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肉の切り分けが修行に思えた新婚の頃〜豚の生姜焼き、ブラジルの豆の煮込みのレシピ付き〜

 28年前の結婚を機に、ブラジル、サンパウロ市に移住しました。新たな地に来て直ぐに直面したのは「食事の支度」でした。結婚前の28年間は、社会に出てからもずっと実家暮らしでした。東京との境にある千葉県市川市の実家から、東京の勤め先まで1時間ほど。残業で疲れて帰っても、何もしなくても夕飯は用意されている、今思えば極楽のような毎日でした。結婚前からコツコツと料理の本(会社内で千趣会の料理本を定期購読していました)を揃えたり、料理教室に通ったりもしましたが、「料理上手、料理好き」とは程遠いまま、嫁ぐことになっていたのです。

 オットからは直ぐに日々の買い物についてレクチャーを受けました。スーパーへの買い出しは、週末に大型スーパーで纏め買いをすること。野菜や果物、鶏肉、魚などは近所の朝市(今も通っている、金曜日の朝市です)で買うこと。確かに朝市の生鮮食品はスーパーの品物より新鮮です。今は値段的には大型のスーパーの方がお得なような気もしますが。。

 そしてどう言うわけか、肉に限っては肉屋さんで購入すること。当時のスーパーでも精肉コーナーはあったはずですが、肉は肉屋さんでと伝授され、何の疑問も持たずにそれを受け入れていたのでした。オットも新居に越して来たばかりで近所のお店には疎く、とりあえずオットの実家の付近の肉屋さんへと連れて行かれました。

 ブラジル人にとっての肉といえばそれは「牛肉」を指します。挽肉も牛肉100%が主流。と言うか、豚挽肉や合い挽き、鶏挽肉は普通の精肉店では見かけたことがありません。(豚挽肉はもしかしたら東洋人街で手に入れることが出来るのかもしれません。)

 精肉店ではショーケースの中の肉を選び、希望の量をお店の方に伝えます。日本では炒め物やカレー、すき焼きやしゃぶしゃぶなどにも重宝する、超薄切り肉は基本的にはありません。(東洋人街で冷凍の物を購入することはできます。)

 おびただしい数の肉におののいている私に、オットが肉屋さんでの注文の仕方を教えてくれました。

「牛肉はフィレミニョンが柔らかくて一番美味しいから、こう頼むんだよ。

Um quilo de filé mignon de pedaço,  por favor! (フィレミニョンの塊を1キロお願いします!)」

 牛の挽肉の頼み方はこうでした。

「Um quilo de carne moída de primeira,  por favor !」

  carne moída (挽肉)と言うだけでそれは牛挽肉を指し、de primeira とは一等の、つまり牛の肉の部位でより柔らかい部分の、と言うニュアンスになります。2キロ分もの肉の袋を持ち帰り、小分けにしての冷凍作業に格闘した若き日⁉︎の私。挽肉はまだ良いとして、フィレミニョンには参りました。切れ味が良いとはいえない包丁を手に、余分な脂や筋などをきれい削ぎ落としながら小分けにします。文字通り血は滴って生臭いし、肉が嫌いなわけではないけれど泣けてきました。ブラジルにやって来て早速受けた洗礼。日本のスーパーの、パックに入った上品な肉のありがたみが身に沁みました。

 新居に住み始めて程なく、家のごく近所に肉屋さんがあることに気がつきました。アパートのある細い道を上がっていくと大通りに突き当たり、そこを左に折れて通りに沿って少し歩いたところにあった肉屋さん。何度か通ううちに、ポルトガル人の、当時60代位のご夫婦で営まれているお店であると云うことが分かりました。

 奥で肉の解体を行うご主人様は、基本的に店先には立ちません。お話したことはなかったけれど、とても物静かな印象のお方でした。グレーヘアーがお似合いで、快活な奥様が接客担当。私のことも直ぐに覚えて下さいましたが、今思えばお互いに名前を訊ねたことはなかったです。夫婦二人暮らしの間に、日本から遊びに来てくれた弟や友人をそのご夫婦に紹介したことは、今となっては懐かしい思い出です。

 結婚から5年経って娘が生まれた時、新生児だった娘を一人置いてダッシュで肉屋さんに行ったことがありました。出産から1ヶ月ほど経ってのご報告をおばさんはとても喜んで下さいましたが、

「赤ちゃんは?」

と。

「よく眠っていたから隙を見て買い物に来た」

と言ったら、とても心配して下さいました。

「電話をくれたら、デリバリーもできるから遠慮なくね」

と言って下さいました。

 娘が4ヶ月になった頃、賃貸だったアパートから近所に引っ越しましたが、その肉屋さんには引き続き通っていました。息子が生まれた後、デリバリーも利用しましたが、息子が抱っこバンドでお散歩出来るようになると、子供達を連れてお散歩がてらご夫婦のお顔を見に行きました。買い物がない日でも、通りの向こう側から子供達が手を振ると、ご夫婦は笑顔で応えて下さいました。

 もう5、6年になるでしょうか。突然肉屋さんが閉店になっているのに気づき愕然としました。最後に買い物をしたその二週間ほど前には、おばさんはいつも通りだったように思ったのだけれど。。しばらくしてアパートの建設工事が始まりました。確かお店の裏手がご夫婦のご自宅になっていたはずですが、果たしてお二人が今もそちらにお住まいかは定かではありません。どこにいらしてもどうかお元気であられますように。

