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お前にあげたいものは香りのよい健康とかちとるにむづかしくはぐくむにむづかしい自分を愛する心だ。

「奈々子に」 吉野 弘

赤い林檎(りんご)の頬をして
眠っている 奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いがふえた。

唐突だが
奈々子
お父さんは お前に多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。

お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。

ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛することをやめるときだ。
自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう

自分があるとき
他人があり
世界がある

お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない。

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ。

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個人的な教育の目標は、「香りのよい健康」と「かちとるにむづかしくはぐくむにむづかしい自分を愛する心」を与えることです。この詩を読んだのが大学生の頃で、2014年にドイツへ三週間留学する前だったと思います。

留学して、実際に森の幼稚園で成長する子ども達を見て確信しました。自分が子ども達に与えたいモノを森の幼稚園だったら与えることが出来ると。外で活発に動くこと、多種多様な生物やモノと共生すること、これらが子ども達の健康に良い影響を与えるのは言うまでもありません。

「自分を愛する心」というのも、森の中で行う集団生活、異年齢グループ、子ども5人当たりに先生1人という少人数システム、自分のやりたいことを自由にできる自由遊びの時間、チャレンジが豊富に溢れて自己の感情を思いっきり表現できる環境、保護者と先生が協力し合える密な関係性、地域住民による森の幼稚園の理解や支援といった様々なポジティブな森の幼稚園の面がサポートしてくれます。

「お父さんは お前に多くを期待しないだろう。ひとがほかからの期待に応えようとしてどんなに自分を駄目にしてしまうかお父さんは はっきり知ってしまったから。」も素敵な考えです。子ども達には特に何も期待していませんし、強いて言うなら無事に健康でいてくれればと思いますね。

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