見出し画像

子を想う親の心(鳥たちの場合)

 近年稀に見る厳冬をやっと乗り越えたサンパウロ。天気によって多少の気温の変動はあれど、「最低気温5℃!」という真冬の寒さが戻ることは、9月以降には流石にないだろうと思われる。

 春の花々が次々に開花し、陽射しが強いと汗ばむものの、湿度が低くカラッと爽やかな気候。ウォーキングにはもってこいの季節を迎えた。

画像1

画像2

画像4


  つい先日のこと、いつもの公園を歩いていると鬱蒼と葉を茂らせる大木の上方から、尋常でない鳥の囀りを耳にした。

 視線をその鳴き声の方に向けてみると、鳥が何かの小動物を果敢に攻撃する姿が目に飛び込んで来た。鳥同士の闘いではない。ネズミ?ふさふさの尻尾の持ち主であるそれは、なんとリスだった。

 子供の頃にペットとしてシマリスを飼っていた経験から、犬猫と同等くらいのレベルで、私はリスを愛している。残念なことにこの近隣では今までリスを見かけたことがなかったから、山にでも行かない限りお目にかかることも無いのだろうと勝手に思っていた。だからその光景には非常に驚いた。

 木から木へと飛び移りながら逃げ惑うリスを執拗に攻撃する鳥。木陰でハッキリとした姿は確認出来なかったが、日本で見かけるムクドリやヒヨドリ位の大きさの鳥だったように思う。数分ことの成り行きを見守っていたところ、鳥の声が止み、リスも鳥も姿を消していった。

 なぜ鳥がリスを攻撃していたのか。私はこう考察してみた。リスといえば、皆さんは木の実や果物を主食とする可愛らしい印象を持たれているかと思う。ところがリスは意外にも雑食をする動物だ。

 飼いリスにはタンパク源として、鶏のササミなどを餌の一部として与えるらしい。きっとあのリスは鳥の巣の雛か卵を狙っていたのではあるまいか。あれは親鳥で、我が子たちを守ろうと、必死にリスを威嚇して遠くに追いやろうとしていたのではと。

 親鳥が子供たちを守るため、リスが生き延びるために繰り広げられた攻防戦。テレビのドキュメンタリー番組の中だけの話ではなく、意外にも自分の身近なところで起こっていることにある種の感動を覚えた。そして、どうしてもこの話を、家族や友人たちにシェアしたいという想いに駆られた。

画像3

 その日の昼食時に、早速家族にこの話を切り出してみた。そういえば...と娘が数年前に我が家で起こったあることを口にした。

 アパート住まいの我が家のベランダには小さな花壇があって、ベランダサイズのこじんまりとした木が植わっている。決して立派な木ではない(高さは天井スレスレほど)のだが、ある年のこと、その木に小鳥がせっせと巣を作り始めた。その鳥はスズメよりは大分小柄で、全体的に地味な体色だが、お腹だけが黄色い色をしている。こちらではcambacica(マミジロミツドリ)と呼ばれているらしかった。

 ガラス窓一枚を隔てた向こう側はすぐに我が家のリビングというその木に、どうして野鳥が巣を作りたかったのか謎だったのだが、果たしてその巣は完成することなく、言わば基礎の段階で放置された。ほらやっぱり!家族の誰もがその時にそう思っていた。

 しかし、それからしばらくしてまた同じ種類の鳥が、かつての巣があった同じ枝と枝の間に巣を作り始めたのだ。同じ種類の鳥、というだけで確信は無かったのだけれど、場所が場所だけにあの鳥がまた戻って来た!と家族の誰もが色めきだった。

 そして2回目の巣?は見事に完成した。親鳥は人知れずそっと卵を産み、(雌雄の共同作業なのかどうかは分からないが)抱卵を始めた。来る日も来る日も、親鳥は我慢強く卵を温めていた。偶には留守にしている時もあったが、気づくと必ず巣に戻って来て、何事も無かったように卵を抱く。そんな日が幾日も繰り返された。

