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「エンツコ」とは何か?~育児が辛い時に助けになった話~

70年前の子育て

2020年、私は娘を出産して実家へ里帰りをした。私の父方の祖母、ばあちゃんは珍しく饒舌に話し出した。

「今の子どもさ恵まれてる、こやって育ててもらって。ばあちゃんの頃だっけ、産んでもすぐ畑仕事させられだ。行ってる間、子どもば動き回らないように『エンツコ』さ入れで。朝早く家ば出て、戻ってくるの昼だもの。おしめもなんも、じょっぷり漏れでびちゃびちゃで。子どもがかわいそうでかわいそうで、ばあちゃん、泣きながらおしめ取っ換えでだもんだ」

私の母は、この話を何度か聞いたことがあったらしく、「はいはい」という表情で半ばスルー。しかし、初めて聞いた私は、子を思う母親の気持ちが不憫でならず、もらい泣きしそうになってしまった。
ばあちゃんが出産した頃なので、おそらく70年以上前の話である。
私は「エンツコ」が何を指すのかわからずばあちゃんに聞いたが「赤ちゃん専用の入れ物」という認識を得ただけだった。検索もしてみたが、当時は赤ちゃんに関係のない結果ばかりが表示されていてわからなかった。

現代であっても、赤ちゃんがウンチをした場合、速やかにオムツを交換しないと、お尻がかぶれて真っ赤になってしまう。オシッコだけの場合であっても、当時の「布おしめ」ならずっと濡れている状態なので、やはりばあちゃんの子どもたちの肌は、ただれていたに違いない。
それをわかった上で毎日「エンツコ」に入れて、畑仕事に行っていたばあちゃん。子どもと一緒にいて、まめにおしめを交換してあげたかっただろうな。泣いていたら抱き上げてあげたかっただろうな。でも、嫁の立場は弱かったんだろうな。

乳児の子育て中、助けになった

私は育児に困難さを感じることが度々あった。意思疎通できない乳児の体調管理。高齢出産のためか産後ぼろぼろになったままの自分自身。
睡眠不足の中で深夜にオムツ交換する時は、ばあちゃんの話を思い出す。すると「紙オムツがある時代に育児できてありがたい」「好きなタイミングでオムツ交換できることがありがたい」という気持ちが沸いてきて、その晩は乗り切れる。
ばあちゃんの昔話が、私の赤ちゃん育児を少し楽にしてくれた。

その1年後、ばあちゃんは極楽浄土へと旅立った。

思いがけずエンツコを発見!

さらに2年後。今日、3歳の娘を連れて、ある町の郷土資料館を訪れた。そこで私は、「エンツコ」を見つけたのである!これだ。

エンツコの中に、指先ほどの赤ちゃんの人形(キューピーちゃん?)が横たえられている

展示されている名称は「イヅコ」「エヅコ、ツグラとも呼ばれ、赤ちゃんを入れて置く育児用の道具です」と説明が添えられている。
イヅコは、私の脳内で「エンツコ」と結びついた。
これがばあちゃんの言っていた「エンツコ」に違いない!ばあちゃんに北海道の浜なまりがあって「エンツコ」になったのだろう。

そうか、ばあちゃんは、私の父や父の兄弟たちを、このようなカゴを使って育てたのか。私は、想像していたよりも「エンツコ」が立派で厚みがあり、温かみのある道具だったことにほっとした。人間が赤子を大事に思う気持ちは、昔も今も変わらないのだろう。
何なら、自然派育児を実践している親であれば、プラスチック製のベビーベッドよりも「エンツコ」を使いたがるかもしれない。それくらい完成度の高い民芸品だと思った。

もうすぐ三回忌。ばあちゃんに報告することができた。
「ばあちゃん、やっとエンツコが何かわかったよ。ちょっとだけど、ばあちゃんの子育てのリアルを知れてうれしかった。娘は3歳になって、子育てがだいぶ楽になってきたよ。でも、ばあちゃんの話は忘れない」

ばあちゃんには、ひ孫が十数人いる。結果的に私の娘は、ばあちゃんが生存中に生まれた最後のひ孫となった。そして、このまま最後のひ孫として確定しそうだ。いつか娘にも、ばあちゃんの「エンツコ」の話を聞かせてあげよう。


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