつつある。うちの高校の自販機は2台あり1台はペットボトル
もう一台は紙パック式で色々種類も豊富だ。
しかし紙パックの抹茶ラテはアイスのみなので、先輩が気を利かせて
ペットボトル側にあるホットの抹茶ラテを買ってきてくれた。
先輩は私の話を聞く報酬として飲み物買ってきてくれる。
話を聞くだけだから報酬も何も要らないと言ったら
「後輩は落語家さんで俺はそのお客さん。後輩が話す姿が好きで来てるんだ。流石に金は払えねえけど飲みもんなら良いだろ?受け取りやすいと思うし気にすんな。」
この人からはたまに義理人情を感じる
納得したようなしないような気分になったが受け入れる事にして、最初は先輩の気分で決めた飲み物貰っていた。渡される時も
「ほい!今日のお任せドリンクだ!」
割とこのお任せドリンクが1日の楽しみになっていて、今日は何だろうとか考えている自分が面白かった。
ある日なんかの話の流れで私が抹茶好きと話したら
「えっそうなのか!?じゃあ今度から抹茶系買ってくるな!!」
そう言ってから本当に抹茶の頻度が増えまくって
飽きてきたなーと思いつつも、毎回笑顔で渡してくるからまあいっかと流してる。今日のホット抹茶ラテも美味しい
「宿題していたら・・あっそいえばこの前席替えしたんですよ」
「おっ、やっと一番前卒業か~にしても前回席替えからだいぶ空いたな笑 どこになったん?」
「そう言っても4か月前ですよ。今度は校庭側の窓際です」
「随分快適になったな」
「最近寒くなったので少し辛いです。えっとそれで宿題していたんですがいつも音楽聞きながらやるんですけど、その日忘れちゃって折角だし外の音聞きながらやるかと思って」
「うんうん」
「校庭では野球部が部活してて寒いのに元気だなーと感心しながらやっていたら、隣のクラスの女子2人がベランダに出てたんです。」
この高校は何故かベランダに出れる
他はどうか分からないがもしかしたら飛び降りてしまう可能性もあるだろうに(屋上は封鎖されている)引き戸から簡単に出入りできるし、先生も特に何も言ってこないので自由なんだろうな
そして田舎なので各学年2クラスしかない。お陰で同学年は顔と名前がすんなり覚えられるのだが、話した通り私は覚えるのが非常~に苦手。
だから接点もない隣のクラスの人が「あっ門崎さ~ん」と声掛けてくるのにはビビる。
隣とのベランダには仕切りがないので行き来も出来るからたまにそこから遊びに来る生徒も居る。
「誰と誰?」
「それが声しか分からなかったんです。ギリギリ視界に入らない所に居たんでしょうね~でも私の教室には私しか居なかったし、その2人も私に気付いてないのか大きい声で喋っていたんです。」
「まあ姿見えても後輩分からなそうだな。しかしそれあれだな?障子に耳あり壁に目ありってやつだろ。」
「先輩逆です。障子に目あり壁に耳ありです。あっ、確かあだ名で呼び合ってました!まっつんとえりんぎ」
「えりんぎは確実にエリだな。まっつんは…松本、松井、松坂、まつ…」
「もういいもういい笑 えりんぎだってエリカの可能性ありますよ」
「冴えてんな!まあ名前は後にして、2人は何の話してたんだよ」
「それがどうやら数学の亀田先生に関してでした」
数学担当教師 亀田阿月(かめだ あつき)
性別は男性
年齢は35歳
主に3年生の担当の為私達とは定期テストの見張り役か廊下ですれ違うか職員室で会うかくらい。
顧問はパソコン部
機械好きでExcelも得意と誰かに話した所教頭に聞かれパソコン部顧問に任命された噂。
授業も分かりやすいと評判なので部活も分かりやすいらしく、日商簿記1級を何人も出して貢献してる活躍だ。
女子からも人気ある
肌は白いのに葉巻が似合う端正な顔立ち、身長170cmですらっとしてるがスーツから分かる厚い胸板で鍛えているのが分かる。
細身ではないほど良い筋肉と低音だが聞きやすい声で保護者からも人気高め
