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創業から6年を経て考える、ファストドクターの「現在地とこれから」

ファストドクターは事業開始からまもなく6年半を迎えます。地域の医療機関が休診となる夜間や休日に、医師による医療相談や往診、オンライン診療などが受けられる独自の救急医療プラットフォームをつくり、事業を普及させてきました。

世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症の拡大時に、自宅や宿泊施設で療養するコロナ患者さんに往診する医師の姿をテレビで見て、ファストドクターという医療サービスの存在を知った人も多いのではないでしょうか。しかし、実際はコロナで生まれたサービスではなく、もっと昔から、実はまったく別の目的から生まれたサービスなのだということを皆さんに知っていただきたいと思い、記事化しようと思い立ちました。

ファストドクターを公共インフラに組み込む

ファストドクターが掲げるミッションは「生活者の不安と医療者の負担をなくす」です。私たちは、創業から一貫して患者さんの医療アクセスの改善に取り組んできました。
高齢化が進む日本では、単身世帯や老々世帯の高齢者が増加しており、自力での通院が難しい人が増えています。それが一因となって、軽症患者による救急車利用が増え、結果的に医療機関の負担や医療費の増大を招いています。

そうした日本の医療が抱える課題解決に向けて、患者さんの医療アクセスを改善する救急往診や、オンライン診療の環境を整えてきました。しかし、まだファストドクターのポテンシャルを十分に引き出し切れてはいません。ポテンシャルを最大限に引き出すためには、ファストドクターを公共の医療インフラに組み込んでいくことが必要だと考えています。

旭川市で始めた救急隊との医療連携

実は、公共インフラとの連携はすでに始まっています。2022年9月から北海道旭川市で救急隊との連携を開始しました。新型コロナ感染者が救急車を呼んだ際、緊急性が低いと救急隊が判断した場合はファストドクターと連携し、その場で医師によるオンライン診療が受けられるシステムになっています。

救急隊員は医学的な診断が行えません。そのため緊急性に関わらず、患者さんに呼ばれてしまうと病院へ搬送を終えるまでは現場を離れることができません。コロナ禍では病院の受入体制が緊縮化したため、搬送調整には救急隊の多大な労力を要していました。そこにファストドクターのオンライン診療を組み込むことによって、患者さんの安心安全を担保しながら、不必要な救急搬送を減らしていくことができるようになりました。

こうした事例は平時の医療にも活用できる部分が大きく、令和5年度に向けて複数の自治体での導入に向けた検討がスタートしています。

かかりつけ医機能をエンパワーメントする「在宅医療支援事業」

もちろん公共のインフラという意味では、地域の医療機関との連携も大切です。在宅医療支援事業の大きな目的は、地域の医療機関と連携して「かかりつけ医機能」をエンパワーメントすることにあります。かかりつけ医とは「市民が健康に関する相談ができ、必要な時に専門の医師や医療機関を紹介してくれる身近で頼りになる医師」を指します。

かかりつけ医を担う開業医は全国でおよそ10万施設あると言われていますが、そのほとんどはソロ・プラクティス(個人開業)と言われます。当然ながら、医師1人で担える業務には限界があります。ファストドクターは、そうした医師の夜間・休日対応や、往診対応などをサポートすることを経て、かかりつけ医機能の底力を引き上げることにチャレンジしています。

病院との連携もあります。夜間や休日に大学病院の救急外来に相談をした患者さんが軽症だった場合は、病院からファストドクターを案内してもらい、行き過ぎた「病院志向」を減らしていく取り組みを進めています。日本の医療は、患者さんが自由に受診先を選べるフリーアクセスが定着しているため、かかりつけ医ではなく、最初から病院を受診先に選ぶ傾向が強くあります。そうした日本人の「病院志向」や「かかりつけ医機能の脆弱性」は、今回のコロナ禍で、病院が負担に耐え切れなくなり医療崩壊を招いた一因として考えられています。この状況を変えるには、身近な開業医の「かかりつけ医機能」の強化が必要であると考えています。

