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smashing! オレのためだけのうたを

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士だ。

佐久間は野菜、鶏肉、コーヒー、チョコレート、変態魔神♪ハルちゃんはワイン、鶏肉、お刺身、チョコレートケーキ、俺~♪そんで千弦はね、ビール、お肉とうどんとパスタなん~♪

「オレのはないんですか」

いきなり週明けから休みになった伊達と設楽。昨日の日曜、ペントハウスに遊びにやって来た佐久間と喜多村、伊達組三人で軽い呑み会。朝早いからと早めに帰宅した喜多村たちを見送り、朝早くから僕はお仕事が、と斜めってる雲母ハルちを宥め、呑み会は早々に切り上げられたのだった。

夜早寝するとこんなふうに朝早起きになるよねえ、伊達は設楽の焼いたパンケーキにこれでもかとホイップを盛り、メープルシロップに浸して食べている。塩っぱいのもありますよ、リビングのコタツの上には粗挽きソーセージやらちょっと失敗したスクランブルエッグ、ツナサラダ等が並んでいる。

「ていうか伊達さん、オレソング聞いたことがないんですが」
「?何ソングう?」
「好物羅列する、例の」
「えーそうだっけ?」

設楽のはまだ作ってなかったかねえ、適当な返しにもめげず、設楽はパンケーキを三枚重ねで黙々と食らう。あんなにあったパンケーキタワーが見る見るうちに消える様を、伊達は嬉しそうに眺めている。

「お前あれよね、肉が好きなんよね」
「そうですね、あと日本酒と…」
「最近ワインもよねえ」
「そう、好物が増え続けてて」

伊達さんの感じたままでいいんで。設楽はそれだけ言って、パンケーキの追加を焼きにキッチンに立つ。まさかマサムネソングがそんなウケるなんて思ってなかったなあ、ひとしきり声を殺して笑い、そんならいっちょ作ろうかね、少しづつ言葉の断片を集め、低く小さな声で響き始める設楽ソングの欠片。伊達さん始めたな、粉を合わせながら、設楽は目を細めてリビングからの小さな歌声を拾う。しばらくして、小走りでやってきた伊達が、キッチンの設楽の肩越し、耳元で囁くように。

設楽は肉~そして日本酒~♪そんでハルちゃんと俺の絡み~そっからの…

「こっから先どうしよっかな、て?」

耳元で囁くという反則技のうえ、何なんだその上目遣いのアレさは。設楽お前ボウルひっくり返るん、気づけば設楽は粉だらけの手で、伊達をダイニングテーブルに押し付けていた。いやもう粉とかボウルとかどうでもいいんで。てかテーブルの上ってどうなんよ、クスクスと笑いながら絡む腕が、設楽の襟足を擽る。半開きの唇はメープルシロップに蕩け、混じり合って。

結局、設楽念願のオレソングは出来上がったのだが、とても人に聞かせられる内容ではないために、不本意だがお蔵入りとなったのだった。えーもったいないん。


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