今年のバレンタインデーは生徒から20個貰ったらしい・・「全部食べられないから」と1個貰ったのは内緒。
めちゃモテ亀田先生には結婚してる説がある
これは有名な噂なので私も聞いた事あるが確証は今まで無かった。
先輩も亀田先生の名前出したら
「それ結婚してるかってやつだろ?」と来たが
「それがですね」
私は切り出して話し始めた。
◎
時を先週の月曜日に戻す
宿題始めて30分くらいの所で隣のクラスの引き戸が開く音がした
「はあーめっきり寒くなったね」
甲高い声が聞こえる
「そう言いながらベランダ出よって言ったのあんたじゃん」
こちらは少し低めの突っ込み
「良いじゃんこうやって買ったホットココアで温まろうよ~」
ココアで温まれるのか?まあ今日は風吹いてないし平気か
「まっつんは彼氏と最近どう?仲良くしてる?」
「いつも通りだよ。学校は違うけど降りる駅と時間一緒だしなんなら家も近いから毎日一緒に帰ってる。幼馴染だしね」
「良いな~めっちゃ青春じゃん!!手繋ぐの?」
「ま、まあね・・てかえりんぎは作りたいと言って1か月経ちましたけど行動してるんですか?」
「あーあーあーあー聞きたくないし詰め寄らないでくださーい」
彼氏が居るのがまっつんさんで、行動しないのがえりんぎさんか
それにしても声大きいな・・私が居るって気づいてないだろうけど他に聞こえたらどうするんだ。危機感持て。聞いちゃう私も私だが。
気にせず続きやろうとしたら
「そういえばさ!!私昨日スーパーで亀田先生見たの!!」
「へえ。近所なん?」
「それは分からないんだけど私の家の近くのスーパーに居たからもしかして近所かもしれない」
「見たのは初めて?」
「うん!!いや今まで私服だったから気付かなかっただけかも。だって先生さ・・笑」
「何?ダサかったん?」
「ダサくはない。黒ニットにデニムという超普通」
勝手に評価されてるよ先生
「じゃあ何で笑ってんのよ」
「先生眼鏡してたんだけど、全然似合ってないの!!」
あの顔立ちで似合わないなんてあるのか?
むしろ広告に出そうな感じだが
「そんなに似合ってなかったのによく先生って気付いたね」
「お母さんが後ろ姿見て あれ亀田先生じゃない?って言ってさ。違ったら嫌だし様子見ようって言って離れて付いていったの」
ストーカーじゃん
「ストーカーじゃん」
「違うよ!!そんでお肉売り場で商品取る時横顔見えて先生と確信出来たの!!凄くない!!」
「えりんぎ視力良いしあの横顔なら分かるか」
「そうなんだよ~しかも分かった瞬間お母さん話しかけて行っちゃってさ~亀田先生ビックリしてた」
「それで亀田先生の顔見てあんたは」
「眼鏡の似合わなさにびっくりしてた笑 頑張って堪えるの超大変だったからね~」
その後2人はどんな眼鏡が似合うか討論してて満足したのか
まっつんが「そろそろ寒いし帰ろっか」と言い
こうしてまっつんとえりんぎはベランダを後にした。
終始聞いていた私はずっとどんな眼鏡か気になってしょうがなくなり、集中力も消えたのでいつもより早めに帰った。
帰り道でも眼鏡の事ばかり考えてしまった。
◎
「結局どんな眼鏡かは話さずじまいだったんだな。あと俺先生裸眼だと思っていた。」
先輩が眉間にしわ寄せて話し出す
「それに関しては私も初知りでした。見てみたいけど滅多に会わないしコンタクトだから、忘れないか目に異常が来ない限り見れないんですよね」
こればかりはタイミングか偶然待つしかないだろう
そう言おうとしたら先輩が
「なあ、もしかすると先生朝学校でコンタクト付けてるかもしんねえな」
「えっどういう事です?」
「前早起きして行った時学校近くで亀田先生が運転する車とすれ違ったんだよ」
「どうして先生の車って分かったんですか?」
私がそう聞くと先輩は目を真ん丸にしてた。
「後輩知らないんか!?亀田先生の愛車とナンバー!」
「ゆ、有名なんですか・・」
「先生は大の猫好きで愛車は黒の軽なんだけど、ナンバーが0800」
0800・・・?
