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smashing! ごかいとそのうちわけは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。非常勤である、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして最近、伊達の後輩獣医師・設楽泰司も同居に加わった。


春先にどうしても「ずんだ餅」が食べたいって設楽が言うので、早穫れの枝豆を探して、一度一緒に作ったことがあった。

昨日の夜、こっちの平屋の家に帰ってきた設楽の手には枝豆の入った袋。今の時期のは甘いけどあんまりコクがないかもしれない。ずんだ用かなあ?そう思ったけど、なんか企んでそうな顔してたから、特に触れないでおいたんよね。

「何ですか企んでるって」
「え、何かしでかしそうな顔してたん」
「まあ、強ち間違ってはいませんが」

今日は二人ともお休みのシフトだから、さっきまで爆睡してて、先に起きた設楽が遅い朝ごはんの支度してた。休日の朝風呂はあれね、人生観が変わりそうよね。そんで出てきたらいつものフレンチトーストとかコールスローとか…あれ?何か量的に少なく感じるんだけど俺のアタマが湯当たりしてる?

「このあと、作りたいのがあるんで」
「…あア、きのうの枝豆?」
「ずんだ餅食べたくなったんで」

前はよく強請られて作ってたんだけど、設楽に作り方を見せてからは自分でも作って食べてる。もちろんハルちゃんと俺にも取っておいてくれる。大抵のレシピは一度見れば頭に入る、俺とおんなじタイプだねえ。しばらくして台所から設楽がやってきた。皿にのっかった綺麗な翡翠色のずんだ、それとお茶持って。うわあ新茶じゃないこれ?雲母さんが買っておいてくれてました。新緑の季節のこの「翠」達には、力一杯人をリラックスさせてくれる不思議な力があると思う。

「うん、旨い旨い♡甘さも丁度いいん」
「…ただ、ちょっとだけ違うんです毎回」
「ん?」
「伊達さんに作ったのとオレのと。微妙に違くて」

和菓子は手を選ぶから、人それぞれ味違う事あるんよね。そう言ってあげても設楽は渋い顔。納得できるかできないか、この子の判断基準はなんだか年寄りっぽいとこがあるなあ。野菜作るの上手な設楽のばあちゃんと話してるみたいな。あ、お元気かなあ、大好きなんよね設楽のばあちゃん。

「伊達さん、今オレ以外のこと考えてた」
「???今ずんだの味の話じゃなかった?」
「誰なんですか?なあ」
「だからずんだの話いいい!」

謂れのない疑いを掛けられる意味とは。結局ばあちゃん思い出したんだって説明して渋々納得させて。させてって何だよ俺はシロなの潔白なの!それでまたずんだの話に戻ったわけなんだけど、作り方履修してて、あ、て思ったことがあった。自分で食べたくて作るのと、人に食べてもらいたくて作るのと。そこがね、決定的に違うんよね。

それでも、俺は言ってやんないことにした。

俺は、設楽が自分で食べたくて作ったやつの方が旨いって、そう思っただけなんだけどね。





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