見出し画像

006/ただ「味わう」を楽しむ

明け方。しんと静まり返った山の麓に響くのは、暗がりから飛び立つ間際の微かな水鳥の羽音。

夜明け前に目が覚めた。二度寝もあれだから台所に行って水を飲む。ふと居間を見ると電気がついてて、伊達さんと雲母さんが畳の上でくっついて寝ていた。ふわもこ装備にブランケットでお腹周りを死守している。でも風邪ひくでしょ、ブランケットさらに追加。二人とも深く眠ってるようでオレに気付いていない。

白々と明け始めた窓の外。居間の電気を消し再び台所へ向かう。コーヒーとあとは卵茹でて、タマゴサンドにするか。刻んだパセリも混ぜ込んで。コーヒーメーカーが喧しく音を立てる。すると人の起き出す気配。台所にやってきたのは雲母さん。このクールビューティはくしゃくしゃの寝起きでもこんなに綺麗。どうなってんだろうなツルツルピカピカ。僕も手伝います、そんでコーヒーや食器を運んでくれる。昨夜仕込んでおいた乾燥デーツや白イチジク入のヨーグルトも出して、ちょっとだけゴージャスな朝食。あとは何か甘いもの。伊達さん絶対言うから、甘いのん食べたいって。ようやくお目覚めの伊達さんはこれまたくしゃくしゃの髪に寝起き眼(ぶすっ可愛い)でもってテーブルの上をしばらく眺め、オレの方見てお決まりの句。甘いのんですね御意。

伊達さんは雲母さんの隣に座りキスをねだると、そのまま膝の上に。猫か。二度寝しないうちに何か甘いのんを。冷蔵庫開けたら生チョコレートペースト。これをコーヒーに混ぜて甘めにして。あいい匂いする、伊達さんが元気よく起きたんでマグカップを渡すと、嬉しそうに口にした。

甘いのんはアタマが覚醒するんよ、キリッとして言ったつもりが口の周りに茶色の輪っか。伊達さんとてもキュートですよ、そう言う雲母さんも同様なってますし。ヨーグルトの中で柔らかくなったドライフルーツをわざわざ探して頬張ってる。ちゃんとヨーグルトも食べて下さい、これはこれでお楽しみがあんの。伊達さんは冷凍庫からバニラアイスを出してきて、ヨーグルトに突っ込んだ。フルーツ食べない方が良かったんじゃ。こうやってクリームみたいに混ぜて食べるんよ、アイスとヨーグルト混ぜ混ぜ、雲母さんにあーん。すごく美味しいですね爽やかで。だからフルーツも一緒に食べればよかったんじゃ(二回)。これはねえ別々に食べるのがイイんよ二度美味しいの、戻りフルーツとヨーグルトアイスですか成る程。オレらのやり取りで雲母さんが色々食らって悶絶。でも僕わかるような気がします、息絶え絶えにそんな主張とか。伊達さんがオレにもスプーンを差し出す。

甘いの先はアタマとろかすためね。余計な考えを消すってことですか?伊達さんはオレの問いに少し笑って、パセリ入タマゴサンドを頬張る雲母さんの頬を指先で撫でる。美味しいものに理性なんかいらんてことね。何も考えずにただ「味わう」を楽しむ。だからか、食べるも、愛も。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
佐久イヌ140の日常
188-196まとめ 加筆修正
2024.1.21


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?