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smashing! こころにあったさみしさを

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士だ。

兄の用事で何かとバタバタして、ペントハウスの家に戻ったのは深夜。今日は遅くなります、そう言っておいたので心配かけずにすんだと思う。暗いリビング、何故かつけっぱなしだったテレビのスイッチを切る。伊達さんがよくやるやつで、音があった方が帰って来た時嬉しくない?とか言ってたな。その気遣いは有難い。

シャワーだけ浴びてスウェット着込んで、ついでに伊達さんの部屋を覗いたら気配がない。あこれは雲母さんとこにいるな。案の定二人がベッドの上で団子状態で爆睡していた。起こさないようにドアを閉めて、キッチンに。何か軽く食べようか、そう思ったけどこれといって浮かばないから、そんな時よくやるやつ、ツナとマヨネーズをあったかいご飯にぶっかけるやつ。いわゆるコドモ食ですね御意。オレの小さい頃の好物。

ツナマヨご飯とあと冷蔵庫にあったチューハイ、伊達さんの。緑茶とか書いてあった珍しいな。頂こう。意外に合うから驚いた。ツナマヨはビールしか合わせたことなかったから。それにしてもこんなの買うだなんて、何かの数値でも気にしてるんだろうか。ざっと食器片して自分の部屋に戻る。ちゃんとベッドメイクしてくれている、どっちかが整えてくれたんだろう。有り難く寝かせてもらう。いいなこういうの。

この家はやけに静かだ。完全防音で最上階ペントハウス、余計な雑音とは無縁なのだけど、その分自分の音、心臓や耳の奥のしんとする音、そんなのを顕著に感じることがある。そして伊達さんと一緒にいたりする時の、あの人の呼吸、脈を打つ胸元がまざまざと浮かんできて。

急に思いついて部屋を出る。雲母さんの部屋のドアをそっと開けると、さっきと何も変わらず二人は眠っている。伊達さんの後側が少し空いている、その隙間に音を立てないよう滑り込んで。微かなベッドの揺れに二人の寝息が止む。んなんかツナのいい匂い、伊達さんの掠れた声。僕も食べたいです、あれこれ二人とも覚醒してないか?と思ったら、二人に緩く抱きしめられて。

ツナ、しだらツナ食った?伊達さんが鼻でオレを嗅ぎ周り、俺も食べたいん、何言ってんですかこんな夜中に、伊達さんと雲母さんの無言のお強請りの圧。んじゃまあ作りましょうか、やったあハルち!伊達さん!二人が大喜びしてるのを横目に、オレはあと二人分のツナマヨご飯を拵えにキッチンに向かう。

なんでこんなことになってんだろな、そんな思いが過るけど気にならない。二人が喜ぶなら尚のこと。ツナ缶にいつものマヨネーズとご飯を混ぜたやつで、オレはあれだ、何となくシンクロしてしまったんだろう、誰かと一緒に眠りたい、そんな小さな頃に抱いたちょっとした「寂しさ」みたいのなのに。

ツナ缶大量買いしててよかったな、なんて思いながら楽しくボウルの中でマヨネーズを混ぜ始めた、午前2時。


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