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行方不明の犬を飼う


※昨日見た夢の話です。最後だけまとめてます。写真は8年前に埼玉で見つけた白い犬です。

「よっこいしょ」
昼食後、祖父と一緒に祖母を介護ベッドに寝かしつけた。

「おばあちゃん、まりなはおじいちゃんと隣の部屋にいるからね。何かあったら呼んでね。
…どうかしたの?」

祖母の視線が部屋の外の何かを捉えていた。その方向に目をやると、窓の外に白い犬がいた。

「さっきから犬がこっちを見てるの」

白い犬は病的なほどに痩せ細り、生気がなく、みすぼらしかった。目だけは最後の力を振り絞り、メッセージを発していた。
「助けて」 

私は急いで窓に駆け寄り鍵を開けた。鍵を開けながらハッと思い出した。そうだった、祖父母に犬猫を飼うことを固く禁じられていた。ましてや、野良犬かもしれない犬だ。嫌がるに決まっている。

「おじいちゃん、おばあちゃん、犬を家にいれても平気?」

そう尋ねると、二人はキョトンとしながら無言で頷いた。助けを求めている犬を招き入れない理由なんてないというように。

ガラガラと窓を開けると、白い犬は一瞬躊躇したように見えたが、ゆっくりと敷居を跨いだ。

犬はびっこを引いていた。歩くのが辛そうだった。少し歩くとフーッと深い息を吐いて、脚を畳んで座り込んだ。

私は、冷蔵庫から牛乳を取り出し、器に移し替えて白い犬の前に差し出した。犬は目を輝かせながらペロペロペロペロ、ものすごい勢いで牛乳を摂取し出した。

牛乳のしぶきが、祖母の畳の部屋に飛び散る。祖母に怒られるかと思ったが、優しい目で白い犬を見つめていた。

よく見ると、首に細くて赤い首輪をしていた。細い首に巻き付いた首輪が痛々しかったので、私は衝動的に首輪を外した。

カラン

重い金属が畳に着地した。
首輪に鑑札が付いていたようだった。

「四谷-50」

私は、03から始まる四谷犬センターの電話番号にダイヤルしていた。

「はい、こちら四谷犬センターです」

「すみません、先程、四谷-50の鑑札が付いた犬を保護しました。迷子でしょうか?」

「あぁ!四谷-50ですね。
その犬は、10年前の川崎事件で逃げ出した犬です。川崎事件は覚えてますか?一家三人が詐欺に遭って殺人に遭った凄惨な事件です。その事件の最中に、犬だけが逃げ出したんです。白くて毛並みが良い高級な犬だったんですよ。まだ生きてたんだ。でもね、そんな犬、誰も引き取らないんですよ。殺人事件ですからね。どうでしょう、あなた、飼ってくれませんか?」

「はぁ…」

電話は切れていた。
白い犬を見ると、お腹がいっぱいになったと見えて寝息を立てて寝ていた。

「これじゃお腹いっぱいにならないよね」
私は白い犬を抱き抱えた。中型犬ぐらいの大きさだが、とても軽い。

私に抱えられてもなお、寝続けていた。

ペットフードが売られている近所の京王ストアまで向かった。一階のレジ前にはキャットフードが充実していたが、ドッグフードがない。

「ドッグフード売場は何階ですか?」

「9階です。うちは階段か、今にも壊れそうなエレベーターしかないので、行くのが面倒ですよ。そんな犬、キャットフードをあげとけば良いんですよ。こちらなんかどうでしょうか?」

「結構です!」

憤慨した私は踵を返し、階段を探した。この子に絶対ドッグフードを食べさせるんだ。

最初こそ階段を登ったが、白い犬が安定しない。抱き抱えられ揺られながら、少し気分が悪そうだ。

2階まで階段で登ってエレベーターを探した。 
なるほど、ボロボロのエレベーターだ。いまにも事故が起こってもおかしくない。

それでも私はエレベーターに取り込んだ。扉が閉まった瞬間、急降下を始めた。9階の行き先を押したはずなのに。もうこれまでか、と思った瞬間、上へと上昇し始めた。

7階で扉が開いた。7階にはバレエスタジオがあり、最後まで後片付けをしていたダンサーと目があった。エレベーターが稼働しているのを見て心底驚いていた様子だった。

「これに乗る人がいるんですね!私、お姉さんのこと気に入りました。ガッツがある。これから近所のバーミヤンで食事をするんです。よかったらご一緒にどうですか?」

「ありがとう!」と言い終わるか終わらないかのうちに扉が閉まり、本来の目的地である9階へと連れて行った。

9階はワンフロアまるごとドッグフード売り場だった。私はパウダータイプとスープタイプのドッグフードを数種類ずつ買った。

それから彼女の待つバーミヤンへ急いだ。
店に着くと、彼女が手を振っていた。

まず私はテーブルに置いてある白い小皿に、スープタイプとパウダータイプのドッグフードをプレンドして、白い犬に差し出した。

さっきまで寝ていたはずなのに、また勢いよく食べ出した。その光景を見るのが何よりも嬉しかった。

彼女には連れがいた。草彅剛がいた。
「こちら、草彅剛くん。私のマネージャーなの」
私はこの草彅剛をどこかで見たことがあった。

自信はなかったが、「草彅さん、以前どこかでお仕事ご一緒しましたよね?」と出しぬけに聞いてみた。

「そうです!アキヤマさんですよね?その節はお世話になりました。いま、犬を飼ってるんですか?」

「こちらこそお世話になりました。そうなんです…今日から。今日、一日目なんです!」

「それはめでたいですね!」バレエダンサーと草彅剛がほぼ同時に言った。

そして、グラスを掲げて「乾杯!」と言って、白い犬に向けてグラスを向けた。

白い犬は上目遣いで私たちを見ていた。

「君の運命に、すべての運命に乾杯」
草彅剛だけ、最後キザな一言を言ってから酒を飲み始めた。


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