“Sir Duke”について

スティーヴィー・ワンダーは数多くの名曲を世に送り出した天才です。
中でも群を抜いて私が好きなのが邦題の「愛するデューク」でも知られる “Sir Duke”です。
45年も前の曲ですが、洋楽初心者の方にはまずおすすめしたい一曲です。

偉大なるジャズマンたちへの歌

この曲は当時まだ20代だったスティーヴィーの音楽の先人たち(ジャズマン)へのトリビュート、ラブコールです。
タイトルにもなったDuke Ellingtonを筆頭に、Count Basie, Glenn Miller, Louis Armstrong, Ella Fitzgeraldなどジャズを知らない人でも聞いたことのある名前が並んでいます。
一言で言えば
「先輩たち、凄い!やっぱり違うんだよ!」
ところがただのファンの叫びで終わらせないのが天才スティーヴィー・ワンダー。

最重要歌詞の解釈について

音楽は共通言語になり得ると語るAメロに続いて、内容的に肝なのが1番Bメロです。
But just because a record has a groove
Don't make it in the groove
But you can tell right away at letter A
When the people start to move

「レコード(曲)のノリが良いからといってイケていることにはならない。だけどイケている曲は出だしから体を動かしたくなるからすぐに分かる」
私は13歳頃にこの曲を知って以来こう解釈しています。

しかしネットで歌詞の日本語訳を拝見したところ、
「レコードの溝のように音楽を型に落とし込むな、(先輩たちの音楽のように)自然と体を動かしたくなるものは型にはまってなくても誰にでも分かる」
という解釈をしています。
私は英語がほぼ第一言語なのでこれについて三点ほど。
一つ目。Don’tはDoesn’tなのではないか。歌の都合上文法のルールを無視した結果Don’tになっただけなのでは?黒人音楽(もちろんロックも)を知る上で初歩の初歩です。
有名な例としてビートルズの“Ticket to Ride”のShe don’t careがありますね。
「作るな」と命令形になっている辺り、Don’t make it in the grooveを言葉通り直訳しているのでしょう。
二つ目。これは歌詞を重視する日本の音楽を聴いているとやむを得ないかもしれませんが、groove関連に拘って深読みしすぎです。レコードの物理的な溝と「ノリ」を掛けてはいるのですが、更に「溝」から「型」へ繋げる想像力は凄いですが多分違います。英語の掛詞やシャレは日本語ほど厳密ではないと思います。
三つ目。「ノリ」と「イケている」を掛けているのを是非見抜いて欲しいです。これを見抜けていなくてはスティーヴィーの歌詞に込めたメッセージが伝わりません。見抜けていなくても十分堪能できるのがまたこの曲の素晴らしさの証拠なのですが。
この曲が発表された70年代中期は次々と新しい音楽が開拓されていました。そろそろディスコミュージックが流行る頃で、以降ノリの良い音楽の需要が高まり80年代へと突入しました。
スティーヴィーの本心は分かりませんが、新しいものを作りたい、売れたいという形式的な思いが先行し先人たちが音楽に込めてきた魂が引き継がれていないと考えていたと私は思います。もちろんちゃんといいものはいいとフォローはしていますが、音楽問わず時代と共に何かが置き去りにされている気がしたのでしょう。

歌詞と曲が響き合う極上の体験

先程のメッセージを踏まえて曲を聴いてみましょう。
まさに歌詞で触れられているin the grooveな、イケている曲が流れているではありませんか!
最初のブラスに始まり踊り出したくなるような文句無しの素晴らしいメロディだけでも鳥肌だったのですが、歌詞を知ると鳥肌のレベルが急上昇。
“Sir Duke”という曲が誕生し、ヒットし、名曲と呼ばれたのはスティーヴィー・ワンダーが「魂を継いでいく」という高いハードルを自ら設けて奮い立ち、歌詞で名前まで挙げて高らかに宣言し、完成品で見事に超えたからです。ただのキャッチーなヒットソングではなくスティーヴィーの挑戦、アーティストとしての魂そのものをリアルタイムで堪能できるのです。

現在にも通じるメッセージ

スティーヴィーがこの曲を書くきっかけとなった時代の流れは今も続いていると私は思います。
J-popは小室ブーム以降、洋楽はR&Bが君臨して以降スカスカな曲ばかりではないでしょうか。人間はどんどん飽きっぽくなっているので結果として音楽はどんどん速くなり、うるさくなり、消費型になっているのが私の見解です。魂なんて口にするだけでも恥ずかしくなります。これ以上は悪口になるのでやめますが、 “Sir Duke”の歌詞も曲に劣らず凄いのだと最近つくづく思います。名曲中の名曲です。

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