ぼく3

詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』第3章

詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』の第3章です。
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  概要
『ぼくはまなざしで自分を研いだ』第3章
章題 ぼくはまなざしで自分を研いだ
作品数 13編
原著 82~116ページ
※「後記」(131~132ページ)が付いています。

  収録作品
・〈十年〉のトリプティークⅠ
・〈十年〉のトリプティークⅡ
・〈十年〉のトリプティークⅢ
・ふつうじゃない人が「ふつう」って言っている時のふつうをどうして僕のふつうにしないといけない?
・ひなた
・ひかり
・世界が僕のものではないほどに
・外部
・供述
・保障
・幽霊を埋葬する
・酸 
・磯
※後記付き


  収録作品から

〈十年〉のトリプティーク

   Ⅰ

まるで温室で薔薇をなでているとでもいうようだけど
僕は十年間かけてゆっくりと殴られたみたいなんだ。
細雪も積もっていけばあばら屋をつぶすようなもので
人はまなざしだけで加害者になることができます。

朝八時にはいつだって寂しげな戦地がやってきたから
僕は僕であるところのものからの疎開をせねばならなかった。
コンビニや学校のある平凡な道すがらとかで毎日
あなたには顔で殴られるって気持ちがわかるかな?

ベッドもテーブルも前世紀から位置を変えていない
あと石膏で固められた空気の中にいる僕もだ。
やっぱり窓の結露が流れ落ちるのはおかしいと思う
まるでまともな時間の流れがあるみたいに落ちている。

取り囲んでいた大人たちは太った目を向けていて
僕は今でもみどり色に行列した笑顔をおぼえている。
絹で編まれてできあがっていた赤ん坊のころから
大きな拳がずっと胸ぐらを掴んでいたっていうことまで。

全身が骨になる病気っていうのがあるって知っているかな。
それの人生版みたいに固まりながらひしゃげているものがある。
大きな岩でも年月の水滴が穴を穿つでしょう。
僕は骨のみぞおちが曲げられたので人間がヘタになった。

十年間かけて命ごと打ちひしがれたというのなら
立ち上がるためにはまた十年がいるのかもしれない。
もし人が物にぶつかると倒れる生き物なようなら
どうか僕が弱すぎることばかりを理由にしないでくれ。

朝焼けのまぶしさには血痰のような嘆息が出るし
謎の微笑みにあうと骨の全身が悲鳴に軋む。
ある四月二日の大気のぜんぶが顔でできているという場合
あなたの十年ならどうやって日焼けから身を守れたって言うんですか?

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