「色々やる」論=「色々やらない」論。

僕は、個人でも会社でもビジネスや収益源は2〜3個作っておくべき、というのが持論。

それは、金融マンとしても起業家としても「リスクに備えて複数のことを研究、準備、展開していた会社」が生き残り、結果として伸びていったのを見てきたから。

一つの事業で伸びた会社、それに頼り切った会社は一発屋となりやすく、その先がない。特定の産業や特定の会社に事業が依存してしまうと、それらの衰退と共に立ち行かなくなってしまう。

facebookとかgoogleとか、単一サービスで伸び続けているように見えるけど、とんでもない。M&Aをしまくり、サービス内に複数の機能と収益源を作りまくり、あらゆる属性のユーザーやニーズに応えられている総合サービス、つまりプラットフォームだ。こうした「収益源、顧客層、利用目的が分散されている事業、または会社」が生き残る。

思考停止の「選択と集中」

金融マン時代にリーマン・ショック、独立して数年後に東日本大震災を経験した僕からすると、特定の市場や機能にだけ張り続けてはリスクだ、別の(むしろ真逆の)チャネルも作って並走させておかなければ、というスタンスで仕事をしてきた。

それが分からず馬鹿の一つ覚えのように、単一の事業にフォーカスすべきだとか、リソース集中だとか、間違った意味での「選択と集中」を信じている株主やアドバイザー連中は多い。更には、新しいこと、難しいことをやりたくない・できないメンバーとの軋轢は、常にある。

そうした人達が(無責任にも)今になって思い知ってるだろうか。「大変なことになった」「キャッシュ大事だ」「コスト削減だ」と騒いでいるだけだろうか。
考え抜けば明らかになる危機を先送りして、目先の分かりやすさに集中することは、リスクどころかわざわざ死にに行くようなもの。しかし、彼らが責任を取ることはない。

「備えにお金を使っておくべき」や「事業は分散しておくべき」というのは、経営者しか決め切れない。大変な状況になってからでは遅いのだ。経営者は、とにかく複数の事業や研究開発を止めてはいけない。今回のコロナや天変地異ほどの社会変化ではなくても、常にリスクに備えた事業ポートフォリオは必要だ。

人目や分かりやすさを、気にしない。

こうして複数の、むしろ真逆に近いことを同時並行するようにしていると、本業は?を問われたりする。しかし、どちらが表でも裏でもなく、優先でも劣後でも、主でも副でもない。そうなると、周りの他人やSNSの住人から見ると「ナニモノか?」や「今何をやっているのか?」が分かりにくいものだ。

しかし、ハッキリ言って、そんなことどうでも良いのだ。みんな、周りに理解してもらいたいとか、周りの目を気にし過ぎだ。本来は仕事なんて守秘もあるし、何をやっているかなんてことは、仲間やお客さんだけが知っていれば良いのだから。

例えば、僕の場合。

経営するいきものCo.は、chiQをベースに小さくても意味のあるプロジェクト(事業シード)を多産している。
たべものCo.は、シングルだがカバーが広く、不況や災害時でも需要のあるサービスに絞って成長させていく(この春〜初夏にリリース)。

個人としては、あるベンチャーキャピタルのアドバイザーでもあり、投資家でもある。その他にもプログラム・リードとして新しいラボ&スクールの設立を引き受けていたり、その関係でシェアスペースの運営もチームで引き受ける予定だ。

所得ではなく、所在の話。

会社だけでなく個人の掛け持ちの話になると、所得水準、忙しさ、生活や心身の質みたいなことを懸念される方もいる。確かにある時に積み重なって忙しくなったり、マルチタスクにストレスを感じることもあるにはあるけど、それは専業してても同じだ。

実は、ポイントはそこじゃない。

「やりたいこと、やるべきだと思うことに関われているか?」が大事。そうしたことに関われている時に、人は一番「所在(存在意義、居場所)を感じる」のだ。つまりストレスは低くなるし、モチベーションやパフォーマンスも良くなる。

僕も色々やってるようで、やみくもに仕事はしていない。「新しい社会や具体的な事業を生み出す、その仕組みをデザインすること」以外はやらない、と決めている。
だから、この切り口の仕事が来ると所在を感じるけど、反対にそれ以外の仕事があっても(たとえそれがすごく良い条件でも)まったく魅力に感じない。

「軸となる社会との関わり方」を選択し、集中していると、自分の存在意義や居場所を感じやすくなる。言い換えれば、そうでない仕事をしている・せざるを得ないときこそ、人は不安になるのだ。景気や業績や社会不安のせいではなく、リモートワークや在宅ワークだからではなく、働いてる上でもともとある「不安」や「落ち着かない様」を根本的に解決していく必要があるのだ。

複数やる=やらないことを決めること

そんなこんなで、自分の「軸」は定められたとしても、複数のことをやっていくにはバランス力や器用さが必要だ、と言われる。けど実は、仕事は圧倒的に自分以外の事情に因るから、結局「個人の器用さや頑張りで乗り越えられるものじゃない」と思う。

一番大切なのは、断り力。
「やらないことを決める」意思の力だ。

複数の仕事を持っておかなきゃと思えば思うほど、なんでも引き受けがちになる。リスクに備えてチャンスや人間関係はキープしておきたい、と思いがちな人もいるだろう。プロジェクトでも仲間に頼まれたらつい引き受けちゃうような、責任感と能力がどちらも高い人であれば尚更。しかし、これをやると自滅する。

だから、やらないことや、辞めるラインを決めておく。

自分の軸に沿っていようと、魅力的な条件や親密な関係であろうと、やらないことはやらない。これが選択と集中の本質なのだろう。

複数のことを分散的にやるのは大変だけど、これからは新卒や学生時代から、そういうスタイルにも慣れて行かなければならないと思う。ご参考まで。

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