アキヤマ

N.Yに発つ理由

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最近の記事

オフビートで踊る、考える、行動する

先日、渋谷のイメージフォーラムで「ルード・ボーイ トロージャンレコーズの物語」を観てきた。 この映画は、夏の公開中に何人もから同時多発的に勧められ、誰しも「バビロンが好きなのであれば、絶対これも観た方が良いよ」という文脈で語ってくれた。 その度に、「絶対観ます!」と答える反面で、いま諸々抱えてるものたちがあと2週間程度で片付くから、それが終わったらだな…と心の中で思っていた。 とうとう約束の2週間後、心が軽くなった私がイメージフォーラムのページに辿り着くと、そこにはあっ

    • 行方不明の犬を飼う

      ※昨日見た夢の話です。最後だけまとめてます。写真は8年前に埼玉で見つけた白い犬です。 「よっこいしょ」 昼食後、祖父と一緒に祖母を介護ベッドに寝かしつけた。 「おばあちゃん、まりなはおじいちゃんと隣の部屋にいるからね。何かあったら呼んでね。 …どうかしたの?」 祖母の視線が部屋の外の何かを捉えていた。その方向に目をやると、窓の外に白い犬がいた。 「さっきから犬がこっちを見てるの」 白い犬は病的なほどに痩せ細り、生気がなく、みすぼらしかった。目だけは最後の力を振り絞り

      • 生まれつきの時間

        ファン・モガ著 廣岡孝弥訳 世界は、いくつもの力によって成り立っている。 良い力もあれば、悪い力もある。 いわゆるディストピア小説では、「悪い力」が存分に働き、個人の人間性が奪われるような官僚主義が横行した世界が描かれる。 本作においても、良質なサイエンスフィクションであると同時に、舞台となっているのはディストピアとなった未来だ。 ディストピア世界のおいては、権力/監視者側が個人を統制可能にし、定型発達以外の生育を認めない。 そんな背景をもつ作品はいくつも存在すると

        • The Diary of I & my grandpa

          昨日の文学フリマで「The Diary of I & my grandpa」を多くの方に手に取って頂き、本当にありがとうございました。 そして、ブースを間借りさせて頂いたRRCとinch magazineには感謝しかありません… ワイワイとても楽しかったです。 今回、zineの形を見て「どうしてこの形にしたんですか?」という質問を多く頂きました。 この形状にした理由は、片手で持てて、片手でページをめくることができる構造にしたかったからです。 ——— 本編の主人公である当

        オフビートで踊る、考える、行動する

          Boy meets world in NY.

          土曜日のBUSHBASHは、ここ最近の全ての答え合わせだった。 大袈裟に聞こえるかもしれないが、驚くほどに「全て」だった。 inch magazine issue2を購入したのは年明けだった。 それまでの私は、ドアの穴からNYの社会を覗いていたようだった。 対岸であると同時に、市民活動における憧れの地であるNY。常に思考のすぐそばにはあるが、見える世界は断片的だった。 ドアの穴から見えていた世界が、inch magazineを読んでから変わった。 NYの特異性を「自

          Boy meets world in NY.

          人生は映画、映画は人生、サグなライフ

          記録映画の存在意義のひとつに、人生そのものが創作物であり、人生自体が映画なのかもしれないと気付かせてくれるところがあると思う。 2015年に公開された三宅唱監督によるドキュメンタリー映画「THE COCKPIT」はまさに上記の要素に溢れていた。 約1時間の作品の中では、一秒の隙もなく何かが作り続けられていた。  映画が始まった瞬間から、創作が封切られてた。レコードをワイワイ聴いているように見えるが、「カッコいい」「このブレイクは必要でしょ」なんてことを話しながらサンプリ

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          ジャズで体を揺らしてヒップホップで踊る私が良い本と出会った時

          本は出会うもの、あるいは誰かが引き合わせてくれるもの。 4月上旬のその日、私は大学の第二外国語が同じクラスだった友人と10年ぶりに顔を合わせてお酒を飲んでいた。 Twitterでしか繋がっていなかった彼女とは驚くほど気が合って、お互い大学を卒業してからのことを遅くまで語り合った。 「今まで何でか会わなかったけど、二人とも色々あったよね」と語っていたら、さっぱりした上にしみじみとした。もう32歳なんだね、と感慨深くもなった。 友人が中座したときにインスタを眺めていたら、

          ジャズで体を揺らしてヒップホップで踊る私が良い本と出会った時

          チカーノソウル、私にとってのLAという街

          5月21日「チカーノ・ソウル~アメリカ文化に秘められたもうひとつの音楽史」の著者ルーベン・モリーナ氏のトークセッションとDJを聴きに、代官山の晴れ豆へ行った。 約一年前、「とにかく、チカーノソウルは絶対聴いたほうがいいよ」 トラスムンドに長居をした帰り際、今日の音楽談義のすべてをまとめるように言われた。私はこの日初めて、チカーノソウルというジャンルを知った。 まだ6月上旬だったとは思うが、湿気が多く、暑がりの私はいつにも増してじっとりと汗をかいていた。 暗くなった店の外に