「何て読むんですか?」
「ハ チ ワ レ」
ああああ~ハチ(8)ワ(0)レ(0)か。
私が納得した顔していると先輩はクスッと笑った
「何ですか」
「後輩ってたまに拍子抜けした顔するよな笑 今みたいに笑」
「なっっ、で?先生が朝眼鏡からコンタクトに付け替えているであろう理由は何です?」
「悪い悪い笑 すれ違いざまクラクション鳴らされて振り向いたら亀田先生だったんよ。手上げてたから会釈した隙に見たシルエットが」
「眼鏡だったんですね」
「その通り。勿論先生の方が早く学校に着いてて俺が玄関に着いた頃先生はもうコンタクトだった」
「なるほど~仮説としては成り立ちますね」
すると先輩は楽しそうにこっち見て
「よし、俺が先生の眼鏡姿撮ってきてやる」
はい?何言ってんだこいつ。
「明日から先生より早く学校に来て眼鏡姿の写真撮ってくるんだよ。成功したら後輩に見せに来るから!!一週間後楽しみにしてろよ」
頭の整理が出来てない私をよそにそう言って先輩は
「じゃそゆわけで帰るわ!一週間後来るよ!」と帰っていった。
あ、はい、また・・
困惑したまま手を振る私に元気な顔で振り返す先輩
よく分からないが気ままに待つか。
◎
一週間後
すっかり先輩との約束を忘れていた私は図書室の貸し出し本を棚に戻す作業していた。空気も本格的に寒くなったので窓閉めるよう司書さんに言われていたが何となく完全でなく隙間程度開けておいた。野球部員も体育館で運動始めた為図書室はより静寂を増していた頃ドアが開いた。
振り向くと先輩が居た。
私が手を振ると近寄ってきて一言
「写真撮れなかった」
写真?と聞いて思い出しハッとした私の顔見た先輩は
「まさか後輩忘れていたんじゃ」
この人こういう勘は鋭いんだよな やれやれ
「先輩に言われるまで忘れてました。ごめんなさい。」
正直に言ってみるとフフッと笑い私の頭に手を乗せ
ニコッと「正直でよろしい。許す」と言った。
作業終わるまでカウンターで温まっててくださいと促したら
2人でやれば早く終わるじゃんと私が持っていた本を取り作業始めた。
高い所やってくれるのは有難いので何も言わず続けた。
予定より早く終わったのでカウンターに移動し一週間の先輩の話を聞いた。
過去の亀田先生車とすれ違った時間が朝7時20分
学校の玄関で先生と会ったのが朝7時40分
つまり先生はその日学校に朝7時30分に着いたと予測した先輩は
朝7時に着いて先生を待ち伏せし
「おはようございます~ってあれ先生眼鏡なんですか!?」
という会話する作戦を思い付いたらしい。
その流れで姿を激写するのも作戦に入っていたようだ。
本当良く思い付いたな
しかし物事は思うようにいかない
最初の3日間は先輩も早起きして開いていない学校に忍び込み秘密の場所で先生を待ち伏せ。
「秘密の場所・・・?」
「俺しか知らねえ誰にも気づかれない場所だ。たまに昼休みとか行って寝たりご飯食べたり1人になりたいときに使う。卒業する時教えるよ」
「使うか分かりませんが忘れないで下さいね」
「当たり前だ。男に二言はない。」
その3日間とも先生は現れなかった
どうやら風邪で休んでいたらしい。4日目は先輩が風邪引く。
5日目の金曜日
気を取り直して先輩は早起きし待ち伏せしたが
疲労で秘密の場所で寝てしまい学校遅刻
「何時間目に行ったんですか」
「2時間目」
「まあまあ寝ましたね笑」
亀田先生も土・日は部活お休みで先輩が来る理由無しなのでお休み
そして今日に至る。
「今日の朝は無理だったんですか?」
「普通に俺が忘れて寝てた。起きた時めっちゃショックだったよ」
どうしてここまで本気でやったんだろう
ショックするくらい先輩は本気で先生の眼鏡見たかったのか?
