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009/手綱を取るのは

雲母ハルさんは、ウチの患畜にすごく人気がある。ウチにいる犬のリイコは言わずもがな、大型犬のスタンダードプードルの龍馬(ウミノ湯の子)をはじめ、ハルさんが来ている時の待合室のざわめきは半端ない。お手伝いに参りましたよ、千弦のスクラブを着たハルさんに群がるお犬様。モーゼの何かしらを彷彿とさせる。ごきげんよう、皆さんとてもお元気そうですね、にこやかにハルさんが話しかけると、患畜たちはえも言われぬ表情でされるがまま。撫で回されてブラッシングされて。今気づいたんだけどさ列作ってるよおい。順番とかあるんだ?卓も大人気キャラだけど、ハルさんのはこうもっと、絶対的主従関係の際たる形、な感じだ。

無事夕診終わってハルさんを交えての夕飯。今日はオイルサーディンと玉ねぎのパスタ。これと一緒にいただきましょう、ハルさん持参の保冷バックから出てきたのはボジョレーの白。今日解禁日なんですよ、いそいそとグラスに注いでくれたワインはすごく美味しくて千弦と思わず唸った。そんでこのワインにも合うなオイルサーディン!

オレもいただいていいですか、何処から降って沸いた声は設楽たいちゃん。俺と千弦は思わずワイン吹いた。一体いつからどこから。あ今お邪魔したんでこんばんわ。ハルさんだけさすが全然平静。設楽くんは神出鬼没なんですよね、ハルさんはちょっと得意そうだ。ウチの子ってすごいんです、的なやつか。

メガ盛りで来たぞ!キッチンから戻った千弦は山盛りのパスタを持ってきた。このオイルサーディンいい匂いします、それだけ言ってたいちゃんは無言で食べ始めた。おお、一口がでかいな。気持ちよく食べてくれるんで千弦も嬉しそうだ。ハルさんはもう数本ワインを出してくれた(よくそこに入ってたな)。

明日は休みだからもう呑んじゃおう、そんで設楽ゲーム一緒にやって。千弦はゲーム機をちょっ早で設置。パスタの皿持ってゲーム機の前に座るたいちゃん。ハルさんは何本目かのワインを開けて、楽しそうに二人を眺めている。鬼丸くんもっと呑んでくださいね、どんどん注がれてく時価いくらなのワイン。

そうだ甘いのあるから出そうか、ただでなくても綺麗なのにハルさんの大きな目がさらに見開かれてワクワクしてる。なんてやつだったかな名前、冷蔵庫に向かう俺にくっついてくるハルさん。何とこれは予約が取れなくて有名なあのシェフのクレームブリュレですねまさしく神の味と称され、うん久々のノンブレス。

テレビの前で陣取るお二人さんは佳境に入ったらしく気づいてないので、先に頂くことにする。あ、たいちゃんのパスタの皿がカラに近いんだけどまあいいか、クレームブリュレは6個あるんでなんとか足りそうだ。ハルさんが恭しくスプーンで掬い上げてそっと口に運ぶ。いつも思うんだけど、仕草も表情も、極上。ハルさんはとても綺麗だ。よく千弦とも話してるんだけど、ハルちゃんはあれだな妖精さんだな、それが千弦の意見。僕は全身どの角度から見て頂いてもかまいません、よくハルさんが言ってるやつ。それってすごい覚悟がいるよなあ。そんなハルさんを擁するあの伊達先輩はすごいんだろうな。

ハルさんのほっぺが膨らんで笑いを堪えている。そんなに見つめて頂けるとは光栄ですよ、ごめんごめんつい引き込まれて。そんなハルさんにつられて俺まで笑った。あー負けた負けたあ何面白いこと?千弦がテーブルに戻ってきた。すごく美味かったです、たいちゃんは下げる食器持ってキッチンに向かってった。

クレームブリュレと白ワインも合うなあ、スイーツを酒に合わせることはあまりないけど、焼酎にチョコレートは合う。千弦もすごく満足げにクレームブリュレをぱくついている。これも肴にどうでしょう、キッチンから戻ってきたたいちゃんが持ってきたのはなんと温かいスフレ。すげえいい匂いだなあ。いつだったか伊達さんが作ったのをこっそり覚えました、あの人作ってる最中よくふざけてるからなかなか手元見えないのにすごいな、ハルさんがスフレをスプーンでひとすくい、美味しそうに口に入れた。声に出さない「ンフ」で全部わかる美味しいって。設楽くんのスフレは甘味抑えめなんですよ、と。

突然、ハルさんは何故か虚空を見つめながら呟いた。伊達さんがいらっしゃるかも。オレも感じます、たいちゃんまで。そうか?俺には何もわかんないぞ?千弦の言葉にハルさんが、なんか後ろ頭がヘンな感じなんです、と。それ俺の言うやつな。そしたら玄関がワンノックオープン。こんばんは俺が来たよー!ホラーみ強。うわあんお腹すいたあご飯ご飯んん!今日伊達さん忙しいからってハルさんが来てくれたんだったな、雅宗先輩いま何か作るよ、千弦がキッチンに向かうと、待ってえ俺も手伝うん、すげえテンションで付いてったな。あれな日頃見てるフレンドリーワンちゃん。ハルさんもたいちゃんも伊達さんの行動に全然動じてない。ヤキモチとかないんだろうか。

それにしても二人とも、同時に伊達さんの気配を察知するんだな、俺の呟きにハルさんが笑いながら、僕たちは一心同体ですから。臆面もなくサラッと。この三人の要は伊達さんだと思ってたけど、どうやら違うみたいだな。スフレのおかわりをするハルさんが大きく見える。あ、存在感だけどね。




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佐久イヌ140の日常
228-242まとめ
加筆修正 2024.2.6


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