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スメタナの交響詩「我が祖国」 弱くても自分たる誇りだけは失わない。そのための不利益なら喜んで引き受ける。その心洗われる気高さ。

ベドルジハ・スメタナ 1824−1884

交響詩「我が祖国」ヴルタヴァ に泣く。

 有名な知っている曲、聴いたことのある曲なのに、思わずこみ上げるものを感じて涙までしてしまう。
 それが、チェコの作曲家スメタナの「わが祖国」ヴルタヴァでした。

 中学校の音楽授業で必ず取り上げられる曲。
 なぜ聴き知っている曲に今さら感動したのか。
    スメタナという人が何を思ってこの曲を書いたか、チェコという国がどういう歴史を背負っているのかをあらためて知ったためです。

 チェコは1000万人ちょっとの小国。地理上はドイツとオーストリアに挟まれ、経済的・政治的に翻弄され続けてきました。フランスと同様、占領されているときは母国語を禁止された経験もあります。

 「わが祖国」は、チェコ人であるスメタナがチェコの自然と歴史を音楽に表現した交響詩。ドイツを源流にチェコの中央を流れる大河ヴルタヴァ川(ドイツ語でモルダウ川)を通して、祖国のアイデンティティを描いていきます。

 フルートとバイオリンのピチカートが印象的な冒頭。
 弦をはじくバイオリンは水のしずく。まだどこへ向かうとも知れずはしゃぎまわる子どもたちのようないくつもの源流。これをフルートが写しとっていきます。
    数々の源流はやがてひとつに連なり、大河ヴルタヴァ川へ。このチェコの象徴を全オーケストラをあげて力強い旋律で歌い始めます。

 有名なメインフレーズは、強い盛り上がりを見せたと思うと引き下がる。そして下がり切ったところから、大きく息を吸うようにして、また勢いを盛り返す。
 悲しくも堂々としたこの繰り返しは、被支配と再起を重ねてきたチェコの歴史そのもの。

 東側の一員であった時代、民主化運動を起こした唯一の国。だが、ソ連によって武力で破られた「プラハの春」のチェコ。

 フランスとともに原発大国の道を選び、二度と他国に占領されまいと、あえて危険なものをうちに抱え、攻撃されまいとしているチェコ。

 チェコと言えば「銃」。国民が誰でも銃を扱える国民皆兵のチェコ。

 2020年秋、アフリカや東欧の小国の支配を目論んでいる中国に対し、中国ののど元にある「台湾」に数十人の議員団を送り、外国議員として初めて台湾議会で演説を行って、盛大に「反中国」の旗をあげ、台湾に高らかに同志を宣言した国、チェコ。

 支配され続けながらも、誇りを失わないしぶとさを持つ国。
 東京都より少ない人口の国なのに、誇りだけは超大国に負けていない。

 こうしたことを思いながら、愛国者スメタナの「わが祖国」をあらためて聴いていたら思わず涙がこぼれたのでした。

 自分を愛し、育ててくれたものを慈しむ。
 誇りは愛するものとの間に生まれることを知っている。
 弱くても自分たる誇りだけは失わない。
 そのための不利益なら喜んで引き受ける。
 
 この気高き精神に、ただひたすら心洗われるのです。 


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