見出し画像

佐久間イヌネコ病院 luv.72 ことだまをさとして

画像1

今年のお盆は、達丸和尚の弟の鬼丸くんは帰省しなかった。ほんとは皆で来るはずだったんだけど、こっちのお盆のスケジュールが詰まってて、鬼丸くん達をゆっくりさせてやれないから断ろう、って達ちゃんが判断した。

けっこう前から楽しみにしてて、食材なんかも買い込んだりしてたから、自分で決めたとはいえちょっと斜めに傾くくらいはがっかりしてた。まあしゃあないわ、寺で修行中の徳河よっちゃんや俺にも、それだけ言ってあとは黙って過ごしていた。

檀家さんが増えてくれたのもあって、ここ数年で一番忙しかった今年のお盆。俺は本業のキャラクターデザインの仕事がちょっとだけ落ち着いたので、ずっと達ちゃんのお寺を手伝ってた。お揃いの作務衣なのにさ、俺だけ大柄だから、年配のお父ちゃんたちには「虚無僧」とか「山伏」とか好き放題言われてたわよやんなっちゃう。

お盆が無事終わって、その日の夜は三人で打ち上げていうか宴会した。鬼丸くんが送ってくれた勝山献っていう純米酒という名の般若湯を、達っちゃんがすごく喜んで、ママよこれ燗にしてくれ、そう言うからあっためたげたのよこの暑いのに。なんか伊達家御用蔵って書いてあるし、鬼丸くんの先輩のあの人を彷彿とさせる。あとで聞いたらその伊達くんから達ちゃんへの貢物だったみたい。

よっちゃんがお得意のご当地グルメ風ご飯を作ってくれた。この子ここ来る前は喫茶店でバイトしてたらしいから本格的。定番のナポリタンに餡子とバターのっけたトースト、地鶏焼き挟んだサンドウィッチ。パン被り。あれこれ朝ごはんもしくは昼ごはんじゃね?どれも達ちゃんの大好きなやつ。

鬼丸くんたちに会えなくて残念だったわね、そう言うと達ちゃんは少し苦笑いして、熱燗を口にする。お酒入ってても達ちゃんは箸を綺麗に使うけど、ナポリタンを食べるのはちょっと苦手。フォーク持ってきましょうか、席を立とうとするよっちゃんをやんわりと引き止めて、俺ぁ箸が好きなだけだから大丈夫だ。地鶏サンドウィッチの上にナポリタン乗っけて、そのまま齧り付く達ちゃん。

大切な弟を安心して託せるその場所があることが、達ちゃんには何よりも嬉しいみたいだ。そもそも達ちゃんには「IF」という選択肢はない。もしだめだったら、もし間違っていたら、ともすればつい使ってしまいそうなネガティブを、言霊は大切に扱うものだと、達ちゃんは静かに訥々と話す。思ったり言ったりしたらホントになっちゃうんだからな、そう笑いながら。

鬼丸はあの土地で元気にやってるからいいんだ。千弦くんも側にいてくれるし友達もいっぱいできたからな。達ちゃんは俺に酌しながら続ける。だからこそ次があるって思える、鬼丸とはいつでも会える、ってな。

こんな立派なお坊さんみたいな事、こんな渋い笑顔でもってサラッと言っちゃうのよこの人。やだそういえば達ちゃん、このお寺の住職なのよね忘れてた。



真々部 “ママちゃん” 千秋
ーーーーーーーーーーーーーー
佐久間イヌネコ病院
お盆は鬼丸の実家の予定だったけど
お寺が忙しいからまたゆっくりおいで って
電話でお兄さんが言ってたんだ
あのあたりのご当地グルメが
夢に出てくるくらいに大好きだから
また寄らせてもらおう

そしたら今日鬼丸が
俺が食べたかった色々を
作ってくれてた!

あれだな
思ってるだけで叶うってやつだな!

(魔神せんせい)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?