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smashing! このよのごくらくはきみ

季節のフルーツは雲母の好物のひとつだ。この時期は特に柑橘系が美味しくて、水晶文旦やハニーライムなどの珍しいフルーツが冷蔵庫に常備される。伊達の弟が実家で営んでいる果樹園からはもちろん、家の近隣のフルーツ農家からもかなりの量を仕入れたりと、伊達は雲母のために日々フルーツを欠かさないようにしているのだ。

冬の近いこの時期はどうしても、雲母の仕事が忙しくなりやすく、朝早かったり夜遅かったり。それでも出会った頃よりはましになった。雲母が二人と一緒の時間を作りたいと、大まかなスケジュール調整をしたからだ。短くてもちゃんと休暇もとれるようになった今、伊達は時間が許す限り、時には設楽と一緒に、居心地のいい空間を作っている。

今日は水晶文旦があるんですね!帰宅し早速冷蔵庫を覗いた雲母が嬉しそうに声を上げた。明日はねクランベリーが届くんよ、遅い夕食を用意しながら、伊達は歌うように雲母に伝える。明日も楽しみです、着替えてきますね、聞こえてくる鼻歌はおそらくバンタ…安定の音下がったり上がったり。

カニにすごく近いカニカマとツナにマヨネーズ、合わせてハードブレッドにのっけて。バジルと松の実で簡単なパスタ。そして水晶文旦とオレンジをカットして。部屋着に着替えた雲母が嬉しそうにソファーに座る。俺もまだだから一緒に食べようかね、微発泡のプロセッコを開けグラスに注ぐ。丁寧にカトラリーを繰る雲母のすらりとした指が、伊達はとても気に入っている。

ゆっくりと美味しそうに味わって、配信番組のトークに二人で同時に笑い出す。パスタおかわりいる?皿を片付けようと席を立つ伊達を、雲母がやんわりと制して、大丈夫お腹いっぱいです、それよりもお酒をもう少し。リビングの間接照明に少し赤らんだ目元が映えて、思わず見入ってしまう。

この時期の柑橘は本当に美味しいですね。文旦に合う、そう思って用意した酒も大当たりで、伊達はすこし得意げに、追加したプロセッコを雲母のグラスに注ぐ。あなたの用意してくださる「特別」で、僕はこうして天国を味わえるんですね。面と向かって臆面もなく、雲母の物言いはいつもこんな調子だから、伊達は困ってるのか笑ってるのかわかんない顔で、雲母の頬に手を伸ばして。

俺もよ、ハルちゃんとならどこでもヘブンリーなんよ。

そうやって重なり合う手のひらも唇も、どこもかしこも柑橘の甘酸っぱい香りに満たされるのだ。


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