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smashing! まもるきょりとあいと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


土日を使って、病院の大掃除を敢行。それほど汚れてはいないが、それでもなんだかんだで外壁だの床だの、案外広いところにダメージがあったり。佐久間も喜多村も掃除は慣れたもので、思ったよりも進みが早く、結局日曜の午前中には終わってしまったのだった。

ピカピカになった院内や外壁を眺め、ますます繁盛しそうだな!喜多村が逆に薄汚れた格好で佐久間に笑いかけた。ダクトだろうが換気扇だろうが、躊躇せず頭から突っ込んでいく喜多村は、掃除の時はこんな感じに全身汚れてしまう。

風呂上がってから今日は屋上で一杯やろう!佐久間の提案に、一緒に入っていたバスタブではしゃぐ喜多村。いい感じの雰囲気はいつのまにか湯の掛け合いに。もー耳に水入っちゃったやん、佐久間は苦笑いしながら先に風呂を出た。

簡単に食べられて美味しくて。そんな昼食兼酒の肴、ラー油とザーサイ入りの変わりつゆで食べる素麺、鶏の唐揚げ、揚げとうもろこし。今日は珍しく超辛口の日本酒。後輩の設楽の東北土産、陸奥男山だ。梅雨の晴れ間はほぼ曇天。屋上のハンギングパラソルの下で、二人は酒宴の支度を整える。有難いことに今日はそれほど湿気も感じられず、爽やかな陽気。日光が今ひとつ足りない気がするが問題ない。

朝から動き詰めだった二人。旨い、美味いな、ひたすら素麺を食い続ける。そして一息ついて一杯。その辛口具合に思わず唸り声をあげ、揚げとうもろこしの甘さが引き立つのを感じる。常連の牛尾さんの畑で獲れたというとうもろこしは、肥料こそ驚くほど食うが素晴らしく甘く瑞々しい実をつけるのだ。

そういえばパ…父さんがまたスイカを取りにおいでってさ。喜多村は嬉しそうに、佐久間に酌をする。そうだな、またお邪魔しないとな。この喜多村によく似た風貌のイケオヤジ(喜多村談)は、佐久間にとても優しくしてくれる「お父さん」だ。父さんは距離感がバグってるとこがあってな。そう零している喜多村には言わないが、喜多村の実家、裏庭のスイカ畑はお父さんの性格が現れているようだった。でも俺、千弦のお父さん好きだなあ。喜多村が真剣な眼差しで佐久間に向き直る。鬼丸それ絶対パパの前で言っちゃだめだ。えなんで。延々と続く推し問答の予感。酒切れたから取ってくるよ、佐久間はそそくさと下への階段に向かう。

優しくて丁寧で、それでいて適度の隙を作っている。きちんと手入れされた畑に遠慮なく客人を招き、敢えて広めの間隔を置くことで、そっとスイカを護っている。佐久間の頬が無意識にふわりと綻んで、屋上の喜多村を見やる。それはほぼお前にもあてはまるんだよ千弦、小さな独り言を口ずさんで。



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