いや、どうなんだろう。
はあー見たかったなー
そう言って先輩はある写真を見せてきた
可愛い黒猫の写真だった。
「可愛い~見つけたんですか?」
「おう。早起きで学校行く間の道で出会ってさ。ほらあの薬局の」
「ああ、コスモス薬局ですね」
「そうそう~鳴き声聞こえて探したら薬局の隙間から出てきて最初ビビっちまった笑 でも懐こくってよ目合った瞬間あっちから近寄ってきてさ可愛いのなんの」
デレデレした顔の先輩なんか貴重
名前の勝手に付けたのだが黒くて毛も長くモフモフしてるので
「モップ」だそうだ。独特のセンスでごめんモップさん
話は眼鏡から黒猫モップに変わり誰か飼っているのかな~と話していた時
図書室の後ろから
「おっ居た居た。相変わらず仲良いなお2人さん」
「亀田先生こんにちは」
「こんにちは~何話してたんだよ~仕事してるんかちゃんと~」
「しながら先輩の話聞いてました。幸い生徒は私と先輩だけなので少し声大きめに話してしまいましたが」
「たまには良いだろ?怒る人も居ないしさ!そうだ先生俺猫見つけたんです~見て下さい」
そう先輩が振ると亀田先生の目がキラキラ輝き、食い入るようにカウンターに来た。
「どれ!! おお~可愛い黒猫じゃないか。しかも毛が長いし手入れもされてるから誰か飼ってる子だねえ」
「やっぱ先生もそう思うか!!勝手に名前付けちゃいましてモップと呼んでいるんです。」
「モップ!?他には候補無かったのかい!?」
「直感でそう思っちゃいました笑 後輩も良いと思うだろ?」
「ええ・・名前はどうでもいいです。猫さんがそれで嬉しそうなら」
「相変わらずあっさりしてんな門崎は笑」
「いやいや先生こいつは感情豊かですよ。この前アイス食べた時」
「ああ!!その話は禁止です!!そんな事より亀田先生のご用件は!」
そうだったそうだったと頭搔きながら持っていたカバンから1枚のチラシを差し出して私たちに見せてきた。
「今度パソコン部でゲーム大会やるから良かったら来てね。あとこのチラシ貼らせて欲しい」
「大丈夫だと思いますが司書さんに聞いてみますね。今週水曜の放課後ですか。面白そうですね」
「プログラミングの応用で部員に簡単なゲーム制作お願いしてほかの生徒に試してもらうんだ。そこから改善点見つけて何回もやる予定だよ」
「テスターってやつですね 先輩行ってみたらどうです?」
「気が向いたら行くよ」
「ありがとう~じゃまたね。司書さんにもよろしくね」
「はーい」
私達は声を揃え先生を見送り図書室から出るの待った。
ガチャ
バン
完全に閉まったのを確認し
私達は顔見つめあって
大爆笑した。
「後輩っっ見たかっっ?」
「ええ、見ました、あれはダメです、お腹が痛い、」
亀田先生が眼鏡姿で現れたのだ
何という偶然で凄く嬉しかったのだがそんな事考える余裕も無いくらい
眼鏡がダサくて似合わなかった。
相当目が悪いのかレンズが厚く
フレームも先生の顔ならもう少し丸いのが良いと思うが、何故か真四角で
色が黒縁
全く似合ってない
えりんぎさんが言ってた亀田先生の眼鏡姿は、私たちの想像超える似合わなさで先生が帰るまで笑い堪えるのに必死だったのは先輩も一緒で安心。
「入ってきて後輩が挨拶返した時から俺堪えてたわ」
「私もそうでしたので安心しました笑 はーおかしい」
「あれ恋人が選んだんかな~自分で選んだならセンス疑う」
「流石に恋人では・・恋人なら止めるでしょあれ使うの。自分で適当に選んだんじゃないですか?」
「でもさ店員さんに聞かなかったのかな?これどう思いますって?俺なら不安だし聞く」
「確かにそれもそうですね、先生の中では似合ってると思ってて」
「あ!!」
先輩が突然大きい声出す
「ちょ、びっくりした。先輩誰も居ないからって声大きすぎます」
「ごめん。重要任務忘れてた」
「えっ何でしたっけ・・あ」
写真撮り忘れた!!
2人で顔見ながら同時に言うと
「被りましたね笑」
「ああ笑 気持ち良いくらいにな笑」
静寂の図書室で2人は 笑う。
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