こうした取り組みを経て、興味深い結果も出ています。夜間や休日にファストドクターが医療相談や往診を代行したことで、結果として患者さんの救急外来の受診数や、救急搬送数が減る傾向が少しずつですが現われてきています。加えて、医療機関が夜間診療の負担から解放され、そのリソースを日中にしっかりと割けるようになったことで、より多くの患者さんに対応できるようになり、かかりつけ医のポテンシャルを引き上げている、そうした効果も見えてきました。

医療政策と連携する「自治体支援事業」

次に自治体支援事業についてです。これは国や自治体が進める医療政策との連携ですが、私たちのシステムが公共のインフラに組み込まれるためには、導入に値する費用対効果を実証できなければなりません。

例えば、#7119や#8000といった救急安心センターや、119番とファストドクターが連携したときに、救急外来の受診者数や救急搬送数を減らすことができたのか、医療費の抑制効果があったのか。その変化を見せなければいけません。そして救急医療を担う医療機関の医師の負担をどれくらい和らげることができたかも示さないといけないと思っています。

それに向けては3つのステップが必要になると考えています。

ステップ1は、国が、重点事業として都道府県に体制整備を求めている「5疾病6事業および在宅医療」に対して、私たちがしっかりとソリューションを提供し、実績を作っていくことです。まさにコロナ禍での自治体支援はその第一歩となったわけですが、さらに平時にも価値を提供することができるかがポイントとなります。

ステップ2は、エビデンスの創出です。ソリューションとして提供した医療サービスが、どのような価値を生んだのかを分析し、明らかにします。これは今、筑波大学や大阪医科薬科大学との共同研究を経てエビデンスの創出に取り組んでいますが、近未来には本社にリサーチセンターの開設を予定しています。

ステップ3は、エビデンスをもとに国政のアジェンダ(検討課題)にファストドクターの事例を提案していきます。課題の解決策は常に現場にあります。ボトムアップで有用なソリューションを提案していくことは、国にとっても大切な知見になると考えています。今はまだステップ1のフェーズですが、この階段を着実に上っていきたいと考えてます。

日本の医療の効率性の課題

出典:2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)

令和4年度の財務省のレポートによると、1990年度と2022年度予算の歳出に占める社会保障費の割合は、1990年度の17.5%に対して2022年度は33.7%と2倍近くに伸びています。ほぼ横ばいの公共事業や文教・科学、防衛費に比べて伸びが突出しています。この歳出増は税収だけでは補えず、国債という国の借金で賄われています。

次にお示しするのは、社会保障における給付と負担の構造をOECD諸国と比較した図です。

出典:2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)

縦軸は社会保障費の対GDP比で、横軸が国民の負担割合です。図の右上に行くほど、国の歳出のうち社会保障費の支出割合が高く、国民の負担割合も高くなります。日本は1990年から2015年にかけて極端に上昇しています。これは、国民の負担は増えず、社会保障費の比率だけが上昇したためです。この分布図では、地紋のついた「天の川」の中に収まることが適正とされ、日本が今後この中に収まるためには、社会保障のサービスレベルを落とすか、国民負担を引き上げるかしかありません。

出典:2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)

最後の図は、2040年を見据えた社会保障費の将来見通しです。社会保障費全体の中に占める割合は、年金が2018年度の10.1%から2040年度推計は9.3%に、介護は1.9%から3.1%に、そして医療は7%から9%に迫る高い伸びが予想されています。この医療費の増大をどのようにコントロールしていくかが今、問われているのです。

少子高齢化の影響で、日本の生産年齢人口は今後急速に減っていきます。稼ぐ力が失われていく一方で、コストを抑えていくためにはどのようにすれば良いのでしょうか。

効率的で質の高い医療体制を目指して

医療政策の3つの目標として、「質、アクセス、費用」があげられ、3つを同時に満たすことはできない(トリレンマ)と言われます。互いにトレードオフの関係にある3つの要素の中でどうバランスをとるのかが舵取りに求められます。ここで「質、アクセス」を担保しながら「費用」を抑えるためには「効率性を高める」ことが重要と考えます。それには「一件一件の診療効率を上げる」というミクロ的な視点と「医療体制の効率性を上げる」というマクロ的な視点が求められます。

