🍇｜「生クリーム泡」に「香り立ち」。スキンケアを極めるBioréがうたうコピーを味わう

きくちまるかっこ｜言語化デザイン

2024年8月15日 08:00

もこもこ、もちもちの泡は、いつでも私たちを穏やかな気持ちにしてくれる。

カプチーノのフォームミルクの、光を穏やかに拡散する水面。
シフォンケーキに添えられる、生クリームのもったりしたフォルム。

よく訪れるコーヒースタンドのカプチーノ。
この泡、層も厚くてスプーンで「食べる」感じ

こちらもよく訪れるカフェのシフォンケーキ。
脂肪分が少ないとこういうもったり泡になるのだとか

そして、細かく細かく泡立てて、左手にそっと載せる洗顔クリームも。

泡の集合体だと認識できないくらい細かくて密度の高い「もこもこ／もちもち」は、やさしさ、心地よさ、晴れやかさを感じるデザインの王道です。

「香り立ち生クリーム泡」…？

私はハンドソープも、泡で出てくるタイプがお気に入りです。
ボタニカルな香りが好きなので「ビオレザハンド」を使っています。
すてきなパッケージデザインもあいまり、発売当初から愛用中。

実際にわが家で使いかけの泡ハンドソープ。
パケがかわいいのですが、今回注目したいのは裏面▼

『香り立ち生クリーム泡』。
今日この記事を書き始めたのは、このハンドソープのコピーが気になったからなのであります。（個人的興味で！）

▲「花王　ビオレザハンド泡ハンドソープ」公式サイトより
『心地よさ続く　香り立ち生クリーム泡ハンドソープ』

生クリームのような泡、すなわち「生クリーム泡」というオリジナルの造語に、さらなる特長（＝香りへのこだわり）を装飾するとき、「香り立ち」と表現したのはなんでだろう。
私は「香り立ち」という言葉を初めて目にしました。香り立つ〜、とか、香る〜、とかでなく、わざわざ連用形名詞っぽく使っている……

「役に立つ情報」を「お役立ち情報」、「高く見えるジャケット」を「高見えジャケット」と表現することはあるしテクニックとしてもあるけれど、「香り（が）立つ（こと）」を「香り立ち」にしたとしたら、しかもそれを「生クリーム泡」というかなり新しい造語にくっつけるなんて、かなり新鮮な感じがします。

この謎に迫りたくて少し探究をしてみました。

2019年、「生クリーム泡」と宣言したBioré

まず先に「生クリーム泡」について確認しておきます。
「生クリーム泡」は『まさつレスーッ！』とともに「ビオレu ザボディ泡ボディウォッシュ」のCMで浸透したコピーです。
クリームのようなもちもちの泡をダイレクトに「生クリーム泡」と呼ぶ、それがまずかっこよくてしびれます。

ビオレのブランドサイトを拝読すると、2019年に独自開発した「３層メッシュポンプ」でよりきめ細かな泡を実現しているのだそう。
泡ボディウォッシュは発売当初からこの「生クリーム泡」というコピーで登場しているようです。

「泡で出てくるソープ」はこれ以前にもさまざまなメーカーから販売されていたように記憶しているけれど、こんなにもこもこでもったりとした泡が出てくるなんて！と私も大衝撃を受けたことを思い出します。

そして私の記憶が確かであれば、数年前に「『ツノ立ち』生クリーム泡」と修飾を加えたはず。

公式サイトによれば、泡をつくるポンプ部分を改良したことでいちどに出てくる泡量が増え、よりしっかりした「生クリーム泡」が生まれる、といった特長を『ツノ立ち』と表現しているようです。
お菓子づくりのときも「ツノ立ち（クリームの固さ）はこれくらい〜」という表現、レシピでよく見ます。イメージしやすく、泡のもったりもっちり感のクオリティが伝わります。

あ、もしや『ツノ立ち』との対比で『香り立ち』にしているのかな？
それは一理ある。
ワイドポンプで大量に出るボディウォッシュは「ツノ立ち生クリーム泡」
香りにこだわった上品めのハンドソープは「香り立ち生クリーム泡」
ラインアップがきれいに揃っている感じがします。

業界用語……！ブランドサイトにヒントがあった

対比説を唱えておきながら、新鮮さを感じたときの感覚に照らすともう一歩決め手に欠ける気もして、改めてブランドサイトを訪れてみました。

するとこんなイメージ図が。

これはフレグランス（香水）でいうところの「香りのピラミッド」ですね！
一つの香りが時間の経過とともに変化していく様子を図式化したものです。
ハンドソープなので長時間匂いが残ることはなさそうですが、ここで大切なのは「香りへのこだわりをフレグランスのイメージと結びつけている」ということです。

それならば、もしかすると「香り立ち」って、フレグランス用語なのかもしれない。「香り（が）立つ（こと）」をそう呼ぶことにした、のではなくて、もともとある言葉なのかも？

……ということで調べたところ、やっぱりそのようでした。

香り立ち【かおりたち】
時間の経過とともに香りが変化していくこと。匂い立ち。
はじめに香る層を「先立ち（トップノート）」、中間に香る層を「中立ち（ミドルノート）」、最後に香る層を「後立ち（ラストノート）」という。
※複数のサイトの情報を整理

立ちのぼる、の感じからの「香り立ち」だったのですね……！

この商品のターゲット層は、「毎日忙しいあなたに寄り添う」「私が私を幸せにする」というコピーワークからみると『仕事やプライベートを充実させたい、前向きな気持ちを自分でつくりたい、凛と自立した30〜40代女性』というところかなと思います。
フレグランスにもきっと親しみとこだわりのあるターゲット層にとってはごく自然な言葉遣いだったわけでした。（私は……ぱっと気付けなかったけど……！！）

とはいえ「もっちりとした泡立ち」の様子も印象付けたかったはずで、そういう点では「香り立ち生クリーム泡」というワンセットでのビジュアルイメージも包含されているような感じもします。

コピーもぐもぐ　完食

ときどきこうして気になるコピーをとことん味わってみたりします。
実際にどんな意図で生み出されたコピーワークなのか、それはわかりません。世に出るまでにもういろいろな紆余曲折があることも知っているし！

でもなんかおいしそう、ちょっとゆっくり頂いてみよう、原料は何を使ってるんだろ？ともぐもぐしてみると、その行為じたいが自分の血肉になっていく気がします。

「言葉をよくかんで食べます」は学生時代から使っている自己紹介コピー
4年前に作ってもらったプライベート名刺にも

これまでは自分でもくもくと考えを展開させて調べて……としていただけで満足しちゃっていたのですが、これから「コピーもぐもぐ」をnoteで言語化していこうかなと思います。同志がいたら嬉しいしな。

🍇｜コピーをもぐもぐ
言葉があふれる世界で、気になるコピーをよくかんで食べてみる記事。
「葡萄食ふ一語一語の如くにて（中村草田男）」のイメージでぶどうです🍇

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