 どれくらいの日が経った頃だろうか、巣から雛鳥たちの元気な鳴き声が聞こえるようになった。親鳥が留守にしている間に巣を覗き込むと、まだ目も開かず禿げ坊主の雛鳥たちが大人しく親鳥の帰りを待ち侘びていた。なんと可愛らしいことだろう。家族一同、瞬く間に雛鳥たちの虜となったことは言うまでもない。

 この巣で子育てをしている限り、蛇や大型の鳥などの天敵に雛を狙われる心配はない。何より、親鳥と私たちの間には絶対的な信頼関係が成り立っていたように感じられたから、親鳥は安心して子育てを続けるのだろうと信じて疑わなかった。

 雛たちに孵化からどれくらいの日々が過ぎた頃だっただろうか、予想だにしなかったことが起こってしまった。親鳥がぱったり姿を見せなくなった。雛たちの巣立ちはまだまだ遠いように思われていた大切な時期に。

 最初のうちは、いつもより遠くまで餌を探しに行ったのだろうか?それとも、私達が気づかない間にこっそり戻って来ているのかな。そんな風に考えていた。事実、親鳥の姿を見かけなくとも、暫くの間は雛鳥たちの声が聞こえていたから。

 ある日、雛たちの声が完全に聞こえなくなってしまった。最悪の事態が頭をよぎったが、もはや巣の中を覗かないという選択肢は残されてはいなかった。残念なことに、親鳥が丁寧に小枝や葉っぱを編んで作った巣を、取り外さなければならない日が来てしまった。

 やはり、我が家の木は雛たちの子育てには向かないと、親鳥が判断したのだろうか。なるべくそっとするようにはしていたけれど、偶にはベランダを掃除する必要はあったし、木の水やりだってしないわけにはいかない。そんなことは抱卵の間にも分かりきったことだと思うのに、親鳥は卵を見捨てることなく温めて続けていた。なのになぜ?

 もっと早くに気づいてあげて、雛たちを保護すべきだったのだろうか?花の蜜を吸い、果物を好んで食べるその鳥の雛を、人間である私たちが育てられたかといえば、その時はもちろん、今でもとても自信がない。育児放棄をしたその鳥のことを、理解に苦しむと娘は言った。

 そこで娘の思い出話に静かに耳を傾けていたオットが初めて口を開いた。

「その親鳥は本当に育児放棄したのだろうか?帰れなくなった理由が他にあるのではないかな?」と。

「えっ⁉︎どういうこと?」

家族全員の視線がオットに集中する。

「その親鳥は育児放棄をしたのではなくて...何かの理由で絶命したのではないかな。」

とのことだった。そういえば、群れをなして毎日のように我が家のベランダの手すり下で無防備に日向ぼっこをする小型の鳩、rolinha roxa(ケアシスズメバト)。彼らは上空を旋回して狩りをする中型の鳥に度々襲われる。運が悪いと捕獲され、そうでなくとも致命的な怪我を負って命を落とした。襲われた時に直接の危害を受けなくとも、逃げ惑ううちに窓ガラスに激突して絶命した個体もいた。

 そう考えたらオットの推測もあり得ない話ではないと思われた。この世に産み落としたかけがえのない命を、そう簡単に見捨てて欲しく無い、という気持ちが強くて、思い出す度になんとも後味が悪かった。雛たちを助けてあげられなかった自分の非力さにももちろん。

 それが真実かどうかはもちろん分からない。でも、偶然目にした公園での出来事とオットの言葉に少し救われた気持ちになった。それにしてもオットよ、どうしてもっと早くに言ってくれなかったのかな。。

【本日のサイドミュージック】

 ちょうど今朝の撮りたてのホヤホヤ!我が家のベランダから聞こえた、鳥たちの大合唱です♪この中に前回ご紹介したbem-te-viの、「ベンチビー!」という叫び声も入っています。良かったら探してみて下さいね!音はマックスでどうぞ!





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?