          チカーノソウル、私にとってのLAという街

          「ハンセン病文学の新生面」に行って

          私たちはどんな時だって想像しなければならない、そう強く思った。 「ハンセン病文学の新生面」という企画展を見に、去年の8月以来の国立ハンセン病資料館に行った。 ときに社会は、徹底した隔離環境を作る。 ハンセン病も含めた医療的施設や障害者施設、乳児院も含めた児童養護施設。また、この括りに賛否があるかもしれないが懲罰施設もそれにあたるかもしれない。もちろん入管だってそうだ。 なぜ隔離をするのか?なぜ集団生活を強いるのか? この問いを行政側に投げ掛ければ、れっきとした答えは出て

          「ハンセン病文学の新生面」に行って

          それは日常の、ユナイトするカルチャー

          石田昌隆さんの写真展、とても良かった。 写真の舞台は、ロンドン・ブリクストン。 まさに映画「バビロン」の舞台である南ロンドンだ。 「バビロン」は去年一番食らった映画だった。 同様の、音楽・社会・街を描いた映画のなかでは、NYを舞台にした「アザーミュージック」や「All the streets are silent」などのドキュメンタリー映画たちも去年観た中では印象深かった。 どちらの映画も「街」を考えていくうえで貴重な資料だった。 ただこれは「食らう」という感覚とはま

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          いなたい切れ味

          昨夜の晴れ豆でのTRASMUNWD NIGHT、最高だった。 東京にも大好きなラッパーはたくさんいるが、地方のシーンにはどこか手の届かない憧れがある。特に東海地方に関しては、COSAがいる時点で痺れてしまうし、少し時代を遡るとTOKONA-Xだっている。連綿と続く、名古屋を中心とした東海地方のいなたいシーンを、今の若いラッパーたちが引き継いでるんだなと思うとジーンとくるものがある。 YUKSTA-ILLを初めて知ったのは、2017年にKOJOEがリリースした「here」と

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          おじいさんと笑いながら踊る

          私は大爆笑をするとき、顔を少し上向きにして、手を叩き、今にも跪きそうな勢いで膝を曲げる。そして「アハハハッ」といった感じの大きめの声もあげる。 三日前、京都出身の赤染晶子のエッセイ本「じゃむパンの日」を電車の中で読んでいて、ついこのように爆笑してしまった。 この社会で生きていると、他人のちょっとおかしげな点を知ることもあるし、同時に自分自身のおかしげな点にも気付くことがある。 「じゃむパンの日」は、他人と私の「おかしげ」な点をを京都の洛中の地図のように明解にした上で、「

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          「オフィーリアはクソだよ」

          走り抜けるように読み終わり、スパイクリーの映画版を観たくなった。 ナチュレルとメアリーに会ってみたくて。 主人公・元麻薬密売人のモンティの恋人である、プエルトリコルーツのナチュレル・ロザリオ。 立ち居振る舞いがとにかく美しく、ユーモアももあって、強い。 私は、彼女の身体的な描写が多かったからかもしれないが、途中からナチュレルがロザリオ・ドーソンにしか見えなくなっていた。 「(ニューヨークの)アップタウンの遊びができる、近所の女の子だった。」 物語の後半、モンティはナチュ

          「オフィーリアはクソだよ」

          吉祥寺で

          「葬式どうする?一日だけでいいと思うんだけど」 叔父、母、私で祖父のベッドを囲んでいるときに叔父が切り出した。 祖父が亡くなる前日の夕方、祖父が好きなものを食卓に並び終え、部屋中に煮物の匂いと炊き上がった白飯の匂いが漂っていた。 「だめだめ、絶対二日間やる。私に任せてください、はい」 信じられないという目を向けると、叔父は諦めたように言った。 「わかったわかった。今回もまりなに任せるよ」 死者を見送る儀式を簡素に執り行った方が、生きている人間は楽だ。また、故人がそのよう

          吉祥寺で

          ANGEL

          「事務的なお話になるのですが…」 訪問診療の医師に祖父の状態を連絡して戻ってきた看護師が、重々しく切り出す。 「当社、エンゼルケアも行っておりまして、ご家族様と一緒にお身体を拭いて、お着替えをさせて頂くことができるんですね。(訪問診療の)先生は到着まであと30分ほどかかるようなので、その間に一度事務所に戻って準備して参ります。どうでしょう、いかが致しましょうか?」 「そうですか、じゃあお願いします」 承諾すると、その場で正方形のメモ用紙に基本料金や延長料金を書いて渡してく

          ビックハグビックラブバレンタイン

          いつもは湯船に浸かっている時間も含めて1時間ほど風呂に入っているのだが、気が気じゃなかったので烏の行水で入浴を済ませる。 リビングで寝ている祖父の元に駆け寄り、胸のあたりが上下に動いていることを見て安堵する。 手を握るととても冷たい。「おじいちゃんの手はとても冷たいね」と言いながら、血管が浮き出た紫色の手に「ハーッ」と息を吹きかけ、何度もさする。 温まってきた祖父の手と反比例して、化粧水もつけずに風呂から飛び出した31歳の顔面はカピカピと乾燥してきた。 手を温めたが、相変わ

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