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昨日、たまたま肉屋さんの跡地の前を通りました。あの頃の名残は全くないです。



***


 世界的な物価の高騰と、食べ盛りな若者二人がいる我が家のエンゲル係数はここのところ鰻上り。肉といえば牛のフィレミニョン!と言ってばかりもいられなくなり、最近は比較的安価な、豚肉の登場回数が多めです。

 そのお肉屋さん無き後は、スーパーでパックの肉を買ったりもしていましたが、最近は近所にチェーン店の肉屋さんが開店して、今はもっぱらオットが肉係となって購入してくれています。(ヘッダー写真がそのお店です。)

 ここのところリオやブラジリアと国内出張が続いていたオットは、昨日は在宅での仕事でした。以前購入して冷凍していたお買い得品の豚肉を使って、夕飯のために生姜焼きを作ってくれるとのことで、メインの料理はお任せすることにしました。

【昨晩のメニュー】

1.豚の生姜焼き

材料

お買い得品の豚ロース 1キロ
醤油
料理酒
ブラウンシュガー  それぞれ適宜
生姜 搾り汁と千切り 沢山
一緒に炒める野菜たち 
(今回は玉ねぎ、イタリアンパセリ、シシトウなど何でも。お好みで。)


野菜を適当に切り、解凍した豚肉を調味料、生姜に漬ける(ここまでは私の担当)
ここから先はオット担当。なんとバターで肉を焼いていました。
肉と野菜をじっくりと焼く。


2.フェジョン(カリオッカ豆)の煮込み(以下サイドメニューは私の担当。)

 ブラジル人のソウルフードで、1日のうちのどこかで必ず食べられる、日本人にとっての納豆のような存在です。豆が黒豆で、リングイッサ(ブラジル風生ソーセージ)や干し肉など、いろいろな部位の肉と一緒に煮込んだものは特に「フェジョアーダ」と呼ばれるスタミナ食となります。フェジョアーダを水曜日と土曜日の昼食に食べる習慣があります。


材料

カリオッカ豆 500g
イタリアンパセリの茎 
いつもの朝市でタダでいただいたパセリの茎が花束のように立派だったので、豆を煮込む時の香り付けに茎を入れてみました。
玉ねぎ 2個
ニンニク 3かけ
フェンネル 適宜
フェンネルはあまり入れる方はいないと思いますが、私が好きなので。
ベーコン
塩胡椒
パプリカの粉

カリオッカ豆。一袋は1キロなので半分使いました。
キチンとした圧力鍋は使わなかったので、数時間豆を水に浸しました。(その後パセリの茎と一緒に火にかけます。)
野菜たちを細かく切ります。ニンニクは粘りが出るほど丁寧に叩いて
全ての材料を炒めながら塩胡椒します。
仕上げにパプリカの粉を振り入れて。
豆が柔らかくなっていたら、炒めた野菜を鍋に入れ、魔法の調味料、世界のAJINOMOTOのSazón®︎に味付けはお任せ。
出来上がりました。Sazón®︎に含まれるのか、クミンの香りが食欲をそそります。


3.サラダ

 これだけでは野菜が不足しがちなので、簡単にサラダを添えましょう。

材料

レタス
トマト
きゅうり
ビーツ(生のままおろし金でおろします。)
ルッコラ

(ドレッシングとして)
エクストラバージンオリーブオイル
ライムの搾り汁

乾燥オレガノ

野菜を切って、よく混ぜたドレッシングを回しかけただけ。一年ほど前に冷蔵庫のレタスからひょっこり出てきたカタツムリ達のご飯も忘れずに。(夜行性なので、人間が生活する時間にはこんな風に寝ていることが多いです。)


出来上がりました。炊き立ての白米と一緒に。ちょっと地味なワンプレートとなりました。生憎、娘は友達と夕飯を共にし、メニューを伝えたら大層残念がりました。「明日の昼食のために取っておいて〜。」と。そのため1キロもの肉を焼いたのだけど。
以前、オット作のフェジョアーダと一緒に出したこともありましたっけ。やはり地味なプレート。

 皆さんのお宅ではどのようなお肉料理が人気メニューなのでしょう。とってもとっても気になります♪


【番外編】

 サラダに使ったルッコラという葉っぱはなかなか使い勝手の良い野菜です。ちょっと胡麻の風味はあってピリッっとしてほろ苦くて。強い芳香が癖になりそうに。私はお招きを受けたお宅でサラダでいただいたのが最初の出会いですが、今や味噌汁に入れたり、トルティージャに刻んで入れたり。いろいろなバリエーションの料理を楽しんでいます。こちらでは春菊を見かけないので、すき焼きに入れても良さそうです。朝市で買うルッコラは、根っこ(土付き)付きで新鮮そのものです。

 大江千里さんのこのペペロンチーノは、たっぷりのルッコラを盛り付けて美しいですね。ホットサラダ感覚でいただくそうです。早速私も真似をしてみましたが、写真を撮る前にルッコラを混ぜ込んでしまい、別物の仕上がりとなりました。

たまたま家にあった細麺との相性も良く、こちらもイチオシレシピに加えさせていただきました。シンプルな料理ほど素材の良さが引き立ちますね。


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