コロナ禍において、日本の医療体制は脆さが露呈したように思います。多くの医療機関が小中規模の民営である日本では、ほとんどの医療機関がダイナミックな変化に柔軟に対応することができませんでした。これは、医療リソースが分散しすぎてしまっているとも言い換えられます。一般的な業界では、資本による集約化が起こり、それが効率性の獲得につながっています。医療業界は、株式市場とは分断された世界にあるため、資本による集約化が起こりづらい環境と言えます。そうした環境要因こそ、医療業界がガラパゴス化している一因のように感じています。

私たちは、テクノロジーで最適化されたファストドクターの医療体制を既存の医療インフラの一部に組み込んでいくことにより、日本の医療の効率性を上げる一翼を担いたいと考えています。

2030年に向けたチャレンジ

ファストドクターはこれから次の3つのテーマにチャレンジしていきます。

1つ目は、「5疾病6事業および在宅医療」という国策に向けて幅広くソリューションを提供し続けていきます。5疾病6事業および在宅医療とは、平成19年に施行された改正医療法以降、日本の医療システムの重点機能として、各都道府県で策定されている医療計画のアジェンダのことを言います。これまでファストドクターは、救急医療と在宅医療の領域に特化してソリューションを提供していましたが、今後は精神疾患をはじめとした幅広い領域において患者さん、地域医療への貢献を目指していきます。

2つ目は、ヘルスケアデータの活用です。私たちはデータから新たな医療サービスの価値を見出したいと考えています。

医療業界はこれまで「エビデンス・ベースド・メディスン」の考え方が主体でした。これは何かというと、「この薬を飲むと血圧が10下がります」といった科学的エビデンスに基づいた医療を患者さんに推奨することを言います。この手法の利点は、科学的に根拠のある医療を患者さんが選択できることですが、一方で、それが本当に患者さんの望む医療であるとは限らないということです。例えばあなたが末期がんの患者だったとして、抗がん剤による治療を勧められたときに、「積極的な治療は行わず自宅で最期を迎える」という決断をしたとします。これは「バリュー・ベースド・メディスン」に基づいた意思決定でしょう。

これからは、「バリュー・ベースド・メディスン」という、患者さんにとって最も価値のある医療行為かどうかを問う機運が高まってくると思っています。最善を尽くす医療現場でこの概念を取り入れる難しさはありますが、もちろんエビデンスは重要視しながら、患者さん本位の医療サービスの提供をしっかりと見据えていきたいと考えています。

3つ目はグローバル展開です。私たちは「生活者の不安と医療者の負担をなくす」ことをミッションに掲げてきましたが、当然ながら日本だけではなく、世界にも目を向けていかなくてはなりません。見渡すと、まだまだ解決しなくてはいけない課題は山積しています。日本の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳ですが、アフリカ共和国は未だ53歳です。「病院から2時間以内に居住する人を8割以上にする」ことが国際基準として掲げられていますが、サハラ砂漠以南の国々では2割しかこの基準を満たせていない現実があります。母体死亡率や小児死亡率は、途上国と先進国で10倍以上のかい離があります。先進国に暮らす私たちは、そうした国々に対してどういったソリューションを提供することができるかをしっかりと考えていく必要があると考えます。

新たに掲げる「ビジョン2030」への想い

「不要な救急車利用を3割減らす」ことを目指した「ビジョン2025」に代わって、新たな「ビジョン2030」では、「1億人のかかりつけ機能を担う」を掲げます。5疾病6事業におけるソリューションの深化と、ヘルスケアデータをインテリジェンスに転換し、患者さんに対して、効率的で質の高い医療を提供できるようにすること。そして、蓄積したナレッジを生かして、グローバルに向けてもインパクトを出せる事業に育てていく━━。それが創業6年目の現在地にある、私たちファストドクターが目指す姿です。

こうしたビジョンや想いに共感し、ファストドクターの事業をともに創造していきたいと感じられた方はぜひご連絡ください。
ご応募をお待ちしています。




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